ファッション

「レディメイド」の細川雄太が本気でアートの世界へ 初個展で語った“アートの価値”とは?

 「レディメイド(READYMADE)」や「セントマイケル(©︎SAINT MXXXXXX)」を手掛ける細川雄太デザイナーは6月26日まで、村上隆が主宰する「カイカイキキギャラリー」(東京都港区元麻布2-3-30)で初個展「-YES-」を開催中だ。細川デザイナーの描いた洋服のグラフィックを見た村上が1年ほど前に、ラブコールを送りアートの世界に引き込んだという。構想約8カ月。作品は全てカイカイキキの三芳スタジオで製作された。その多くが細川のデザインした洋服に用いられているグラフィックだ。ファッションデザイナーが挑むアートの世界とは?細川デザイナーに意気込みを聞いた。

WWD:そもそも絵に興味を持ったきっかけは?

細川雄太「レディメイド」デザイナー(以下、細川):生まれてすぐに母親が入院することになって、僕は祖母のいる瀬戸内海の白石島(岡山県笠原市)にしばらく住むことになった。その島は信号もコンビニもなくて、自然ばっかり。カブトムシもたくさんいた。そこで海を眺めながら船の絵ばかり描いていたのを覚えている。小学校に入ってからは、「少年ジャンプ」が聖書みたいになって、「ドラゴンボール」とか「アラレちゃん」とかをよく描いていた。

WWD:自分の絵がビジネスになったのはいつ頃から?

細川:今もビジネスになったとは思ってない(笑)。アートのことも未だによく理解できていないし。アートって知らない人からしてみれば価値が無いものだし、評価がすごく難しい。例えば、みんなが必要とする冷蔵庫には定価があるけど、アートには100万円と言う人もいれば1000万円と言う人もいるし、要らないと言う人もいる。価値観が人それぞれだから答えが無い。

WWD:ファッションと似たような価値観でもあるのでは?

細川:すごく近いものはあると思う。ファストファッションで満足する人もいれば、スニーカーに10万円を出す人もいるし、それと同じような感覚。

WWD:今回、自分の作品にウン百万円の価値が付いたことについては?

細川:本当に未知の世界。村上さんありきの価値だと思う。

WWD:では、アートとファッションの違いは何?

細川:アートは歴史に残るべきものだと思う。僕らが学生時代に使っていたような教科書に載るのは、みんなが知っているアート。だから残ってゆくもの。そういうものがアートと呼ばれるんだろうな。

WWD:細川さん自身は、デザインしたものの値段を決めることはある?

細川:僕は全く決めないで、コストも関係なく作っている。出来上がったものに付いた値段がそのものの価値みたいな感覚で、まずはやりたいことをやるのが優先。

WWD:今回の「-YES-」という個展タイトルにはどんな意図がある?

細川:単純に肯定的な意味の「YES」とジーザス(Jesus)のイエスを掛けた。僕の作品にはパロディもあるけど、それも肯定的な目で見てもらいたい。その中で、見た人にそれぞれの答えを出してもらえればいいなと思う。

WWD:作品のインスピレーション源は?

細川:ほとんどが古着。年齢的には1990年代の影響が一番強いけど、バンドTシャツや60年代のスエット、40〜60年代のカレッジロゴなど、大体何でも古着屋でディグっている。絵のタッチの参考にすることが多いかな。

WWD:“絵のタッチ”というと?

細川:例えば、村上さんをモチーフにした音楽家シリーズ(音楽家の肖像画をプリントしたビンテージスエットの総称)の絵は、ペンで点線みたいな影をつけているんだけど、それがエリザベス女王の紙幣のタッチによく似ていたので参考にした。だから古着もそうだし、アートを見るときもそう。常に洋服に落とし込めるようなアイデアを探している。

WWD:今回アートに取り組んで“本業”への影響はあった?

細川:表現の仕方が変わるだけなので、スタンスはあまり変わらない。展示している作品と洋服に使っているグラフィックが一緒なので、洋服の価値が上がれば面白いけど。

WWD:一番思い入れのある作品は?

細川:一番大きい(横8m×縦3m)作品かな?ベツレヘムの壁(イスラム政府がパレスチナとの間に建てた分離壁)をイメージして、シルクスクリーンでプリントした上にスプレーで落書きした。初めて描いたキャンバスがあのサイズで……、体全体を動かして描かないといけないからビックリするぐらい疲れて、改めて絵を描くって大変なことだなと思った。

WWD:作品を見た村上さんの反応は?

細川:褒めてくれて、すごくうれしかった。

WWD:今後のアート活動は?

細川:次はいつできるか分からないけど、やっぱり絵を描くのは嫌いじゃないので、こういう表現の仕方もありだなと思った。村上さんも世界のさまざまな場所でアート展を開催しているので、僕も世界に持って行ければ嬉しい。

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