「ITS(INTERNATIONAL TALENT SUPPORT CONTEST以下、ITS)」は、イタリア・トリエステから、これからに期待がかかるデザイナーを発掘するヨーロッパ最大級のファッションコンテストだ。これまでの受賞者は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で活躍するデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)やリチャード・クイン(Richard Quinn)、セシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)ら。日本からも中里唯馬をはじめ数々のファイナリストや受賞者が生まれてきた。今年は、ビデオシリーズや日々のクリエイションや過去の作品を公開するデジタルプラットフォーム「ITSアーケドミー(ITS Arcadomy)」を設立。若手デザイナーに勇気を与え、学習環境を整えることに一層力を注いでいる。同コンテストの創業者、バーバラ・フランキン(Barbara Franchin)ITSディレクターに未来のデザイナーに期待することなどを聞いた。
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WWD:若い才能を発掘する際に、設立から変わらず大切にしている基準はあるか?
フランキンITS創業者兼ディレクター(以下、フランキン):本能的に惹かれるかどうかは重要だ。鳥肌が立つかどうかといった、言葉では説明できない感じるままの反応を大切にしている。新たな視点で物事を捉え、これまでのしきたりに挑戦する人材に注目している。ファイナリストを目指す上で、ゼロからモノを作る技術は必須。ポートフォリオで提出する素材は、全て自らの手で作れることが大前提となる。
WWD:日本の受賞者で特に印象に残っているデザイナーと、その理由は?
フランキン:とても選びきれないがそれでも挙げるとするなら、2008年と09年ITS受賞者の中里唯馬。テクノロジーと職人技を融合した新しい繊維の開発や、先進的な考えでファッションの民主化に挑戦し続けている。04年の受賞者、山縣良和はトレンドやマーケット動向に左右されることなく自身の夢を詰めこんだコレクションを手掛ける。16&19年受賞者の片貝葉月は、非現実的なアイデアを実行に移す力を持っている。西山高士もまた10年にITSを受賞した際のコレクションが印象深い。
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WWD:デムナ・ヴァザリアは、何が秀でていたのか?彼の今日の活躍を見てどう思うか?
フランキン:デムナは非常にユニークな存在だ。受賞した04年当時はまだベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーの2年生だったが、彼が作るものには洗練された雰囲気と、新しい視点があった。彼が考える業界に足りないものは明確で、随所にその考えが落とし込まれていた。今やファッションを通して対話を投げかけるクリエイションは多く見られるようになったが、デムナは当初から社会にメッセージを投げかけていた。「バレンシアガ」のレガシーに敬意を評しながら、ブランドを新たな局面まで成長させた彼に感銘を受けている。
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WWD:ITSのアーカイブを日本の次世代デザイナーにどうに活用してほしいか?
フランキン:「ITSアーケドミー」には、過去20年のアイデアや提案を全て格納する。若手デザイナーによるプロジェクトや素材を世界に公開することで、遊び心溢れる作品の閲覧や交流、学びを提供する。クリエイティブが盛んなイタリアのトリエステから、ファッションやアート、デザイン、カルチャーについて発信するので、日本の若手デザイナーがこれを機に世界の作品に触れ、創造性の新たな刺激として活用することを願っている。
WWD:次世代のデザイナーに期待することは?
フランキン:より良く、より少なく生産すること。長持ちするものをデザインしてほしい。今のファッション業界には、語られなければいけないことがたくさんある。その中で、若手が今日の“ラグジュアリー”の意義をどう捉え、デザイナーの前に一人の人間としてサステナビリティと向き合うか、あらゆる立場の市民を社会の一員として支え合うソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)をどう扱うかに期待する。私自身答えが見つけられないからこそ、これからのデザイナーの提案を心待ちにしている。
WWD:今後求められるデザイナーの素質とは?
フランキン:自分の意思を持っていること。自分なりの視点を持って、これまでフォーカスが当たっていなかった事柄に目を向けること。服作りやデザインにとことん向き合って、息を吸ったり吐いたりするのと同じくらい自分の一部にするべきだ。これらは当たり前でなくてはならない。現代を独自の視点で解釈し、心の境界線を引き直す力を持つべき。社会から切り離してデザインだけすることはできない。ココ・シャネル(Coco Chanel)は、コルセットのように身体を拘束するファッションから女性を開放し、力を与えた。それまでは考えられなかったより快適なファッションを生み出した。80年代にはジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)もスーツを通して同様の革命を起こした。クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)は新しい“型”からアプローチした。若い世代には新感覚の市場があり、ジェンダーに対しても今まで“普通”とされてきたこととは異なる見方を持っている。現代のデザイナーには、この新しい消費者層に向き合っていく力が必要だ。