緊急事態宣言下であってもファッションをあきらめたくない!――前回に続いて国や都の要請を守りつつ、そんな気概を実践する人たちを紹介したい。今回は“日本橋で鮨”だ。
登場人物は、シューズブランド「ヒロシツボウチ(HIROSHI TSUBOUCHI)」のデザイナー坪内浩さん(68歳)、シチズン時計やイタリアのシューズブランド「ア・テストーニ(A.TESTONI)」のPRを務める由田企画の木村則生プロデューサー(54歳)、尾崎雄飛「サンカッケー(SUN/KAKKE)」デザイナー(41歳)の3人。向かったのは日本橋高島屋S.C.の裏手にある、1879年創業の吉野鮨本店。“トロ”という呼び名が誕生した老舗だ。
WWD:今日は3人とも、とてもクラシックな装いですね?
木村則生・由田企画プロデューサー(以下、木村):事前の打ち合わせを経て(笑)、3人とも今日は「サンカッケー」のセットアップです。
WWD:こうして着飾って集まることはよくあるんですか?
尾崎雄飛「サンカッケー」デザイナー(以下、尾崎):コロナになってからは、とんとなくなってしまいましたが、一番初めはもう7年前。ここ、吉野鮨本店にお邪魔しました。
WWD:7年前!歴史ある集いなのですね。
木村:でも、ぎゅっとすると3日くらいになってしまうのでは(笑)?
尾崎:“ブレザー縛り”で代々木公園でピクニックしたこともありましたね。
WWD:初回の“吉野鮨本店の会”は、どういったいきさつで?
木村:坪(内)さんのオススメでした。
坪内浩「ヒロシツボウチ」デザイナー(以下、坪内):もう40年も前のことですが、江戸前鮨に凝っていた時期があって、それこそ東京中の名店を食べ歩きましたが、吉野鮨本店は群を抜くプライスパフォーマンスでした!当時は先代のご主人が腕を振るっていましたね。
吉野正敏・吉野鮨本店5代目(以下、吉野):長いことごひいきいただき、ありがとうございます。
着飾るを放棄するのはさみしい
WWD:コロナによって着飾って出掛ける機会が減っています。
坪内:でも、僕はスーパーに行くときもこれなんです(笑)。真夏でもジャケットやネックウエアがないと、落ち着かなくて……。
尾崎:坪さんはちょっと特別ですが(笑)、僕もデザイナーとしてその姿勢は見習わなくてはと思っています。
木村:お2人を前に話しづらいんですが……、僕もSNSで“日々の服装”というハッシュタグを付けて写真をアップしています。これがあることで、“ちゃんとしなくちゃ”と自分に喝を入れられています。
尾崎:デザイナーって“場をつくること”も仕事だと思うんです。そうしないと着ない服ってありますし。
坪内:セレブリティーブームのころ、高級ホテルでもレストランでもTシャツ&ジーパンがかっこいいという風潮があったと思います。でも、きちっとした格好で出かける楽しみが本来はあるはず。様式美というのか。
尾崎:気分もあがりますよね?だから僕は今日をとても楽しみにしてました!
坪内:お店の方が内装やサービスまで心配りしているのに、そこに参加して一つになる自分が勝手では全体にマイナスです。
木村:確かに、着飾るを放棄するのはさみしいですよね。
尾崎:一方で、紳士服はどうしても“ねばならない”に傾倒しがち。それだと敷居が高くなってしまい、若い世代が入ってこられなくなってしまうと思うんです。
吉野:それって鮨にも通じるところがあります。場所柄、特に「入りづらい……」という声をお聞きするんですが、鮨は江戸時代のファストフード。食べる順番にルールなんてないし、好きなものを好きなだけ食べてほしいんです。
WWD:初来店する方にとって、背中を押してくれるメッセージですね。
尾崎:僕は今41歳で、先輩方と若者の“つなぎ役”だと自負しているんです。だから自身のユーチューブで、なるべく分かりやすく紳士服について解説しています。
木村:実際、コメント欄には若者とおぼしき方からの質問が多く、活性化していますよね。
坪内:僕も決して無理しているのではなくて、この格好が好きなだけなんです。それに、着飾ることはコミュニケーションのきっかけにもなります。先日、町のうどん屋で若い女性店員さんに「かわいいですね」と声を掛けられました。いくつになっても、うれしいもんですよ。
尾崎・木村:えっ、どこのうどん屋さんですか?次回の会合はそこにしましょう(笑)。
コロナ禍で、日々“スーツが売れない”“革靴が売れない”“バッグが売れない”とニュースを伝えている。事実だし、それが仕事なのだが、どうしても気が滅入る……。3人の着飾った紳士を見て、またじっくり話を聞いて、“やっぱりファッションは楽しくなくちゃ!”と思った。