欧米では断続的に半年以上続いた新型コロナウイルスによるロックダウンや規制が緩和され、夏以降のファッション・ウイークの計画が続々と発表されている。EU域内では出発直前に受けた検査の陰性証明やワクチン接種完了の証明書があれば、ほぼ入国後の隔離義務なしで渡航できるようになっており、域外からもワクチン接種済みの観光客受け入れを再開するための準備が進行。現在落ち着きつつある感染状況が再び悪化しないという確証はなく暫定的な計画ではあるが、観客を入れたリアルショー再開の明るい兆しが見える。
2022年春夏コレクションのスタートを切るロンドン・ファッション・ウイークは、デジタルファーストのイベントとして、6月12〜14日に開催される。若手を中心に35組が参加するほか、リアルイベントやパーティーもいくつか行われる予定だ。続くミラノ・メンズ・ファッション・ウイークは、イタリア政府が6月15日から物理的なイベント開催を許可したものの、リアルショーを計画しているのは「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」「エトロ(ETRO)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABBANA)」の3ブランドのみ。グレン・マーティンス(Glenn Martens)新クリエイティブ・ディレクターのデビューとなる「ディーゼル(DIESEL)」をはじめ、「プラダ(PRADA)」や「フェンディ(FENDI)」など60ブランドは引き続きデジタルで発表する。一方、6月30日〜7月2日にフィレンツェで開かれるメンズウエアの国際見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」は、1年半ぶりにリアルでの実施を決定した。ただし、新型コロナの影響により出展社数は従来の1200から300へと大幅に規模を減少。例年1500人を超えるアジアからの来場者は見込めずEU内の業界人が中心になりそうだが、デジタルプラットフォームも活用して100回目の開催を祝う。
また、フランスでも政府からの許可が下り、6月22〜27日のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク(以下、パリメンズ)と7月5〜8日の21-22年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイーク(以下、クチュール)は、リアルのショーやプレゼンテーションが可能になった。各ブランドがどのような形式で発表を行うかはまだ明らかになっていないが、フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode)は「衛生状況の変化によるが、リアルイベントでは公的機関が定める対策やルールに従って、観客を迎えられるだろう」とコメント。リアルとデジタルのハイブリッド開催になるという。パリメンズの暫定スケジュールには、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」「エルメス(HERMES)」から「ジル・サンダー(JIL SANDER)」「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTTEN)」「ヴェトモン(VETEMENTS)」まで、計72ブランドがラインアップ。日本からは、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「カラー(KOLOR)」「ファセッタズム(FACETASM)」「ダブレット(DOUBLET)」「ターク(TAAKK)」「サルバム(SULVAM)」など10ブランドが参加する。また期間中の25〜27日には、合同展「トラノイ(TRANOI)」もパレ・ド・トーキョーで開催される予定だ。
クチュール開幕前日の7月4日夜には、「アライア(ALAIA)」が、長年ラフ・シモンズ(Raf Simons)の右腕を務めてきたことでも知られるピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)新クリエイティブ・ディレクターによるクチュールとプレタポルテをお披露目。期間中には、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が53年ぶりにクチュールを復活させる。創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)が使用していた当時のクチュールサロンを再現し、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)=アーティスティック・ディレクターが手掛ける初のクチュール・コレクションを有観客のショーでお披露目する予定だ。さらに、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PREVE)」もイタリア大使館でショーを行うことを発表。「シャネル(CHANEL)」も9カ月ぶりにゲストを招いたショーをガリエラ美術館で開催する計画を明らかにしている。発表形式は未定だが、阿部千登勢「サカイ(SACAI)」デザイナーがゲストデザイナーとして手掛ける「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のクチュールも、今季のハイライトになる。
ファッション・ウイーク外では、「ディオール」は6月17日にギリシャ・アテネで、「マックスマーラ(MAX MARA)」は6月29日にイタリア南部のイスキア島で、2022年クルーズ・コレクションのショーを計画。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、7月15日にイタリア・ベネチアで21-22年秋冬オートクチュールのショーを開催。会場には少数の観客のみを招き、デジタルでもライブ配信する予定だ。「サンローラン(SAINT LAURENT)」も、7月にベネチアでリアルショーを開くようだ。詳細は明かされていないが、タイミング的に22年メンズ・コレクションの可能性が高い。
秋以降は本格的にリアルイベント再開か
秋の海外コレクションサーキットのトップバッターとなる9月8〜12日のニューヨーク・ファッション・ウイーク(以下、NYコレ)は、コロナからの復活を感じられるものになりそうだ。同イベントについて、アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA 以下、CFDA)は、衛生ガイドラインに準拠したリアルショーが再開されると共に、デジタルでの発表も継続されるだろうと推測。「トム フォード(TOM FORD)」や「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」など、すでにリアルショー開催の意向を示しているブランドも多い。また、独自のスケジュールで発表していた「マイケル コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」や、パリコレに参加していた「トム ブラウン(THOM BROWNE)」と「アルチュザラ(ALTUZARRA)」がカムバックするほか、ジェレミー・スコットの手掛ける「モスキーノ(MOSCHINO)」もミラノから参戦。アメリカ人デザイナーたちが結集し、NYコレを盛り上げる。さらに直後の13日には、メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art、MET)の衣装研究所(Costume Institute)によるアメリカファッションを掘り下げる展覧会開幕を記念したガラパーティーも予定されている。
その後のヨーロッパでのファッション・ウイークについてはまだ未定だが、観客の前で発表することへの思い入れが強いデザイナーは本当に多い。このままワクチン接種と制限緩和が順調に進めば、さまざまなブランドがリアルのショーやプレゼンテーションを再開させるだろう。