三陽商会は今期(2022年2月期)、低迷するブランド事業の再構築に本腰を入れる。同社の収益の大部分は百貨店向けブランドであり、改革の成功に社運がかかる。また百貨店の集客力そのものが低下する中、長期的な成長を望むには、新たな市場の開拓も課題として横たわる。
前期は160店を閉鎖し、180人が希望退職する構造改革を実施した。「痛みを伴う改革には一定のメドがついた」と大江伸治社長。今後は成長戦略のフェーズに移行し、「マッキントッシュ フィロソフィー(MACKINTOSH PHILOSOPHY)」「マッキントッシュ ロンドン(MACKINTOSH LONDON)」「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ(BLUE LABEL/BLACK LABEL CRESTBRIDGE)」「ポール・スチュアート(PAUL STUART)」「エポカ(EPOCA)」など戦略ブランドに集中投資。今期中に各ブランドの具体的な戦略方針を盛り込んだ中期計画を発表する。
百貨店向けブランドに偏重した事業構成があだとなり、コロナによる休業・客足減が響いて、前期で5期連続の最終赤字となった。それでも大江社長は、「われわれの強みはあくまで(百貨店販路を中心とした)アッパーミドル市場。ラグジュアリーブランドほどではない価格で、デザインと品質を両立した商品を提供していく。ここにはまだまだ開拓の余地がある」と姿勢を崩さない。「コロナが終息すれば需要は一定程度元に戻るだろうし、リバウンド消費も見込める」。構造改革によるコスト削減も進み、「着実に黒字化を見込める体質に変わりつつある」。
だが若い消費者を取り込めなければ、売り上げは確実に萎んでいく。新ブランドや新ラインの開発で、20〜30代の市場でも「一定の(売り上げの)パイを取っていく」考え。2021年春夏には「マッキントッシュ フィロソフィー」から派生した、20〜30代向けの新ライン“グレーラベル(GRAY LABEL)”をスタート。新宿ルミネ2と二子玉川ライズS.C.に3月単独店を出店した。同社が主販路としてきた百貨店ではなく、「都市型の高感度な商業施設」(同社企画担当者)を中心に、3年以内に10店舗弱の出店を計画する。
若年層のトレンドデザインと
既存ブランドにはない発信手法
オーセンティックなブリティッシュスタイルのメインラインと比較すると、ゆったりと体のラインを拾わない、若年層のトレンドを捉えたシルエットのものが多い。ユニセックス着用できるアウターを基軸に、ニュアンスカラーで上品なムードを漂わせる。価格(税込)はコートで3万9600円〜7万9200円、ジャケットやブルゾンが3万7400円〜4万8400円、トップスが8800円〜2万4200円、ボトムスが1万7600円〜2万6400円、ワンピースが2万4200円〜2万6400円と、メインラインよりもおしなべて1割ほど安い価格設定だ。
ユニセックス提案のアウター類は、メンズ・ウィメンズでデザインは共通だが、それぞれ別のサイズ展開を用意し、パターンも微妙に変えている。「近年は市場にユニセックス提案のブランドが増えているが、やはり男女で似合うパターンは違う。当社らしい、きちんとしたモノ作りで差別化していきたい」。21-22年秋冬はウールリネンのツイードコート(7万9200円)が目玉アイテム。ビンテージのゴム引きコートから着想したクラシカルなデザインをモダンなシルエットに落とし込んだ。
メインラインとは別のブランドのような雰囲気も漂うが、「マッキントッシュ フィロソフィー」の冠を被せたのは、顧客の高齢化が進むブランドの新たなファンを育てるためだ。すでに出店している2店舗では、購入客のうち20〜30代が6割。同ブランドの企画チームも同年代の若い社員を中心に構成しており、発信面でもインフルエンサーのkinokoを起用してユーチューブやインスタグラムで宣伝するなど、既存ブランドにはない手法を取り入れる。3月はブランド単体の売り上げ計画に対し3%上振れする好調だった。「メインラインとのシナジーを出すには、(“グレーラベル”の現在の客層は)やや若すぎる」(大江社長)ものの、新たな客層の開拓には一定の手応えを得ている。
比較的若い層へ向けたブランドでは、19年秋にスタートした20代後半の働く女性がターゲットの「キャストコロン(CAST:)」がある。出店拡大による在庫過多に苦しみ、「事業存続ができるかどうかのまな板に乗っていた」が、前期に店舗数を29から13まで絞ることで「黒字化が見えてきた」。初シーズンの商品展示会では、異素材使いで大胆に切り替えたコートなどを筆頭に、三陽商会の企画力が光っていた。同時に、自社制作の短編映画に商品を登場させる“シネマコマース”をコマーシャル手法として打ち出していたものの、これは目立った成果は得られなかったようで、以降は制作されていない。
新型コロナにより百貨店の集客力は急速に衰えた。いい立地に店を構え、いいものを並べていれば売れる時代は終わった。しかし百貨店ブランドで築き上げてきた同社の確かな商品力は、これからを戦う上でも大きな強みになる。その魅力に触れたことがない若い客に、どう伝え、届けていくか。“発信力”が一層問われることになる。