「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDJAPAN2021年6月28日号からの抜粋です)
「女らしさ、男らしさ」NG。「女はやっぱりピンクが好き」NG。そして「女に生まれた喜び」も、もちろんNG……。気が付けば、世の中そんな風になっていた。これまでものの道理だった性差の多くを記事内で表現できない、ときには“性別”さえ言及できないという真新しいルールに、今まさに業界自体が戸惑っている状況。とりわけ歴史的に「美容は女のもの」としてきた美容記事には神経質なまでの規制がかかる。ジェンダーレスおよびジェンダーフリーを推進する一方で、ファッションとコスメほど、性別それ自体の美を追い求めていた分野はこの世になく、性別に対する言葉狩りはいかにもつらい。
看護師を看護婦と呼んでいた不条理は100%理解できても、また「女は、男は、かくあるべき」と決めつけるのはもちろんNGだと認識できても、「女性的、男性的」と言ってはいけない現実にはやはりまだ違和感が残る。コンシーラー的なアイテムに「青ひげにもどうぞ」という一文が入る時代、「女へ、男へ、」と性を限定して何かを提唱することすら許されない兆しは何やら不便だ。いや正直、何が是で、何が非か、まだ十分に精査されておらず、明快な境界線がないからこそ全部NGにしてしまう動きが起きているわけで、だからそこに、一抹の寂しさとともに少々の怖さを感じるのである。
ふと、かつての「不倫は文化」発言を思い出した。炎上もない時代に炎上したほどの発言。もちろん今さら肯定する気はないが、あれは不倫を全否定したら芸術も成立しなくなるという論旨だった。同様にもし本当に男と女を書き分けられなくなったらドラマチックでセンシュアルな表現は失われ、芸術の一部は行き場を失い、文化を停滞させかねない。
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