ファッション

決算書を読むべき理由とその魅力とは?【齊藤孝浩ビジネスセミナー第2弾】

 「WWDJAPAN」は、決算書からその企業の強みや課題を解説する好評連載「齊藤孝浩のファッション業界のミカタ」をベースにしたセミナーを、5月28日から隔週にわたる計4回の短期集中セミナーとして開催する。在庫最適化コンサルタントの齊藤孝浩ディマンドワークス代表に今、決算書を読むべき理由とその魅力を聞いた。


齊藤孝浩ディマンドワークス代表/ファッション流通企業の在庫最適化コンサルタント
PROFILE:(さいとう・たかひろ)1965年東京生まれ。総合商社のアパレル部門でOEM生産営業やヨーロッパブランドの日本法人立ち上げを経験した後、98年に政府の留学プログラムで渡米。新興ブランドの輸出代行を手がける。帰国後、アパレルチェーンにてバイヤー、取締役営業本部長、経営企画室長を歴任し、2004年有限会社ディマンドワークス設立。成長中ファッションチェーン向けに、在庫コントロールのための組織づくりと人財育成コンサルタントとして、これまでに20社以上の業界注目企業を支援し、うち6事業の年商100億円突破に携わっている。著書に「アパレル・サバイバル」(日本経済新聞出版)、「ユニクロ対ZARA」(日経ビジネス文庫)、「人気店はバーゲンに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識」(中公新書ラクレ)。ファッション流通に関するブログも随時更新中


WWD:決算書は用語の意味が理解できても、業界や業種ごとに注目すべきポイントや数値が異なり、“使いこなす”のがなかなか難しいと思います。まず、齊藤さんが決算書を読み始めたきっかけから教えてください。

齊藤孝浩ディマンドワークス代表(以下、齊藤):30代半ばにアパレルチェーンに転職し、経営幹部として受けた研修がきっかけです。チェーンストア経営専門コンサルティングの故渥美俊一先生が設立した研究団体で、ペガサスクラブというのがあるのですが、そこで渥美先生の指標と自社の数字とを照らし合わせながら、何が強みで、何が弱みかを把握したり、他社と比べて自社の効率はどうなのか、ここをどうやれば数字が改善するのかというようなことを実践的に学びました。そこで「経営効率」に興味が湧き、経営決算書だとか財務諸表の数字に目覚めました。

 その後、在庫コントロールのための組織づくりや人財育成のコンサルタントとして独立し、今に至ります。機関投資家向けの証券会社の勉強会も毎年2、3回行っているので、そこで飛んでくる質問に対して理論武装するためにも、より決算書に目を通すようになりました。

WWD:どんなところに決算書の面白みを感じますか?

齊藤:例えば、一般的に企業って大きくなると販売効率が悪くなるんです。組織運営が難しかったり、拡大を優先するから効率の悪い出店をしてしまったり、むやみに人を増やしてしまい、売上高は拡大しても、経営効率が悪化し、利益が落ちていくケースが圧倒的に多い。でも、成長企業の決算書の数字を見ていると、小手先ではなく、中長期的に、そういう事態をうまく回避していることに気付けるんです。「ユニクロ対ZARA」(2014年初版、日本経済新聞出版)にも書きましたが、ユニクロは昔から1年当たりの出店数があまり多くない代わりに、店舗を大型化していくことによって売り上げを伸ばしているんです。数字を見ることで、「ちゃんと企業の拡大と人の成長のバランスを考えてる会社だな」ということに気が付けました。すると、まるでビジネス書のストーリーを読んでるような気持ちになるわけです。

WWD:決算書からそういうことに気付けると。

齊藤:読むだけでは分からないです。数字を並べたら分かるんです。気付くためには、まず問題意識が大事ですね。決算書は堅苦しい言葉が多いですし、“自分ごと”として向き合わないと全然頭に入らないんじゃないでしょうか。
私は勤めていたアパレルチェーン企業の中で経営企画チームに入ったんです。営業担当役員でしたが、いろんな役員の混合による経営企画チームがあり、そこが勉強したことをアウトプットする場にもなりました。販売効率が低いとか、粗利率が低いとか、利益率が低いとか、人件費の比率が高いとか、1人当たりの売上高が低いとか、課題って絶対にいろいろあるはずなので、まずはその課題を特定して、他社はどうなんだろう、と考えることが“自分ごと”化の一歩だと思います。

WWD:なるほど。数字として客観視でき、成長している企業がどのように利益を確保できるかを知ることができますね。また、そことの比較によって自社の改善策も探れるということですね。

齊藤:はい。あと、自分の仕事が自社やクライアントの利益にどう貢献するのかを考える上でも、大事だと思っています。誰しも「頑張ったんだからもっと給料を上げてほしい」と思うものですが、会社の利益になるような頑張り方をしなければ、会社としても給料を上げることはできないわけです。会社の利益に自分がどれだけ貢献できているのか。自分の給料の3倍の粗利を生み出すようでなければいけない。そういうことを考える材料としても財務諸表は重要です。例えば、私はコンサルをしていますが、頂く報酬を大きく上回る利益を生み出せれば、コンサル料はクライアントにとって「費用」や「経費」ではなく、「投資」と言えます。会社やクライアントにとって、「投資」となるようなコンサルティングであるべきだと自分でも考えて仕事をしています。

WWD:経営に携わるような人だけでなく、個人の働き方を考える際にも生かせますね。企業分析をする際に、決算書以外で重視していることは何ですか?

齊藤:一つは経営ビジョンです。その会社もしくは経営者さんが、どこから来てどこへ行くのかという経営ビジョンが見えてくると、「すごいな」とか、「応援したいな」と思います。そのビジョン実現の取り組みの結果として決算が出ます。ビジョンと結果のセットで見ることが大事です。

 また、小売業に関して言うと、「売り場は経営の縮図」だと考えます。経営イズムが浸透している売り場を見ると「ここの経営者さんはすごいな」と惚れ惚れします。定点観測もよくしますし、同時期に同じブランドのお店を何店舗か見て、共通点やあえて変えている点を見たりします。あとは来店客の反応ですかね。それがある意味、全ての答えかもしれない。お客さんがわくわくしたような反応をしてるようなところは、「ちゃんとそういうふうに設計している」と分かりますし、つまらなさそうに買い物してるなら、「学ぶことは少ない」と思いますね。

WWD:齊藤さんからは常々小売りへの愛を感じます。

齊藤:インテリアショップの息子として生まれ、小さいころから接客する父の背中を見ていたからかも知れません。母親は服装学院の講師出身で、家では工業用ミシンを踏んでいました。そういう環境で育ち、1990年代、商社勤務時に出張でアメリカに行って、チェーンストアの豊かさを知りました。いい物が安く売られていて、「小売りの世界ってこういう世界であるべきだ」と。以来、どうやればそういう世界を作り出せるのか、というのが私の仕事のテーマでもあります。

WWD:成長するグローバル企業を知ることで得られるヒントはたくさんありそうです。

齊藤:自分たちより効率のいい会社を見て、「なぜなんだろう?」と好奇心が湧くじゃないですか。解決したい課題のヒントがここにあるよって感じですよね。すごい企業が何を考え、その結果が表れているのが決算書です。自社の目標やロールモデル(お手本)を見つける上で、これほど参考になる生きた教科書はありません。ぜひ皆さんにもその面白さを知ってもらいたいです。


 「WWDJAPAN」では、数字に強くなりたい若手社員から、役員や経営企画として会社経営に携わっている方まで全ての方を対象にした齊藤孝浩氏を講師に招いたビジネスセミナー。今回は、「ユニクロ」「GU」などを擁するファーストリテイリングや、「ザラ」のインディテックス、ファッションECモール大手ZOZOなどの決算報告書から成長を読み解くとともに、最新動向への見解も交え解説します。
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