ナイトプールのプロデュースから、スイーツや化粧品などの商品企画、広告の制作までを手掛けるアルカの辻愛沙子最高経営責任者(CEO)は、社会派クリエイティブを名乗り、クリエイティブの力で世の中に対話を投げかける。社会に“間違った”発信をしてしまうのは怖いし、炎上や意見の対立も避けたい人もいるだろう。それでも、意志の発信により生まれる共感が欠かせない時代になっている。社会課題に対して向き合う楽しさとしんどさを行ったり来たりしながら、「それでも触れない選択肢はない」と覚悟を決める辻CEOが考える、クリエイション・発信の令和的あり方や自身の意志とは。(この記事はWWDジャパン2021年6月14日号からの抜粋に加筆をしています)
令和3年、夏。私たちは今、まさに時代の過渡期のど真ん中に立っています。これまで当たり前とされてきたさまざまな規範や表現をここで一度見直し、誰かを排除したり踏みつけたりしていないかと一つずつ内省しながら、“令和的”にアップデートしようとしている時代。
今回の特集テーマでもあった「ジェンダー」や「ルッキズム」も、まさにその渦中にあるトピックスです。女性らしさ/男性らしさや、美しさのあり方、そしてその表現方法に至るまで、日々新しい形へと変化を遂げています。
そんな中で、「“今の時代”は、もうこういう表現ってまずいよね」という言葉を度々耳にするようになりました。その言葉について、少しだけ掘り下げていきたいと思います。
私たちが価値観をアップデートし進んでいくにあたって、大事なステップは三つあります。それは「内省」「開示」「変化」。多くの令和的アップデートは、三つ目の「変化」にフォーカスが置かれているように思います。広告の仕事をする私自身、企業の変化や新しいアクションの部分にフォーカスを当てて社会に届けていくことも多々ありました。しかし、先ほどの「“今の時代”は」という感覚には注意が必要だと私は捉えています。
例えばLGBTQ+。メンズコスメが大旋風を巻き起こしたり、レインボーカラーのアイテムがたくさん登場したり、近年ファッションやビューティ業界でも多くの変化が見られたテーマだと思います。しかし、彼ら/彼女たち自身は“今の時代だから”生まれてきた存在なのでしょうか。
ひもといていくと当然のことのように聞こえるかもしれませんが、社会がこのようにアップデートしようと進んでいくはるか以前から、当事者の人たちは確かに社会に存在してきました。当たり前に、普通の一人の人間として。しかし、社会がそこに目を向けず、彼ら/彼女らの声をなかったことにしてきてしまっていた訳です。だからこそ、企業や社会の変化は“令和的”であると同時に、これまでとずっと同じように誰かにとって必要だった変化ともいえるのではないでしょうか。
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