「マルベリー(MULBERRY)」は創業50周年を記念して、将来有望な英国の若手デザイナーとのコラボレーションに取り組んでいる。その第1弾となるのが、ナイジェリアとインドにルーツを持ち、ロンドンで生まれ育った女性デザイナーのプリヤ・アルワリア(Priya Ahluwalia)だ。
自身のブランド「アルワリア(AHLUWALIA)」をメンズウエアからスタートした彼女は、パッチワークをはじめとするテキスタイルの技術を駆使して、ビンテージや余剰素材の可能性を探求。6月14日に2022年春夏コレクションと共に披露したコラボアイテムでも、シグネチャーである波状のパターンなどを「マルベリー」初の100 %サステナブルレザーを使用したバッグ “ポートベロー”にあしらった。さまざまな色のカーフレザーやスエードを組み合わせた3サイズをそろえ、リンクするデザインのオーガニックシルク製スカーフも提案する。
2月の「英国デザイン クイーン エリザベスII アワード(Queen Elizabeth II Award)」受賞に加え、今回のコレクション発表当日には「BFC/GQ デザイナー メンズウエア ファンド(BFC/GQ Designer Menswear Fund)」も勝ち取り、さらなる飛躍が期待されるアルワリアにコラボの背景から、デザイナーを志した理由やこれからの展望までを聞いた。
WWD:「マルベリー」には、もともとどのようなイメージを持っていましたか?コラボレーションに取り組むにあたり、重視したことは?
プリヤ・アルワリア「アルワリア」デザイナー(以下、アルワリア):「マルベリー」は英国人ならば、まずその名を知っているお馴染みのブランドです。「アルワリア」とは背景にある文化的歴史やブランドストーリーを含め、大きく異なるブランドですが、どちらも社会的また環境的にポジティブな方法で生産することにフォーカスしています。それぞれの違いや似ている部分があるからこそ、パートナーシップはとても面白いものになり、お互いから学び、それぞれが新たな方法を考えるきっかけになるだと思います。
WWD:コラボバッグは、ウエアとリンクする波状のパターンやパッチワーク、そしてワッペンのデザインが印象的です。そのインスピレーションや、なぜこのコレクションに選んだかのこだわりを教えてください。
アルワリア:ナイジェリアとインドにルーツを持つ女性の一人として、アフロカリビアンヘアの芸術性や儀式、そして、インド北西部のパンジャーブ州における髪に対する考え方(編集部注:同州に教徒の多いシク教では、歴史的に髪を切らない戒律がある)に目を向けようと考えました。これは、私自身とても大切だと感じていることですし、髪は“差別の道具”として使われることが多いため、非常に重要なことでもっと広めたかったんです。バッグのシームや刺しゅうのスタイルは、コーンローや編み込みのリサーチから生まれたもので、色使いは昔の美容院のポスターから。バッジは1970年代の黒人と南アジアの人々が平等を求めて起こした運動のグラフィックから着想を得たものです。
素材を“廃棄から救い出す”クリエイション
WWD:今回のコラボレーションに、数あるスタイルの中から“ポートベロー”を選んだ理由は?
アルワリア:“ポートベロー”トートが大好きなんです。コンテンポラリーでいろんな使い方ができますし、サステナブルな原則に基づいて開発されたアイテムですから。そんな“ポートベロー”は、私にとって素晴らしい真っ白なキャンバスのようでした。今回のコラボアイテムもサステナブル認証項目をクリアしていて、英サマーセット州にある(カーボンニュートラルを実現した)自社工場で、(国際環境基準団体のレザーワーキンググループから)ゴールド認証を受けたレザーと再生ポリエステルの糸を使って作られています。
WWD:サステナビリティは、あなた自身やブランドにとってどのような意味や価値を持っていますか?
アルワリア:私は、いつもこのアプローチでコレクションを制作しています。地球上には、私たちが付加価値を与えることで、廃棄から救い出せる素材がたくさんあるのではないでしょうか。実際、「マルベリー」のストックにあった素材は限られていたので、バッグも必然的に限定数になりました。それによって、より特別なコレクションになったと思います。
着実に進む、幼い頃から志したデザイナーの道
WWD:あなたのバックグラウンドについても聞かせてください。いつ頃、何がきっかけでファッションデザイナーを志したのですか?
アルワリア:幼い頃から、ずっとファッションデザイナーを夢見ていました。たくさんスケッチをしていましたし、いつも母のファッション誌を読んでいました。とにかくできるだけ早くインターンを経験し、必要な技術をすべて身につけられるように学びました。
WWD:ナイジェリアとインドのルーツは、デザイナーとしての姿勢やブランドを通して伝えるメッセージにどのような影響を与えましたか?
アルワリア:さまざまな形で作品に影響しています。育った環境の中で、物心ついた時から黒人や南アジアの音楽や映画、カルチャーに影響を受けてきたので、自然とその要素が作品に反映されているのだと思います。また、(ナイジェリアの)ラゴスの活気とインドのクラフツマンシップからもインスピレーションを得ています。
WWD:ブランド立ち上げから3年間はメンズのみでしたが、今回ウィメンズウエアのコレクションをスタートしたました。このタイミングで始めたきっかけは?
アルワリア:ずっとウィメンズウエアに取り組みたい気持ちはありました。ただ小規模なブランドとしては、まずは一つのことにフォーカスし、ブランドのアイデンティティーをしっかりと固めることが必要だと思いました。ブランドが成長するにつれて、より多くの資金や知識を得ることができるようになり、ウィメンズウエア発表にふさわしい時期が来たと感じたんです。
WWD:2月には「英国デザイン クイーン エリザベスII アワード」を、今回のコレクション発表当日には「BFC/GQ デザイナー メンズウエア ファンド」を受賞されましたね。おめでとうございます。この支援プログラムから得たメンターシップと賞金をどのように活用しようと考えていますか?また、今後どのようにブランドを発展させていきたいですか?
アルワリア:ありがとうございます。なんだか本当に夢のように感じましたが、素晴らしいことですよね。このような機会を与えていただけたことにとても感謝しています。また、メンターシップと賞金は、来年、そしてその先に私たちのビジネスを発展させていくために欠かせないもの。メンタリングには私のチーム全員が参加できますし、賞金は鍵となる物流面やチームの育成に活用できると考えています。
なお、アルワリアの手掛けたコラボレーションバッグは現在、「マルベリー」のギンザ・シックス店と公式オンラインストアで販売中。「マルベリー」は9月にはリチャード・マローン(Richard Malone)、11月にはニコラス・デイリー(Nicholas Daley)との協業によるカプセルコレクションを発表予定だ。