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話題本「超入門カーボンニュートラル」の著者に聞く  “畑の現状を見たらわかる。このままではアパレルは服が作れなくなる”

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 最近よく耳にするカーボンニュートラル。地球温暖化の一因である炭素に関して排出と同量を吸収することでプラス・マイナス・ゼロにする概念だが、それとアパレルのビジネスがどう関係しているのか。話題の本「超入門カーボンニュートラル」(講談社+α新書)の著者である、夫馬賢治ニューラルCEOに話を聞いた。小売りのコンサルタントも務める著者が「このままではアパレルは服が作れなくなる」「環境活動と経済活動の加速は両立する」と語るその意味とは。

WWDJAPAN(以下、WWD):著書「超入門カーボンニュートラル」の中で、これまで環境用語だったカーボンニュートラルが経済用語として使われるようになっていると書かれていました。その背景を教えて下さい。

夫馬賢治ニューラルCEO(以下、夫馬):日本ではカーボンニュートラルが最近のトレンド用語と受け止められている節がありますが、違います。ファッション分野においても海外のハイブランドやメジャーブランドは5年以上前からカーボンニュートラルに取り組んでいます。なぜなら気候変動や水リスクからモノが作れなくなる危機感があるからです。

WWD:日本では昨年10月に菅義偉首相が脱炭素宣言をしたことでにわかに動き出している印象です。

夫馬:その通りです。世界規模では5年以上前からのトレンド、日本では昨年後半から、です。

WWD:ファッション界で廃棄問題が大きな話題になったのは2015年のパリ協定以降です。これは他産業と比べて遅かったのでしょうか。

夫馬:そんなことはありません。他産業も2011年くらいから動き始めました。アパレルは食品とほぼ同じタイミングで動き始めており遅すぎではありません。が、こと日本は全分野で遅いのが事実です。このままでは繊維は作れなくなるし、動物由来の素材は調達できなくなる。そのリスクを真剣に考えることなく、発注すればテキスタイルは絶対に届くよね、売れたらまた物は作れるよね、という感覚がまだ一般的だと思いますが、それはどんどん幻想になっていきます。

WWD:素材が調達できなくなるから物が作れなくなる?

夫馬:そうです。例えば、コットンが綿花畑から収穫できなくなるリスク、羊毛が牧場で穫れなくなるリスクがあります。これらは全部気候変動と関係しています。気温がこのまま上昇すると、羊が育ちにくい環境となり飼育量が落ちる。そもそも牧場での飼料の確保も警戒感が高まっています。綿花では水不足リスクも抱えています。生産地は今、本当に大変ですよ。多くの日本のアパレル業界の人は、生産地に行って現地の姿を見ていないですよね。それが最大のリスクです。

WWD:生産地の悲鳴がメーカーや小売りに届かないのはサプライチェーンが長く、分断されていることに一因がありそうです。

夫馬:それは大きいですよね。日本の場合は商社が間に入って世界中から調達量を確保していますが、“ここで取れなくなったからこっちへ”“こちらの価格が上がったからあちらへ”と生産者を変えることで対応しており、まるで焼き畑農業状態です。

WWD:畑の課題がアパレルに直結しているのですね。

夫馬:全世界的に危機意識が高いのは農業です。だから農業に依存している食品とアパレルはサプライチェーンがどんどん不安定になっていますね。もう一つの危機は石油、つまりポリエステルをはじめとする原料です。この先、気温上昇を抑制するために石油の採掘量が落ちたり、それに伴って石油化学が高騰したら、化学繊維の調達が難しくなります。これも巨大なリスクです。海外のファッションブランドは5年前からそこに敏感に反応しています。

 地球環境のために立ち上がるのがサステナビリティであると受け止める方も多いですが、私は少し違って、生産・調達リスク回避の話ととらえています。この先、どうやって作るんですか、物を作り続けられるような状態を目指しませんか、という話ですね。正直、海洋プラスチックからリサイクルするシューズを欲しい消費者はごく一部ではないでしょうか。ペットボトルをリサイクルするのは生産者側の都合です。

WWD: 「WWDJAPAN」は循環型ファッションをキーワードに掲げています。デジタルの力を借りて、消費者も巻き込んだサーキュラーエコノミーを構築しましょう、という提案です。

夫馬:めちゃくちゃ大事です。全製品を再生素材だけで作るのが最終的なゴール。これができたら、一つサーキュラーが完成します。古着をいくら回収しても作るときに新品素材に依存していたら変わりありません。

WWD:新たにコットンを収穫する必要がない、石油を掘る必要がない状態に産業全体でもってゆく、と。

夫馬:そうです。そうすれば現在の素材供給が途絶えても皆さんの事業は続けられます。古着を自分たちで回収するか否かは肝ではありません。最近「ユニクロ」は自社製品以外を回収するような動きがあるし、自治体での回収も進むでしょう。回収は社会全体で行えばいい。それよりもアパレル一社一社が再生繊維を調達するネットワークを持っているかが重要です。

WWD:一社で完結、解決するものではないと。

夫馬:どんな大企業でも一社では絶対に無理ですね。思い至った人が旗を振っていくしかない。要は、新品素材が途絶えても産業が回ることが大事だから、回収して再生素材を作るとこまでは皆でやったっていいじゃないですか。その先に何を作るかは、おのおののデザイン性で勝負すればいい。コロナ下の今は在庫過多で苦しい。でも考えてください、人々が店に戻ってきたときに、棚に並べる商品がないっていう状況が近づいているんですよ。Eコマースも同じです。新品の素材が途絶えてからじゃ本当に遅いと思います。

WWD:大げさな、という声が聞こえてきそうです。

夫馬:どこかのタイミングで、突然ゼロになるわけではありません。ただ世界的に見ればこの先、人口は増えますから洋服の需要は増えます。すると素材の価格も高騰します。木材の高騰と同じ話です。高騰しても安定的に供給できる道を探さないといけない。生産農家に依存せずに循環できた方が価格はコントロールできます。自分たちのコスト管理のためにも、サーキュラーエコノミーを目指すべきなんです。

WWD:食料危機と同じだと。

夫馬:全く同じです。森林破壊の問題から、農地はこれ以上増やせません。限られた農地でパンの小麦を育てるか、服の綿花を育てるか、食とアパレルは競合です。ちなみに食の循環は難易度が高いけれど、廃棄物のリサイクルやこれまでは非可食部と言われていた部分を食用とする動きがあります。

WWD:パンか服か、生産地はどちらを選ぶのでしょうか。

夫馬:普通に考えると高額な方ですが、食不足は飢餓に直結します。食料のスペースをアパレルがとればバッシングされるでしょう。これは今すぐ、来年の話ではありません、でも15年後に動いたら絶対に勝てない。だから海外の企業は今動いています。

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