世の中から“オリエンタル”な香りが消える?
昨年5月に黒人男性のジョージ・フロイドが白人警察に押さえつけられて窒息死した事件ですが、ついに警察官に有罪評決が出ましたね。最近はアジア人への差別の撤廃を訴えかける「#STOPASIANHATE」も話題ですが、これらの波はファッションやビューティ業界にも及んでいます。キャンペーンに起用するモデルの多様性はもちろん、昨年からビューティ企業の多くが「美白」にまつわる表現を使わなくなりました。
そして少し前から問題になっているのが、「オリエンタル」という言葉です。「東洋の〜、東洋的」を指す言葉ですが、香水業界ではスパイスなど、アジアの原料を用いた香りによく使われます。「ウッディ」「アクアティック」「グラマン」と並ぶ、一つの香りの系統として確立されています。ちなみに「オリエンタルな香り」というと、みなさん何を思い浮かべますか?代表的なのはインドのプリンセスマハルにオマージュを捧げた「ゲラン」の“シャリマー”や、イヴ・サンローランが東洋への憧れをイメージして作った“オピウム”などでしょうか。どちらも世界的に有名で、人気の香りです。
「オリエンタル」という言葉は海外では差別的と捉えられることが多く、実際にオバマ前米大統領は2016年に公的文書における「オリエンタル」や「ニグロ」の使用禁止を定めました。アジア人に対して「オリエンタル」と呼ぶのは差別的な中で、アジアにインスパイアされた香りを「オリエンタル」と呼ぶのは差別的なのでしょうか。
正直、いろいろ議論はあると思います。これまでの歴史的背景からすると差別と捉えてもおかしくないですし、一方で本来の「東洋の」という意味で捉えれば、東洋の原料を使うこと自体は必ずしも差別的とは言えないでしょう。ただ美白製品と一緒で、悪意がなくても、差別的な意図がなくても、今の時代は適切な表現ではないのかもしれません。海外の記事をいろいろ読んでいると、今後は「オリエンタル」の代わりに、直接原料を説明するような表現や「スパイシー」「ウォーム」「スモーキー」といった言葉使いが主流になりそうです。
皮肉にも日本にいると「オリエンタルな香り」という表現に対して、そこまで違和感を感じずにいました。受け取り方は人それぞれかと思いますが、言葉の選び方ひとつにしても、世の中に起きているニュースを読み解くにも、ますますグローバルな視点を持つ必要性を感じる最近です。
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