テキスタイルメーカーの第一織物(福井県坂井市、吉岡隆治社長)はこのほど、自社で制作した製品サンプルをアパレルメーカーに有償で提供する新サービス「コルディス プロト(CORDIS PROTO)」をスタートした。従来、企画会社や繊維商社がODM(相手先ブランドの企画生産)では製品サンプルを提供することはよくあることだが、第一織物は1着2万〜3万円の有償で提供する。「作り手本人が着用し、テキスタイルの特性を最大限に理解した上で、モノ作りに入ってほしい」と同社。ただ、ビジネスのことを考えれば、あえて無償提供という形もある。なぜ有償なのか。背景には、同社ならではの、もの作りにかける熱い思いがあった。
第一織物は福井県坂井市に本社と本社工場を構え、高密度の合繊織物を「モンクレール(MONCLER)」「プラダ(PRADA)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「バーバリー(BURBERRY)」に販売する、日本の有力なテキスタイルメーカーの一つ。2014年からは「ミリ」デザイナーの丸川雅行氏をクリエイティブディレクターとして迎え、社内でパターンからCAD/CAMデータの作成、中国の委託工場での縫製まで、サンプルを一貫生産できる態勢を整え、一部ではODM(相手先ブランドの企画生産)も行ってきた。
丸川氏は「プロト」を始める狙いを、「サービスの開始にあたっては色々なケースを考えた。サンプルだから無償提供するという考え方もあったし、製品のCADデータもあるので単にアイテムだけでなくデータもセットで提供することも考えた。『プロト』をODM事業の一環、つまりビジネスありきの新サービスとして考えたらその方がずっといい。だがあえてそうせず、サンプルを有償で、かつ製品だけの提供にとどめたのは、『プロト』を文字通り、デザイナーとわれわれの間の試作品として、より発展させたかったから。購入してもらった上で作り手のデザイナーに着てもらうことで、テキスタイルの特徴にフィットしたパターンやデザインを理解してもらう、“レシピサンプル”という考え方を採用した。これはあくまで、『プロト』を媒介として本気でお互いに進化したいブランドとわれわれのためのサービスにしたかった」と熱い思いを語る。
1着2万〜3万円という価格はサンプル制作費のほぼ実費に近い。つまりサンプル製品を有償で提供するが、『プロト』はある種のサブスクリプションサービスに近い。「その代わり、ある種当然のことだが、『プロト』のユーザーからの問い合わせには、どんなことにも全力で対応する。当社のテキスタイルの最大の特徴は高密度で、厚地から薄地まで幅広いラインナップしているが、実際に縫製するとなると難易度は高い。また、われわれは当然、自社製品のことは熟知しているし、縫製する際のミシンのピッチ(幅)にしても、地の目(*注:生地の向きのこと)にしても最適解を自社で施策を重ねて見つけ出している。そうしたノウハウを『プロト』には詰め込んでいる。そうした全てのノウハウを『プロト』のユーザーには提供する。ブランド側が自分たち固有のデザインやディテールを加える場合でも、こちらの持つデータやノウハウ、技術を総動員してフィードバックする」という。
2022年春夏シーズンの「プロト」は3型。現在はコロナ禍で展示会への参加を取りやめているが、同社の原宿ショールームに常設展示しているほか、オンラインでの問い合わせにも対応している。「当社はテキスタイルの開発に1品番あたり1年〜1年半をかけて開発し、テキスタイルの独自性も高い。だが、それゆえ逆に縫製や服にマッチした仕様を見つけるのが難しかった。『プロト』は、テキスタイルのポテンシャルを最大限に引き上げて、アパレル市場に落とし込むにはどうしたらいいのかを考え抜いた結果、出てきたのがプロジェクト。私は、この『プロト』を通じて、第一織物のテキスタイルのすべてをユーザーに伝えたい」という。