中国では若者が消費の中心となりつつあり、彼らを魅了しているのがeスポーツだ。アイリサーチ(iResearch)が発表した「2021年中国eスポーツ業界研究レポート」によると、中国のeスポーツユーザーは昨年5億人に達した。そのうち半数以上が19〜24歳のジェネレーションZ世代である。特に昨年はコロナ禍で多くのスポーツイベントが中止され、オンライン配信のeスポーツに注目が集まり視聴者を増やした。中国のeスポーツ市場は昨年1474億元(約2兆5000億円)規模に成長し、2022年には2157億元(約3兆7000億円)まで拡大する見込みだ。年成長率は20%台後半で推移しており、eスポーツ関連企業は投資家の注目の的となっている。近年はファッションブランドや美容企業がスポンサーやコラボレーションでeスポーツと関わるようになり、スポーツウエアからラグジュアリーまで幅広いブランドが協業している。
大物投資家から政府も動いた巨大市場
中国のeスポーツチーム「LGDゲーミング(LGD Gaming)」の日本代表を務めた経験を持つ今野広清(チャールズ)によると、中国でeスポーツが注目され始めたのは12年のこと。eスポーツは03年に、中国体育総局によって正式にスポーツとして認められたものの「2000年代はゲームに対するイメージが悪く、インターネットができる場所もネットカフェなどに限られていた。ゲームをするのは一部の若者だけだった」。風向きが変わったのは、不動産分野のコングロマリット万達集団(ワンダグループ)の創業者・王健林(Wang Jianlin)の息子で、中国では有名な投資家の王思聡(Wang Sicong)がきっかけだ。思聡は11年8月に解散寸前だったeスポーツチーム「CCM」を買収し、「IG eスポーツクラブ」を設立した。翌年には同チームは世界選手権で優勝。「これをきっかけに“eスポーツは稼げるビジネス”という認識が広まった」と今野は述べる。
同氏はさらにプロリーグ参加チームや選手個人を管理する中国eスポーツクラブリーグ(ACE联盟)を設立。また自身が経営するベンチャーキャピタルの普思資本のほか、個人でオンラインゲーム開発企業やeスポーツイベント会社、大学、ゲーム中継プラットフォームなどの関連事業に投資した。こうした流れを受け、これまで「ゲームは青少年に悪影響」と主張していた中国政府も方針を転換。15年頃には政府が企業を後押しするようになり、国家体育総局がプロゲーマーの登録や評価を推進する方針を打ち出した。
企業の動きも徐々に活発化している。03年にテンセントが立ち上げたテンセントゲームス(Tencent Games)は、16年に人材育成や業界支援のためのテンセントゲームアカデミーを設立。アリババスポーツ(阿里体育、Ali スポーツ)は、16年に独自のeスポーツイベント「ワールド eスポーツ ゲームス(WESG)」を始動した。eスポーツクラブは資金調達に積極的になり、スポンサーを続々と獲得。中国アパレルブランド「リーニン(LI-NING)」は2019年5月に解散寸前だったeスポーツクラブを買収し「LNGeスポーツクラブ」として再建している。プロリーグは資金が集まることでさらに盛り上がり、現在の形まで発展を遂げた。
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