2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。
ボンジュ〜ル!ミラノでの取材を無事に終え、パリへと戻ってきました。飛行機への搭乗の際にPCRテスト陰性結果を提示して、機内ではマスクを着用し、安全に帰宅できましたよ。なんと偶然にも、8年前にニューヨークで一緒に仕事をしたことがあるイケメンモデルくんと機内で隣の席になり、ひさしぶりの再会に会話が弾む楽しい家路でした。イケメンとの会話で疲れが吹っ飛んだところで(笑)、ミラノに引き続きパリ・メンズ・ファッションウイークの“現突リポ(現地突撃リポート)”もフルパワーでお届けするので、お付き合いくださいませ。
6月22日 15:30 ウェールズ ボナー
自宅で荷ほどきをしてから、今季のパリメンズのトップバッター「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」のデジタル発表をチェック。デザイナーのウェールズ・ボナーはデビュー時からストイックなクリエイションというイメージでしたが、2020-21年秋冬コレクションから肩の力が抜けてイイ感じ。彼女のルーツであるアフリカのエッセンスを、都会的なデイリーウエアに見事に融合させています。今季のコレクションテーマ“Volta Jazz(ヴォルタ ジャズ)”は、1960〜70年代に活躍したアフリカ系アメリカ人のミュージシャンが由来です。喜びに満ちた自由な精神を表現し、これまでで最もリラックスした印象で、旅の再開に向けて気分を盛り上げる今季のムードにもピッタリ。モロッコで作られたデニムに、ブルキナファソ(西アフリカの小国)の伝統的な手織りのステッチを施すなど、異文化のクラフトをさりげなく取り入れたバランスも絶妙です。20-21年秋冬から継続している「アディダス(ADIDAS)」とのコラボレーションも、スポーティー&アーバンな雰囲気を継続していました。
6月22日 19:30 グラバロ
「グラバロ(GRAVALOT)」は、ロンドンを拠点にするナイジェリア人デザイナーデュオのプリンス・コンリー(Prince Comrie)とオニエ・アヌナ(Onye Anuna)が2014年に立ち上げたブランドです。デジタル発表の映像は、ナイジェリアの田園をパープルのスーツを着た男性が歩く風景で始まり、ロンドンの立体駐車場にシーンが移ってランウエイショーがスタートします。コレクションはテーラリングにストリートスタイルを組み合わせた内容で、強い個性や新鮮さは特に見受けられません。「数年前のコレクションを見ているのかな」と思うくらい、なんだか古い……。赤いテーラードジャケットに白いタオルを掛けているルックからは、「元気ですかー」という声が聞こえてきそうでした(笑)。
6月23日 11:00 エゴンラボ
パリコレ2日目に、フランス人デザイナーデュオ、フロレンタン・グレマレック(Florentin Glemarec)とケヴィン・ノンぺ(Kevin Nompeix)が手がける「エゴンラボ(EGONLAB.)」が4シーズン目となるコレクションをデジタルで発表しました。CGを多用したり、ホラー映画風に作り込んだりした過去2シーズンの奇抜な映像とは打って変わって、大型倉庫の中でランウエイショーを披露するというシンプルなもの。この意図は「服をしっかり見てほしい」という思いからだったようで、(なら最初から……)と心の中でツッコミかけたのですが、今季から「アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」と同じイタリアの工場で生産し、「テーラリングやシルエットにより力を入れたから」だと展示会場で語ってくれました。中世の騎士を着想源に、デミクチュールのコルセットドレスやキュロット、タペストリーを連想させるジャカード織りのトレンチコートをユニセックスで提案しています。シャツに描かれた龍のような絵は、彼らによるハンドペインティングです。剣を備え付けられるトートバッグは、「バゲットを挟むのに使ってよ」とのこと。日本ではアデライデ(ADELAIDE)とヌビアン(NUBIAN)で取り扱われいて、取引先は世界に15アカウントです。フロレンタンくん25歳、ケヴィンくん27歳のミレニアル世代のデュオは、「過去の遺産と現在、未来をつないで、品質の良いユニークなピースを作りたい」と今後の意気込みを語ってくれました。
6月23日 13:00 ジェイ ダブリュー アンダーソン
「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」のデジタル発表の映像は、クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がコレクションの概要を説明する映像でした。いつも思うんですが、アンダーソンさんの低音ボイスってめっちゃセクシーじゃないですか?話し方もめっちゃタイプ(笑)!そんな彼に萌えつつ、ZOOM取材を敢行。今は、出身国であるイギリスの文化や幼少期に思いを馳せて、ノスタルジックな気分のようです。「自分が誰なのか、どんな人間になりたいのか、性に目覚めて自己認識を深めるユースの時代がテーマの一つ。自分の部屋というプライベートな空間で、自己表現の方法としてドレスアップする若者をイメージしてルック撮影をしたんだ」と丁寧に説明してくれます。さらに「ブランドにとって“ユースフル”は常に主要なコンセプト。世界を動かしているのは若者なのだから、いつだって社会において重要な存在だ」とセクシーボイスで続けてくれました。ビーズのカーテンを使ったドレスや枕のドレスは、思春期の頃に誰もが経験した、“やりすぎたドレスアップ”の過ちを表現しています。
今シーズンのメンズはビーチや旅をテーマにするブランドが多い中、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」は自宅内でルック撮影を行なっています。その意図が気になり、来年の春夏には人々がどんなライフスタイルを送り、何を着たいと思っているかを聞きました。「パンデミックが終息することはないと思う。もちろん外出やパーティーといった楽しみは戻ってくるだろうが、僕らは以前の生活に戻るのではなく、ウイルスを含むさまざまな問題と共に生き、前進して、新しい日常を送ることになるんじゃないかな。だからこそ僕は“個人のプライバシー”という考えに焦点を当てて、今季のコレクション制作とルック撮影を行った。来年もまだ自宅で過ごす時間が多いというメッセージを発信しているわけではないよ」。
彼の思慮深い考えはいつも私の心に刺さり、考えさせられます。彼が言う“個人のプライバシー”とは物理的な空間ではなく、例え社会生活が元に戻っても“心の中にある自分だけの居場所”を指しているのだろうなと私は受け取りました。ユースをテーマにしたのも、パンデミックで多くの人が経験したであろう、自己との対峙から来ているのでしょう。彼のコレクションは毎シーズンこんな風に、彼の背景にある思想やメッセージが気になります。
6月23日 15:00 クレージュ
「クレージュ(COURREGES)」は、アーティスティック・ディレクターのニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が手掛ける初のメンズコレクションをデジタル形式で発表しました。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ディオール(DIOR)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の各ウィメンズウエアで経験を積んだ彼にとって、メンズウエアの制作は初めて。テーマはウィメンズの続編として“I can feel your heartbeat - Part II(あなたの鼓動を感じる)”と名付け、映像も白い壁のセットの中を歩く、同じ内容です。最後に壁が倒れて外の自然風景が現れた瞬間は、抑制からの解放を表現しているようでした。ウィメンズのデビューコレクションが素晴らしかったので期待しすぎたのか、インパクトのあるルックは残念ながら見当たりませんでした。ウィメンズでは、構築的なデザインで直線と曲線を巧みに交差させる視覚的効果によってドラマチックに映りましたが、メンズではそのような印象はなく、ミニマルにまとめすぎかも。実物を見ると、シルエットやデザインに特徴を見つけられるのか?後日行く展示会場でしっかり見てきますね。
6月23日 19:30 イザベル マラン
パリコレ2日目最後は「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」のイベントに参加しました。コレクション発表を記念したライブパフォーマンスです。会場は旧パリ証券取引所で、現在は大型展示会などのイベントスペースとして使用されている建物の屋外スペース。シャンパンやワインなどのドリンクと軽食が提供され、フランス系アメリカ人兄弟のミュージシャン、フォーリアル(Faux Real)によるライブが実施されました。音楽イベントへの参加は1年以上ぶりだし、久々に再会した業界の知人ともたくさん話しができて、ファッション・ウイークらしい華やかな光景が目の前に広がりました。同じ場所で同じ時間を共有するという、コロナ禍に最も恋しかったものを再び味わうことができて、感無量!「イザベルさん、イベントを開催してくれてありがとう」と心の中で思っていると、イザベルさんが近くの席で楽しそうにしているではありませんか!感謝の気持ちを直接伝えると最高の笑顔で応えてくれて、写真にもしっかり収めましたよ。ほかにもモデルのカロリーヌ・ド・メグレ(Caroline de Maigret)もキャッチ。ジャーナリストのマスイユウさんとは、ミラノぶりの再会でした(今回はしっかり写真を撮らせてもらいましたよ)。
本日のパン
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旅行でフランスに初めて来たとき、パンのあまりの美味しさに感動したのを鮮明に覚えています。日本でも美味しいバゲットやクロワッサンはあるけれど、本場のものは別格!ミラノから帰ってきたらすぐにパン屋に行き、“私的ご褒美パン”であるヴィエノワ・フイユテを購入しました。外側がパイ生地を意味するフイユテで、中がヴィエノワ(甘いコッペパンみたいなパン)になっているのは近所のパン屋のオリジナル。ハチミツがほんのり甘くてめちゃくちゃ美味しいんですが、カロリーが気になるので普段は食べない“ご褒美パン”なのです!「ミラノ取材無事に終わったから」って自分に言い聞かせてながら、ハチミツ味のパンにさらにハチミツかける“追いハチミツ”で食べちゃいました。地元大阪ではたこ焼き、イタリアではジェラート、フランスではパン。結局はベタが一番美味しいねんな〜。ってことで、パリコレの日記ではパンのご紹介をお楽しみにっ!しっかりカロリーをとったので(とりすぎ?)、明日からも元気に取材へ行ってきます!