ファッション産業が与える環境への負荷で注視したいのが、水資源だ。水資源が潤沢な日本に住んでいるとそのリスクを感じることは少ないかもしれないが、世界に目を向けると極めて深刻な問題になっている。国連世界水開発によると世界人口の3分の2が毎年少なくとも1カ月間の水不足に直面しており、今すぐ対策を打たなければ2030年までに世界人口の約半数が深刻な水不足に直面するという。
WWF(世界自然保護基金)は人が作るさまざまな農作物の中でも、水資源の激減や枯渇へのリスクが高いエリアで作られる割合が最も高いのが綿花だと指摘する。綿花栽培はインドや中央アジアなどもともと水資源が乏しいエリアで行われており、世界資源研究所によると、綿花が栽培されているエリアの実に57%が水リスクの高い地域だという。また国連は、世界の産業廃水汚染の20%がファッション産業によるものだと指摘する。そしてファッション産業において、コットンと染色は切っても切れない要素でもある。
こうした課題解決に向けて多くのイノベーションも生まれている。注目したいアワードの一つが、サステナブルなファッション産業を目指した「グローバル・チェンジ・アワード(Global Change Award、以下GCA)」だ。GCAはH&Mの創業一族が設立した非営利団体であるH&Mファウンデーション(H&M Foundation)が運営し、過去に受賞したアイデアや技術にはすでに実用化されているものも多数あり、多くの有力企業や投資家も注目している。
スタートアップ企業の支援を目的としてGCAを立ち上げ、現在は戦略的責任者を務めるエリック・バン(Erik Ban)=イノベーション・リードは、長らくファッション産業の環境負荷の中でも水資源への負荷について警鐘を鳴らしている。バン=イノベーション・リードにオンラインでファッションと水資源について話を聞いた。
WWD:以前、ファッション産業の課題について、特に水のリスクを重視していると話していたのが印象的だった。
エリック・バンH&Mファウンデーション=イノベーション・リード:ファッション製品が作られる工程における環境への負荷を考慮すると、水はメイン課題といえます。衣類を作るには、サプライチェーンを通して膨大な量の水が必要です。Tシャツ1枚を作るのに何千リットルもの水を必要とします。そのほとんどが綿花栽培や紡績の際に使われますが、染色でも水を大量に消費します。ファッション産業に関わる私たちは、節水染色の方法や技術を模索しなければいけないし、リサイクル技術も重要です。リサイクルすることで綿花はもちろん、他の繊維植物を栽培する必要がなくなるのですから。
そして私たち消費者は、衣類を洗う際に多くの水を使います。洗濯して繰り返し長く使うという意味ではいいのですが、本当に洗濯する必要があるのでしょうか。干すだけではダメなのでしょうか。天日干しでシミは落とせないかなど、そういう意識を持つことが大切です。もし洗濯する場合は、できるだけ低い温度も意識すべきだと思います。
WWD: 国連のレポートによると、世界の産業廃水汚染の20%がファッション産業によるものだと言われている。
バン:ファッション産業は淡水を最も汚染する産業の一つで、そのほとんどが衣類や布地の染色によるものです。その解決策を見つけるためにたくさん投資(金銭だけでなく)をするべきだと思っています。消費者やブランドから遠いところで起きている問題なので、そこまで急務だと思われておらず、水問題はCO2のように世界中に関わるものではない地域問題とされることが多く、議題の優先事項とされにくいのです。
けれど、本来は緊急度を高く持つべき。なぜならファッション業界は、その地域にとってはそれしかないような淡水に依存しているからです。私たちが業界として淡水を汚染することで、彼らの飲料水や農作物を育てるための水を汚染しています。今すぐにでも水の使用量を減らす染色技術に投資し、繊維を作る新たな方法を編み出さなければいけません。
WWD:確かに自分が住む地域の水資源が潤沢だと、自分が着ている衣服による水リスクまでを想像するのは難しい。
バン:この水問題への認識を向上させるためのもう一つの視点をお話しましょう。業界としてどこかの淡水を汚染してしまうと、それがその地域の対立にもつながってしまうのです。人は飲料水も、農作物を育てるための水も必要なのですから、これは実はサプライチェーンでのビジネスリスクでもあるのです。そこで私たちは英国のロンドンを拠点とするプラネット・トラッカー(PLANET TRACKER)という企業と協働して、Laudes Foundation(旧C&A Foundation)と共に、サプライチェーンにおける淡水の使用量に対する財務リスクを数値化することに取り組んでいます。そしてこれらの企業を所有する機関投資家に提示するのです。例えば、多くの投資家は大きな投資信託会社などを通じて、企業やビジネスに投資しているのですが、水リスクについては知らないのです。私たちはこの人たちが持株会社と共にこれらの問題に積極的に取り組むように、このリスクを強調したいのです。
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