ロエベ財団(LOEWE FOUNDATION)が主催する第4回「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2021(LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE2021以下、ロエベ クラフト プライズ)」が、大賞および特別賞を発表した。本年度は100カ国、2500点を超える応募があった。ロエベ財団は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、受賞者の発表を昨年春から延期していた。
大賞は中国人作家の「見たことがない」作品
大賞に選ばれたのは、1989年生まれの中国人リン・ファングル(Fanglu Lin)によるコットン製の作品“シー(SHE)”だ。縦3メートル、横6メートルの巨大な壁面インスタレーションは、 中国雲南省に暮らす少数民族ペー族の女性が1000年前から継承する絞り染めと縫製技術から影響を受けている。ファングルにはトロフィーと賞金5万ユーロ(約650万円)が贈られた。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=「ロエベ(LOEWE)」クリエイティブ・ディレクターは大賞作品について「包み込む雲の風景画のようで、これまで見たことがないほど素晴らしかった。過去10年でテキスタイルは進化し、工芸と現代アートの中で重要なインスピレーションソースとして存在感が強くなっているのを顕著に示している」と語った。アンダーソンが工芸に関心を持ったのは、テキスタイルデザイナーで陶芸に情熱を注いでいた祖父の影響が大きく、テキスタイルの工芸作品が大賞を受賞したことに感慨深い様子だった。
特別賞は1979年生まれのチリ人ダビド・コルバラン(David Corvalan)と、静岡出身の陶芸作家・崎山隆之(63)の2人が受賞した。コルバランは銅線と樹脂を使った地形学的彫刻作品“デゼルティコ(DeserticoⅡ)”で、チリ・アタカマ砂漠における銅採掘産業に対する批判と人類の行動が自然にどのような危険をさらすのかを表現している。崎山の炻器の器“聴涛”は、潮の干満と海流を表面のパターンで表現し、二重壁の構造で永遠に動き続ける海を表現した。
「ロエベ クラフト プライズ」はアンダーソンが発案し、優れた美的価値を持つ作品を生み出す職人の認知拡大とサポートを目的として16年に設立された。本年度は新たなデジタル形式の取り組み「ザ ルーム(The Room)」も公開。オンラインプラットフォームで過去115名のファイナリストの作品や作家の連絡先、ギャラリーの情報などを公開し、クラフト支援の取り組みの一環として今年から開始した。アンダーソンは「非営利で運営する『ザ ルーム』は、現代のクラフツマンシップを称え、作家やギャラリーを長期的に支援し続ける目的で設立した。昨今、人々の工芸作品に対する意識は変化しており、伝統技術を継承することの大切さを認識し始めている。世界有数の職人による作品を発見し、研究し、収集する機会を提供する場にしたい」と述べた。
日本の工芸は「世界をリードする」
同プライズでは19年に漆作家の石塚源太が日本人初の大賞を受賞し、今回は審査員として参加。18年に特別賞を受賞した陶芸家の桑田拓郎は、「ロエベ」20-21年秋冬シーズンのウィメンズコレクションでコラボレーションしている。その他数多くの日本人がファイナリストに選出されてきたことを受けて、アンダーソンは日本の工芸に対する印象を語った。「日本は工芸の豊かな歴史があり、その技術と作品を守り続けているため極めてレベルが高い。これは陶芸や漆、テキスタイル、ガラス細工など全ての分野に当てはまる。日本はおそらく、工芸において世界をリードする使命を持っているのだろう。毎年、素晴らしい応募作品の中から選出するのは難しいのだが、崎山さんは現役の陶芸作家の中で最も重要な人物の1人なので、特別賞を贈ることにした。彼の作品にはエネルギーが満ち溢れ、唯一無二の独自性がある」。
本年度のファイナリストの作品も新型コロナウイルスの影響により、パリ装飾芸術美術館(Musee des Arts Decoratifs)からデジタルでの展示に切り替えられた。受賞者の発表と同時に公開された映像では、3Dで映し出された同美術館の大広間で、展示会を歩き回る感覚で作品を鑑賞することができる。発表の延期やデジタル展示会に変更となったが、アンダーソンはこの1年で工芸の新たな魅力を発見したようだ。「世界で何が起ころうとも、人々は何かを作りたいという衝動を持っている。過去の作品は、時代を超越して私たちの創造力を育んでくれる。“手”から生み出される工芸のタイムレスな素晴らしさに、信じられないほど感化された。自宅にある多くの陶芸作品を改めて眺めていると、私の創造を具現化するのにとても役立っていることに気づいた」。またインタビューの最後には、コロナ終息後に楽しみにしていることについて口にした。「ヨーロッパ以外への旅行ができるようになれば、日本が最初の渡航先になるだろう。京都の樂美術館は私にとってインスピレーションを与えてくれる場所。再訪する日が待ち遠しい」。