ベイクルーズグループが運営する「シティショップ(CITYSHOP)」は、片山久美子コンセプターの産休取得中、高島屋の長尾悦美ウィメンズファッションクリエイティブディレクターがその代理を務めることを発表した。柔軟な働き方が浸透してきた今、企業の垣根を超えて女性のライフイベントをサポートする新しい試みだ。片山コンセプターと長尾クリエイティディレクターに話を聞いた。
WWD:そもそも、企業の枠を超えてタッグを組むことになった経緯は?
片山久美子「シティショップ」コンセプター(以下、片山):6月から9カ月間産休に入ることになり、後任をどうするかが大きな問題でした。「シティショップ」のチームは私を含めて6人。不在中に少ない人数でいかにブランドを存続させるか、お客さまの期待に応えられるかといったことを役員を含めて協議を重ね、復帰後も同じポジションに戻りやすいような新たな仕組み作りを模索しました。
WWD:なぜ、社内ではなく他社の長尾ディレクターに声をかけた?
片山:後任を探す上での第一条件は価値観が合うことでした。「シティショップ」はベイクルーズグループの中でも後発で、他のブランドとは少し毛色が違います。ディレクターとブランディングが直結しているため他のブランドのディレクターに任せることは難しかった。加えて「シティショップ」には、業界にこれまでなかったような取り組みもフットワーク軽く導入し、トライアンドエラーができる土壌があります。だからこそ、「シティショップ」は(会社の垣根を超える)新しい取り組みにチャレンジしてみてほしいと役員にも言われました。長尾さんとはプライベートでも友人として付き合いが長く、彼女の美意識や価値観には以前から共感しています。高島屋スタイル&エディット(STYLE &EDIT)と「シティショップ」で、これまでに3回コラボレーションした実績もあります。私が店作りをする上で大切にしていることなどもきちんと理解してくれているので彼女は適任でした。
WWD:高島屋側はすぐに許可が降りた?
長尾悦美高島屋ウィメンズファッションクリエイティブディレクター(以下、長尾):高島屋は数年前から副業を認めていますが、同業他社の仕事を行うのはグレーゾーンでした。ただ、私は去年の4月に外部との連携を増やすことをミッションに、正社員から嘱託に契約を変更したんです。肩書きもバイヤーからディレクターに変わりました。以降、セール時期の店頭での販売などの業務負担が減る分、ウィメンズ領域に限らないディレクションや販促なども手掛けるようになり、フレキシブルに動いています。
WWD:デュアルワークを推進する今っぽい働き方だ。
長尾:百貨店の婦人服が低迷している原因として、主に大手アパレルメーカーに取り引きが限定されてきたことやPR力の低さなどがよく挙げられます。外部と連携することで、次世代の顧客の獲得や新たなビジネスチャンスにつながればと、会社からは期待されています。また、コロナ禍で多様な働き方に光が当たるようになった今のご時世だからこそ、会社も柔軟に対応してくれた部分はあると思います。
片山:働き方を見直し、効率よく生産性を上げていくかが重要視されている今だからこそ実現できた気がしますね。
WWD:高島屋も大手百貨店として女性の働き方への意識は高いが、ベイクルーズも産休・育休から復帰して活躍するママ社員が多い。
片山:そうですね。30~40代で活躍している女性も多いので、比較的前向きに制度作りには取り組んできた会社だと思います。ただ、私個人としては、20〜30代のころは出産年齢のカウントダウンもある中で、女性としての人生に対する不安をずっと抱えていました。バイヤーの仕事は非常に楽しく、充実していますが、海外出張も多く、激務なので子どもができたらやめるしかないかもしれない、産休・育休で不在の間にお客さまが離れてしまうかもしれないなど、いろんなことを覚悟していました。今回のイレギュラーな取り組みを認めてくれた会社には感謝しています。他のスタッフのロールモデルになれたらうれしいです。
WWD:「シティショップ」での長尾さんの具体的な仕事は?
長尾:来年の4月末までの間、ベイクルーズに週2回出社し、22年春夏商品の買い付けを行います。「シティショップ」での仕事は百貨店とは全く異なります。百貨店は私が好きなものだけでなく、立地ごとのお客さまのニーズに幅広く応えることが重要です。一方で「シティショップ」は片山さんの脳内を具現化する作業です。「シティショップ」でしか挑戦できないようなスタイリングの提案なども楽しみです。(高島屋とは)真逆のことをやるほうが、私にとっても、高島屋にとっても価値になると思っています。
WWD:長尾さんが「シティショップ」在籍中に目標にしていることは?
長尾:私が刺激になり、スタッフのモチベーションをさらに上げることでしょうか。私が培ってきたスタイルや感覚を伝えることが、会社の枠を超えて業界の次世代を育てることにつながればと思っています。
片山:うちのスタッフもそれをすごく楽しみにしています。私と長尾さんは価値観は似ているけど、これまでの人生で経験してきたことは違うので、スタッフがどう吸収してくれるか私も楽しみです。こういうふうに女性が長く働ける仕組みを作っていくかないと、新しい世代がこの業界に入ってこなくなりますよね。