三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、2031年3月期を最終年度とする中長期戦略を発表した。同期末までに過去最高益(14年3月期の346億円)を超える営業利益500億円を目指す。12日の決算会見で細谷敏幸社長は、「(21年3月期の)決算は非常に厳しい内容。単純に新型コロナの影響だけとは言い切れず、百貨店のビジネスモデル自体が傷んでいる」と述べた。掲げるのは就任時(21年2月)から強調していた「マスから個」へのビジネスモデルの転換だ。顧客とのつながりを従来以上に強化し、よりパーソナルで上質な百貨店サービスを追求する。同時にグループの総合力を生かした周辺サービスも充実させ、百貨店事業に頼った収益構造から脱却する。
コロナ禍で店舗の集客力を前提とするビジネスモデルが崩壊する中で、「これまでの百貨店はたくさんお客さまを店に呼び込み、買い回ってもらうことを前提にしていたが、今は必要なものを買って帰られる方が増えた」と細谷社長。同社のコロナ禍(20年4月〜21年3月)における優良顧客(年間購入額100万円以上)への売り上げは、それ以外の客向けの売り上げと比較しても堅調に推移する。「マスではなく顧客に向けて、より上質で感度の高いものを提案していかなければならない」。今後はカード会員、外商客を含め全ての顧客をデジタルIDで一括管理できる体制を構築。顧客を“個客”と捉え、一人一人について購買や嗜好、悩みごとなどの情報を蓄積し、「全ての個客とつながっている状態を作る。その上で、お客さまの困りごとや関心事を起点に商品やサービスを提供する、小売業と製造業を融合した『2.8次産業』を目指す」。
また消費者の都心離れにより、子会社三越伊勢丹の首都圏に偏重する店舗構成が、業績へのダメージを大きくした。地方の中型店・小型店の強化は急務だ。基幹店である伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店は都心百貨店としての魅力に特化させつつ、「三越伊勢丹アプリ」のリモートショッピングなどで地方店とシームレスにつなげ、魅力を引き上げる。足りないMDは自社EC「三越伊勢丹オンラインストア」で補う。伊勢丹新宿本店にある商品のECへの掲出型数は3月末で12万5000型に達した。今後は購買の決め手になる商品情報の充実など「量より質」の方向に舵を切る。
百貨店事業に偏重した収益構造からも脱却する。百貨店とグループ会社の連携を強めて、顧客情報をベースに、金融や旅行などさまざまなサービスを提案する。「今まで外部に出していた売り上げを内部で還流させる。個店・個社主義から脱却して“連邦”を作り、グループとして収益を出していく」。また、各地の百貨店を中心とした保有不動産を活用した複合開発によるまちづくりや、子会社三越伊勢丹システム・ソリューションズの情報基盤を活用したB2Bビジネスを視野に入れ、収入源を多角化させる。