「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDジャパン2021年5月24日号からの抜粋です)
オーガニックコスメに出合って、生き方まで変わったという人がいる。暮らし方が丁寧になったという人が。あるいはまた正義感が強くなったとの声もある。原料や処方にストイックなまでにこだわる化粧品との出合いが、ほかの物事にももっと真摯に向き合わなければという意識を生むからなのだろう。「人や地球に優しくないものは、肌にも入れたくない」との理由でオーガニックコスメを選ぶのは、もともと丁寧に生きる正義感の強い人に多いはずだが、逆に何となくトレンドだからと手にして、知らず知らずそういう価値観に導かれていく例もあるということ。それは明らかに精神性への鼓舞、コスメの役割を超えている。
こんなケースもあるはずだ。気持ちが不安定だったり、不安に見舞われたり、そういうネガティブな感情がオーガニックコスメとの出合いによって軽減したと感じるような。“コスメへの依存”は、あまり良い響きではないけれど、オーガニックコスメの場合は意味合いが少し違う。化粧品でありながら、心の拠り所に、精神的な支えになる。美の追求以外にもう一つ、エシカルという別の価値を持つから、美しくならなきゃという強迫観念も和らげてくれる。まさしく人を楽にするのだ。 いずれにせよ、本来化粧品が持っているプラセボ的な効果とは違う、オーガニックに切り替えただけで、続けているだけで心が整う、ある種の“祈り”に近い効果があるということ。言い換えるならオーガニックコスメはパワースポットのごとき磁場を持っていて、そうした意味からも心が繊細すぎて生きづらさを感じている、いわゆる“繊細系”をも穏やかに受け止めるような市場であるといえるのだ。
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