安心して産休に入れるひとつの形 そして高島屋の長尾さんはベイクルーズで副業
これはいい写真ですね!高島屋で活躍する長尾ディレクターが、ベイクルーズの「シティショップ」のコンセプターを一時的に兼任するニュースの写真です。「シティショップ」の現コンセプターである片山さんが産休に入り、その間は長尾さんが高島屋と兼務で「シティショップ」も指揮するそうです。並んで写真に収まる2人の間に見えないバトンを見るようで、その落ち着いた笑顔にぐっと来ました。
少し前のこちらのレターでも書きましたが、出産を機に望まない離職をせざるをえない女性がまだ多いのが日本のファッション業界の大きな課題です。そのことは本人だけではなく、“大人のニーズに応える服の提案が不十分である”といったアパレル市場のマイナス要因になっています。
このニュースの背景には、当人たちだけではなく、関わる人たちの意思や決断が見てとれます。産休をしっかりとる、その間にブランドも成長させる、複職で視野を広げて所属会社にも還元する。言うは易しでそれを実行に移すには多くの人の利益や感情や夢を救い上げつつどこかで誰かが決断をする必要がありますから。
我ながら良い仕事をしたと、誇りに思っている取材の一つに2006年、当時「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターだったフィービー・ファイロが出産を機に退任することを決めたシーズンのショーの取材があります。
すでにお腹が大きかったフィービーは当日、客席でショーを見るとの前情報をゲットしました。そこで私は会場に早めに入り、フィービーが座るであろうエリアの対面のスタンディングエリアの最前列を死守しました。そしてショーが始まる直前にカメラマンにそのスペースをパスしました(カメラマンが早い段階から立つととセキュリティの目に留まり追い出されてしまうため)。当時、フィービーの「クロエ」は人気絶頂でものすごい人込みだったのでまさに“死守”という言葉がぴったりでした。
私が残したかったのは、人気絶頂のキャリアを築きながら出産のために離れるフィービーの表情でした。当時30代で仕事と出産について思いを巡らしていた自分と重ねていたところがあると思います。リアルクローズという概念をパリコレに本格的に持ち込んだ彼女は、仕事とプライベートの間で何を思うのか、それを言葉ではなく写真に残したいと思ったのです。結果は、カメラマンさんのおかげで素晴らしい写真を残すことができました。
ショーのフィナーレで、フィービーは客席から立ち上がり、挨拶に登場した自分のチームに向かって大きな拍手と笑顔を送りました。その姿をカメラはしっかりと収めました。潔いフィービーは本当にカッコイイ。だからこんな素敵なデザインをするのだ、と納得しました。そんなフィービーは出産後「セリーヌ」のクリエイティブ・ディレクターとして大活躍したのはご承知の通りです。
長尾さんと片山さんの写真を見て私はあの時の光景を思い出しました。出産という大切な、そして大きな転機と積み重ねてきたキャリアの両立は本人だけではなし得ません。
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