ファッション

H&Mプレスと考えるLGBTQ+フレンドリーな職場とは

 求人検索エンジンを運営するインディードジャパン(Indeed Japan)は、プライド月間に合わせ、職場の多様性を推進するイベント「インディード レインボー ボイス」を実施した。特設サイト上でLGBTQ+当事者の仕事に関する悩みや想いを募集し、3日と4日にはさまざまな業界の当事者を招いたオンライントークイベントを開催した。
 
 アパレル企業からはエイチ・アンド・エム ヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパン(以下H&M)がパートナー企業として参加。4日のオンライントークイベントでは、同社でプレスを務める下久保文太(28)がトークパートナーとして登壇し、参加者から寄せられたジェンダーに関する悩みに回答した。イベント後、同氏に取材した。

WWD:H&Mは職場の多様性を推進するためにどんな取り組みを?

下久保文太H&Mプレス(以下、下久保):今年は、今まで以上にI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)の取り組みを推進しています。部署間を超えたI&Dグループを設立し、店舗スタッフも含めて、月に1回ミーティングを行い、LGBTQ+以外にもさまざまな差別をなくすためのケーススタディをしています。もともと「全ての人を歓迎し、同じように敬意をもって扱われなければならない」という考え方が浸透しているので、性的マイノリティだけでなく、身体障がい者や精神的な疾患があるメンバーも、互いにサポートしながら働いています。

WWD:下久保さんが入社した当初からLGBTQ+フレンドリーな環境が整っていた?

下久保:そうですね。アルバイトで入社した時から自分がゲイであることは受け入れられていました。職場にも当事者は多いです。企業文化として「人を信じて任せること」が根付いているからでしょうか。スタッフ同士ポジションに関係なく名前で呼び合うことも含め、フランクな関係性が築けてプライベートな話題も話しやすい。僕も強制される感覚なく、カミングアウトしていました。

WWD:日本の社会全体ではLGBTQ+の存在がまだまだ可視化されていない。職場で働きづらさを感じた瞬間はなかった?

下久保:例えば、社内外で「ゲイの人ってやっぱりオシャレだよね」とか「男性・女性の両方の気持ちがわかるから相談しやすい」と、ふと言われることがあります。本来であれば個性の話なのに、ジェンダーやセクシャリティにフォーカスが移ってしまうことに違和感を覚えることはあります。一方で、僕のありのままを出すことで相手に不快感を与えてしまう可能性があることも意識しています。フロアマネージャーを務めていた時、シースルーのトップスにチョーカーという格好で接客をして、お客さまから「あなたマネージャーなの?」と言われました。時には相手の価値観に合わせることも必要で、お互いにリスペクトを持つことが根本だと思います。

WWD:今回のトークイベントで印象的だったやり取りは?

下久保:20代の男性から、男性のファッションは女性ほど解放されていないことに関して意見を求められました。同世代とセクシャリティの話題を真剣に語る機会がそもそも少ないので、新鮮な経験でした。先日、初めて政治的なアクションに同僚と参加したんです。これまでは差別的な発言を聞いても「仕方ない」が強かった。でも最近、特に僕よりも若い世代にはSNSを使ってきちんと怒りを表現する人やアクションに参加する人が増えてきて影響を受けています。その場に行くことで、同じ問題意識を持った人がこんなにいるんだ、と気付かされました。

「声を上げられない当事者がたくさんいることを意識してほしい」

WWD:今後検討してほしい社内制度は?

下久保:履歴書の性別や年齢欄をなくしたい。自分がどちらの性別かわからない人や、心と体の性が違う人はそこでつまずいてしまう。僕も区役所などで書類を提出する時に「男だけど、なんでこれ必要なの?」と思うことはよくあります。いつかそれがなくなれば、より多くの人を歓迎できる会社になると思います。

WWD:社内でジェンダーやセクシャリティについて話す時に気をつけるべきことは?

下久保:当事者がその場にいないと思わないでほしい。表面的に見える人とそうでない人がいます。いないと思って発言すると、誰かを傷つけてしまうかもしれない。セクシャリティ以外の話題も同じです。もちろん自分の発言に100%責任を持つことは難しいですが、気付いた時点で次の行動を変えることはできると思います。僕は会話の中でホモやオカマといった言葉を使う人がいたら、ちゃんと指摘しますね。そうでないと、きっとその人はまたどこかで誰かを傷つける。その連鎖を止めるためにも、伝えてあげることが大事です。

WWD:業界全体では、LGBTQ+の話題に何ができる?

下久保:この業界では、特に発信力のある人たちにスポットが当たります。LGBTQ+の話題も、見えないところで声を上げられない当事者がたくさんいることを意識してほしい。プライド月間に合わせてレインボーフラッグが付いた服を販売するというのも、啓蒙的な意味では大切ですが、その服を着られない当事者がいます。マイノリティに対する差別を根本的になくすためには、マジョリティが声を上げなければ変わりません。そのためにも企業がマイノリティへの差別的発言にNOという姿勢を見せることが、多くの当事者を救うことにつながると思います。

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