ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す連載。今回はウイグル問題とファッションの関係を考える。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年5月10日号&5月17日号からの抜粋です)
先日、ファッションを題材にした映画の試写を見た。「グリード ファストファッション帝国の真実」(6月18日公開)は、イギリスを代表する奇才マイケル・ウィンターボトムが脚本、監督を務め、破綻した英ブランド「トップショップ」の経営者フィリップ・グリーンをモデルにした作品。「グリード=強欲」というタイトルどおり、アジアの劣悪な労働環境で働く縫製工場労働者の賃金を徹底的に切り詰めてコストダウンを図り、一方では流行やセレブに臆面もなく飛びつく、現代の富豪と貧民のようなコントラストをブラックジョーク満載で描く。映画には主人公が英国会に証人喚問されるシーンがある。議員は「あなたの工場の従業員は1日数ドルで働いていますね?」、一方グリーンは「俺は悪くない」。
この「グリード」のふてぶてしさとは異なるが、近い構造を見て取れるのが現在のファッション業界を揺るがす新疆ウイグル自治区問題だろう。「毎日新聞」3月24日の記事「欧米vs中国、制裁の応酬 ウイグル人権侵害 苦慮する日本」は、欧米諸国が新疆ウイグル自治区における人権侵害を理由に対中制裁に踏み切ると報道。西側諸国の企業が新疆ウイグル自治区の企業との取引停止や見直しを表明し、米バイデン政権は国連人権理事会で「中国政府による新疆ウイグル自治区の少数民族に対するジェノサイド(民族大量虐殺)」を批判した。
中国政府は2017年から現在に至るまで、約3年にわたり100万人を越えるウイグル人を強制収容してきたと言われている。中国政府は否定するものの、もしも事実なら、これは第2次世界大戦以降、最大の民族的および宗教的マイノリティーに対する強制収容となる。昨年1月にウイグル人モデルのマーダン・ギャパーが収容された独房の内部を撮影し、ベッドフレームに手錠でつながれている様子を投稿したSNSは広く拡散され、波紋を呼んだ。現役ファッション・モデルさえも、新疆ウイグル自治区ではこのように強制収容されているのだと。
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