生活圏に入り込む「無印良品」
5月25日の日経新聞「セブン、コロナで反省」という記事を興味深く読みました。どこも同じ品ぞろえにする「標準店モデル」で発展してきたセブンイレブンが、立地別の店づくりに乗り出すといった内容です。
新常態によってスーパーマーケットが好調なのに対し、コンビニは苦戦しています。セブンイレブンは住宅地、都心のオフィス街、郊外の幹線道路沿いなど至るところにありますが、特に在宅勤務の増加によってオフィス街での減収が止まりません。都心での日常生活に弱い収益構造があらわになった。記事で同社幹部の「通勤、通学、行楽など人が移動することで需要が発生するのがコンビニであり、セブン」とコメントが印象に残りました。生活密着型と思われていたコンビニでさえ、人の移動によって需要が発生している現実が分かります。
ファッションはコンビニ以上に人の移動で成り立ってきた商売です。通勤、通学するから繁華街の売り場に立ち寄る。大切な人に会うから、あるいは旅行するから新しい服が欲しい。一般に移動や行動が活発な人ほどファッションにお金を費やす傾向にあるといえるでしょう。コロナはその足を止めてしまいました。
ファッション企業の2020年度決算にそれは如実に表れています。ユニクロ(ファーストリテイリング)、しまむら、無印良品(良品計画)、西松屋チェーン、ワークマンといった日常着に近い業態は好業績なのに対し、百貨店や百貨店向けアパレル、セレクトショップといったお出掛け服を得意にする企業は大苦戦しています。
現在、3度目の緊急事態宣言によって商業施設に休業要請が出されています。営業が認められているのは自治体が「生活必需品」と定める分野。決算で明らかになったコントラストはさらに鮮明になっていくでしょう。
そんな中、「無印良品」は生活必需品へのシフトを加速しています。
> 「無印良品」生活圏に出店拡大 地方・郊外のスーパー隣接地など
「無印良品」の店舗は、ターミナルなど都心に偏重していました。それを今後は地方都市やベッドタウンの生活圏に出店の軸足を移す。スーパーマーケットやホームセンターのような近隣商圏に向けて営業する店舗の隣接地、あるいはスーパーマーケット内に出す。立地環境によって売り場面積や商品構成も柔軟に変える。すでに石川県野々市市(人口5万人)、岐阜県高山市(同8万人)でスーパーの隣接地に出店しています。こういった取り組みを全国に広げるようです。
横浜の郊外である港南台に今月オープンした「無印良品」は、関東では初めて生鮮三品(青果、鮮魚、精肉)を扱う大型店です。
> 「無印良品」が横浜市と連携し「地域の困りごとを解決」 関東初のスーパー併設店がオープン
良品計画による生活圏へ出店計画は、コロナ前から準備されていました。コロナで自社の立ち位置を再認識し、アクセルを踏んだと言ったほうが正確でしょう。衣食住のあらゆる商品を扱う「無印良品」は「人の移動」による需要だけでなく、日々の暮らしの中でこそ求められている。そのために品ぞろえからサービスまで地域のニーズに合わせた「個店経営」を推進する。
標準店モデルの掛け算(出店拡大)によって発展してきたチェーンストアも、コロナによって新しい局面に入っていきそうです。
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