大人の皆さん、余剰在庫を服飾専門学生に“押し付け”ていませんか?
「売れ残りの在庫を服飾専門学校に無償で提供しよう。そして学生のアイデアでリメイクした服を店頭で販売しサステナビリティのプロモーションを打ちだそう」というアイデアが頭に浮かんでいる企業人の皆様へ。「ちょっと待った〜!」です。
サステナビリティ・ディレクターを名乗るようになってから、色々な方から相談やアイデア交換会の話をいただき大変うれしいです。その中で聞くことが多いのが上記の切り口です。そこに学生のためになるアイデアが付加されている場合は大賛成ですが、どうもそうじゃないケースが散見されます。「無料で商品を使えるなら学生は喜ぶだろう」という謎の上から目線、「若い才能は在庫を素晴らしいモノへと転換してくれちゃうだろう」という若者への依存心、「店頭に並べれば消費者には自社のサステナビリティの取り組みもアピールできる」といった皮算用“だけ”だったらその動きを一旦止めてよく考えましょう。
残念なことに、学校や学生を余剰在庫のはけ口と都合よく考えている大人が何と多いことか!長年、服飾専門学校に講師としてお邪魔していますが、コロナ以降、本件に関するため息を学校側から聞くことが増えました。根が深いのは多くの大人が、良いこと、もしくはウィン・ウィンの提案として「学生のために無償提供」のアイデアを掲げることです。
でも考えてほしいのです。自分が学生だったら、好みでない服を「素敵にして」ともらうだけで果たして本当にうれしいでしょうか?アイデア源として嬉しい学生ももちろんいるでしょう。でも多くの学生は「使いたい生地を自分で選んで作りたい」のです。当たり前ですよね。
同じ無償提供でも学生や学校の「ため」になるのは、提供する企業のデザイナーが学校に赴き、生地の扱い方など技術指導も含めて行うなど、物だけでなく知恵や技術も提供し一緒にゴールを目指すケース。もしくは、店頭で販売するリメイク商品の売り上げを学校に還元するなど実利をもたらすケースです。そこでは大人は「どうしたら学生のためになるか」と真剣に考えて汗をかいています。実際、このような取り組みは過去に数多くあり成果を上げています。「アレキサンダー・マックイーン」のこの取り組みはその好例です。ロンドン旗艦店には、インスタレーションやトークセッション、イラストや学習のワークショップが行えるエデュケーションスペースも設けたそうでサラ・バートン=クリエイティブ・ディレクターの本気がうかがえます。
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同じ「提供」でもそこに心と行動があるかで、「結果」は真逆になるんですよね。在庫問題は大人の不始末です。それをリメイクやアップサイクルという響のよい言葉で次世代に押し付けて贖罪してはいけない。そう思います。
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