アパレルメーカーがサステナビリティなモノづくりへシフトするとき、最初にぶつかる課題がテキスタイルの選び方だ。そもそも何がサステナブルなのか、何を選んだらよいのか悩ましい。そこでテキスタイルのプロである梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表に、テキスタイルとサステナビリティの関係について、基本の考え方と最新事情を2回に分けて聞いた。後半はサステナブルなテキスタイルを選ぶ10のポイントの具体例について。
WWDJAPAN(以下、WWD):インタビュー前半でお伺いした「サステナブルなテキスタイルを選ぶ10のポイント」について具体例を教えてください。
梶原加奈子カジハラデザインスタジオ代表(以下、梶原):まず①「製品からのリサイクル循環システム」は、廃棄素材からのアップサイクルを指します。ポリエステル素材の循環が先行していますが、ここにきてコットン製の古着や木材パルプ、農業廃棄物、さらに段ボールなどから誕生する画期的なセルロース繊維が登場しています。「リフィブラ(REFIBRA)」「スピノバ(SPINNOVA)」「インフィナ(INFINNA)」などがそう。本格的な製品化はこれからですが、期待しています。ステイホーム時代では宅配用段ボールの需要が増えるでしょうから、段ボールから再生した繊維は夢がありますよね。羽毛の再利用を進める「グリーン ダウン プロジェクト(Green Down Project)」にも注目しています。
②「長く使える素材を開発する」は、機能性、防汚性、耐久性、修繕の促進を意味します。服のリペアシステムはもっと発展すべきだと考えます。③「リネン、ヘンプ、ペーパーヤーン」は、生育が早く、環境負荷がない素材群です。夏は涼しく冬は暖かく、抗菌性もある。特にペーパーヤーンは日本が古来使っている歴史があり、風合いも良いので、注目しています。日本の王子ファイバー、キュアテックス、備後撚糸などが展開しています。
WWD:技術革新がサステナブルな素材の広がりを進めているようですね。④「生分解性素材の開発」はその最たる例です。
梶原:はい、土に還る素材を指し、様々な企業が開発に取り組んでいます。例えば石灰石を原料にした新素材「ライメックス(LIMEX)」で知られるスタートアップ企業の子会社のバイオワークスは特殊な添加剤を加えて、ポリ乳酸の弱点である熱に強い糸を開発していますし、老舗のニット糸商社の三山は従来のポリエステルに比べ強度や耐熱性に優れていて、染色後の加工が可能な製品を開発しています。⑤「人工レザー」も先端技術と密接です。話題のマッシュルームレザーを始め、合皮の開発のことですね。写真は日本のウルトラファブリックス(ULTRAFABRICS、旧第一化成)のものでインディゴや炭を入れた合皮です。⑥「リサイクルコットン・ナイロン」は、コットンについては落ち綿、ガラ紡のリサイクル。ナイロンは漁網からのリサイクルした日本のリファインバース社の「リアミド(REAMIDE)」など海洋汚染の解決の一助となる素材が登場しています。
WWD:技術だけじゃない。サステナブルは「視点」「考え方」も重要です。
梶原:そうですね。⑦「ノンミュールジングウール」は、動物福祉を意識したときに選びたい素材ですが、羊の現状はもっと多くの人に知って欲しいと思っています。⑧「オーガニックコットン・ウール」についてはトレーサビリティーを重視しています。無農薬かどうかはもちろんですが、遺伝子組み替えの有無、有機綿か否か、農業や羊の飼育環境などを確認します。
⑨「水を使わないプリント」は、水質汚染をしないという理由から選びました。転写プリント、未染色、無水染色の開発などの方法があります。それと連動するのが⑩「草木染め」は、ご存じの通り天然染料を活用した環境に優しい染め方で岐阜の染工場、木曽川染絨の取り組みなどに注目しています。
アパレルはどこからサステナビリティ・シフトを始める?
WWD:アパレルメーカーはサステナビリティ・シフトをどこから始めたらよいでしょう?
梶原:いきなり出口の話になりますが、サステナビリティは「どうお客様に伝えるか」が大事です。何を作るかの前に、接客でどんな話をするかをイメージすることをお勧めします。その上で私は始め方について、6つのポイントがあると思います。①素材の背景を意識し、把握すること②無駄を出さない作り方や運営を考える③リサイクル素材、リサイクル企画の導入④土に還る素材や服飾資材の活用を推進⑤育成の良い素材を積極的に活用⑥水や電気使用を減らす技術に注目をする、です。
最新のテキスタイル開発は、理想段階のものも多数あり市場に降りてくるのはタイミング待ちです。だから新しいことだけではなく、長く製品を使う意識、長く使える製品を開発することも大事。キーワードはバランス。環境と経済活動のバランスをとりながら消費者に丁寧に伝えることが大切です。
WWD:出口の話は「オンワード クローゼット ストア(ONWARD CROSSET STORE)」のアドバイザーとして店頭で実践していますね。
梶原:「オンワード クローゼット ストア」では、“リライフカスタイマイズ”をテーマに、リサイクルやリペア&メンテナンス、カスタマイズなど含めたパーソナルケア型セレクトスタイルを発信しています。
WWD:①素材の背景を意識し、把握すること、と関連しますがこれまでのアパレルのモノづくりにはない知識が求められるから背景を知ることは重要です。
梶原:そうですね。認証ひとつにしても100%正しいか、正義かと言うかそうではない部分もあります。でも選択するにはまずは知らないと。知識は重要です。同時に私はやはり最後はデザインの力だとも思っています。
WWD:梶原さんは常々アートもチェックしていますがそれも関係していますか?
梶原:サステナビリティは明確な答えや定義がまだありません。だからこそ、最先端の開発コンセプトはアートとなりやすく、実験もアート的立ち位置から生まれます。生地の発想、きっかけもアートから生まれることも多いので、サステイナブルアートは常にリサーチしています。菌類を使ったデザインで知られるイタリア人、マウリツィオ・モンタルティ(Maurizio Montalti)や、2011年のミラノサローネで照明を発表して話題になったジョナータ・ガット(Gionata Gatto)とジョヴァンニ・インネラ(Giovanni Innella)の動きにも注目しています。
2020年春夏のテキスタイル市場のトレンド
WWD:最後に2020年春夏のテキスタイル市場の動向は?
梶原:テキスタイルデザインの全体傾向はナチュラル感です。オーガンジー系の薄地で透明感があり軽量なもの。細かなムラ感、シワ感があるもの。使い古したようなヴィンテージ感がある素材。スポーティーだけどエレガントなメッシュ、チュールは人気ですねナイロンも薄地で細デニール糸が主流です。デジタル社会の中で視覚的な発信に反応が集まりやすくなっており、視覚的効果が高いプリントや光沢感、特にシルバー素材のニーズが増えています。
サステナビリティが先行した欧米ブランドを見ると2022年春夏では「サステナビリティは大事だがそれ以上に面白いものに立ち戻る」という姿勢が顕著です。「面白い生地があったらどんどん送って」というリクエストがあり、エモーショナルで刺激的なデザインが数多く出てきそうです。また新型コロナ境に販売先が中国に大きく振れており、中国が評価するもの、視覚的にもわかりやすいものが目立ちます。