「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は月刊WWDビューティ2021年4月号からの抜粋です)
いよいよ本格化するSDGs。「何もやっていません」では済まされない空気がすでにあり、申し訳ないけれど各社が見せるエシカルな姿勢は“本物かどうか”という少々うがった見方をしてしまう。いや、時代の大勢に合わせて慌てて何かを間に合わせても、それがマズいと言っているのでは全くない。ただ、化粧品は宿命的にサステナブルに反する側面が多くあるだけに、本音の本音で地球保護や人類平和を望んでいるか?差別意識はないか? そこを問われている気がしてならないのだ。
もちろん「ヴェレダ」「ジュリーク」「アヴェダ」 など、最初からSDGs的活動を黙々と続けてきたブランドは別として、みな右へならえではない、もっと別の自分なりのやり方でそれを結実させてもいいのじゃないか。そういう視点で見直したら見えてきた。魂にSDGsを隠し持つブランドがあることが。例えば「イヴ・サンローラン(以下、YSL)」! ムッシュ・イヴ・サンローラン自身の価値観が、まさに今のSDGsに直結するものと今さらながら気づいたのである。
ご存じのように「YSL」は、モード史に数々の革命を起こしたが、思えばそれは今まさに糾弾されている排他的な思考に対するアンチテーゼだった。男女平等、人種平等、そしてジェンダーフリー。女性に、初めてタキシードを着せ、パンツを履かせたこと、アフリカ人はじめ有色人種のモデルを積極的に使ったこと、そして自らヌードの広告に登場するなど性の境界線を超える自由を提示したこと。また特権階級を顧客とするオートクチュール一辺倒の時代にプレタポルテ、リブ・ゴーシュを展開して、モードの裾野を広げたのも「YSL」だった。6、70年代そして80年代と、変革の時なのに平等意識は極めて低かった時代、当時は少々エキセントリックにも見えた提案は、今思えば全てがその不文律に対する抵抗だったのだ。それを美で訴える創造性には今改めて心が震える。またムッシュがモロッコに出合い魅了されるのは60年代のこと。その後、創作活動の拠点にするこの地の恵みはスキンケアにもいち早く投入されたが、モロッコに古代の庭をイメージした楽園を作るのは「YSL」の夢だった。それが現在のウリカコミュニティーガーデンとなっている。
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