ドイツの首都ベルリンは“ファッションの主要都市”とは言えないが、ストリートやクラブカルチャーをベースに独自のスタイルを確立している。そんな街の背景から生まれたファッション&カルチャーメディアを代表するのが、雑誌だけでなくアパレルも手掛ける「032c」と、オンライン媒体を中心に感度の高い若者にコミットする「ハイスノバイエティ(HIGHSNOBIETY)」だ。広告収入だけに依存しない多角的なビジネスモデルと世界を意識した英語コンテンツで成功した2媒体の編集長に、それぞれの考え方や新たな取り組みを聞いた。
雑誌とファッションブランドを軸に世界観を表現する「032c」
2000年に創刊した「032c」は、ギャラリーのようなプロジェクトスペースの活動の一環として、DIY的アプローチで制作されたファンジンからスタート。20年間でファッション&メディアのプラットフォームへと進化した。「私にとって、『032c』が20歳になって異なるものへと変化し商業的に成功したことは、奇跡のようだ。正直なところ、当初はそんな意向はなかったからね」と、同誌を立ち上げたヨルグ・コッホ(Joerg Koch)編集長兼クリエイティブ・ディレクターは打ち明ける。そして成功の理由を、「当時、私たちはお金がなかったので、資金を投入せずに時間を費やした。2、3年の間に雑誌は発展し、独自のアイデンティティーを見つけ、それが雑誌の強さの一部になったのだと思う。今ではベルリンを含むヨーロッパの都市の生活費が高くなりすぎて、このようなことはできないだろう。しかし、1990年代後半や2000年代初めのベルリンでは、あまりお金をかけずに実現することができた」と説明する。
“自由、探究、創造性のためのマニュアル(Manual for Freedom, Research & Creativity)”をコンセプトに掲げて年2回発行している同誌の特徴は、取り扱うジャンルやコンテンツのミックス感。ラグジュアリーやデザイナーズからストリートまでのファッションや、音楽、アート、エンターテインメントといったカルチャー、建築、時には政治までもが、1冊の中に共存する。例えば、昨年12月に発売された20周年を祝う最新号では、ベルリンを拠点にするライターやリサーチャー、アートディレクターなどから成るテック&メディア・コレクティブのニューモデルズ(New Models)が「032c」の軌跡をテキストとビジュアルでまとめたほか、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズと「オフ-ホワイト ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」を手掛けるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が過去20年分の誌面から黒人クリエイターの表現をテーマにした作品を制作。ダニエル・リー(Daniel Lee)「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」クリエイティブ・ディレクターや、マシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)「ジバンシィ(GIVENCHY)」クリエイティブ・ディレクター、画家のデイヴィッド・ホックニー(David Hockney)、ランド・アートを代表する芸術家のマイケル・ハイザー(Michael Heizer)、撮影監督のロブ・ハーディ(Rob Hardy)、ラッパーのガンナ(Gunna)、俳優のジェレミー・O・ハリス(Jeremy O. Harris)やアリス・パガーニ(Alice Pagani)、DJスクリュー(DJ Screw)らが、フィーチャーされている。
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