2022年春夏メンズコレクションは、ロンドンとミラノが終了し、舞台はパリへ。海外からの現地リポートも随時更新中ですが、ここでは日本でリモート取材中の先輩&後輩コンビがダイジェスト対談をお届けします。ここでは、後半(6月26〜28日)に登場した11ブランドをプレイバック!ヤギがいたり、目からビームが出たり、30分の超大作があったりと、後半も情報量多めでお伝えします。
【対談メンバー】
先輩・大塚:海外コレクション取材歴5年目。「WWDJAPAN」副編集長。昨年からランニングにハマって2ケタ減量に成功。サイズダウンによりファッション欲がさらに上昇。
後輩・美濃島:昨年から海外コレクション取材をスタート。「WWDJAPAN」記者としてデザイナーズやスポーツを取材するも、最近みるみる巨大化。サイズアウトする服が続出。
実験的映像で
ブランドの武器をアピール
大塚:「カラー(KOLOR)」はまたすごい見せ方だったねー。トレッドミルのようなマシンをモデルがウオーキングして服の動きを見せつつつ、無人カメラがディテールをクローズアップするという手法。
美濃島:360度カメラを使った2021年春夏に似てると思ったら、今回も映像作家・田中裕介さんのディレクションでした。サカナクション山口一郎さんが担当した音楽は、静かなテクノで映像に集中できるし、盛り上げるとこは盛り上げてくれて飽きず見られました。
大塚:見た目は何だか近未来っぽくてすごいんだけど、“静”と“動”を両立させて服の魅力を分かりやすく伝えられる。とっても理にかなっている手法だと思った。特に「カラー」のような大胆さと緻密さを併せ持つブランドにはピッタリ。今回も異素材ミックスやパーツのコラージュがすごかったね。
美濃島:ワンピースに襟を4つ重ねたニットポロを組み合わせたり、ロングシャツの見頃に左右異なるシャツをくっつけたり、ピークドラペルのジャケットの襟の上にショールカラーのニットを合わせたり。ぱっと見どうなってるかわからないほど複雑な組み合わせなのに、素材や色合いが計算し尽くされていて全く破綻していません。少女漫画のプリントなど、攻めのモチーフもあってその振り幅も面白かったです。
まかさの“お寺ンウエイ”
モデルが本堂に集結
大塚:「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」の日本シリーズがいよいよ極まってきた。今回の舞台はお寺で、まさかの寺ンウエイ。「幽玄」をテーマに、ブランドらしいエッジを効かせたストリートウエアのディテールを盛り込んでました。僧衣を思わせるトップスのシルエットや、着たときにドレープが生まれるバイアスのカッティング、ややくすんだカラーパレットは、時間の経過によって朽ちていく物の美しさを表現しているのだとか。今シーズンは「カサブランカ(CASABLANCA)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」も日本をテーマにしていたけれど、本家の表現はやっぱりひと味違うわ。どちらが大衆に受け入れられるかどうかはさておき、ギリギリの表現に挑んだ姿勢は素晴らしい。
美濃島:最後、本堂にモデルが集結するシーンはなかなかシュールでしたが(笑)、日本ブランドというイメージ作りは文句なしで1位です。はかまのようなワイドショーツや頭から顔を袈裟で包む“裏頭(かず)”に着想したフードブルゾンなど、自衛のために武装した僧侶“Warrior Monk”をスポーツウエアをベースに表現していました。日本の伝統を感じさせるパキっとした赤に、未来的なリフレクター素材を織り交ぜるなど、時代を超越する組み合わせも面白かった。
スナック、空港、多様性
映像という“おもちゃ”を
存分に楽しむ
大塚:「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」は空港での撮影だったのかな?前シーズンの映像でも登場した場末っぽいスナックから始まり、しかもカラオケのムービーにまたプレスの佐藤さんが出演していて笑っちゃった。美濃島さんは現場も取材したんだよね?
美濃島:はい、羽田空港第2ターミナルでの撮影でした。某アーティストのMVにインスパイアされてこのロケーションを選んだのですが、通常なら絶対に使用許可は降りない場所。今しか実現しない映像なので、作り手も受け手も「ああ、あの時撮ったんだな」とメモリアルなシーズンになったと思います。
大塚:前回のコマ送り映像もすごい労力だったそうだけど、今回は意外とさらっとしてなね。
美濃島:映像はシンプルですが、実は演出にすごく凝ってるんです。多様性を表現するため50人以上のモデルが登場し、モデル1人1人に「虫取り網」「ダンス」「テニス」「マジック」などの演技テーマを設定。演技を嘘くさいものにしないため、オーディション時に趣味や特技をヒアリングしたそうです。当日も「動かされてるんじゃなく、自分から動く感じで」と自ら指導する姿があり、三原康弘デザイナーの妥協なき姿勢にシビれました。「次はリアルだから、映像はこれが最後。映像という“おもちゃ“を思う存分楽しみたい」という三原康裕デザイナーの思いが詰まっています。
大塚:前回は三原デザイナーも映像に登場してたけど、今回はどうだったのかな?
美濃島:警備員を模して、オレンジのつなぎ姿でちらっと登場しています。スナックを舞台とした冒頭など、クスっと笑える要素を盛り込むのは、「普通にショーを見せても早送りしたくなる。飽きずに見てもらうには、コメディが大事だ」と考えているから。三原デザイナーは毎シーズン、各ブランドの映像をくまなくチェックするそうで、長年業界をけん引し続けているのは、この姿勢があるからんだなと感服しました。
大塚:うわー、本当にすごいね。発表形式が変わって一番大変なのはブランドのはずなのに。常に前を向いてる姿勢にこちらが元気づけられるよ。
美濃島:バチバチの演奏を披露していたのは、インストバンドLITE。「ショーの演奏は初めて。しかも『ミハラ ヤスヒロ』で、こんな場所できるなんて、事件です」と語っていましたが、緊張した様子はなく、毎回最高の演奏でした。ライブシーンではモデルたちも自然と体が揺れ、本当のライブのよう。映像にBGMを後乗せするだけでもいいですが、ここでもリアルの強さが出たと思います。
大塚:服はいつもよりも少し大人の印象を受けたのだけど、実際もそんな感じ?
美濃島:黒やカーキ、ベージュなど落ち着いた色味がベースですが、ジャケットやコートの肩が思い切りはみ出ていたり、いたるところに切り込みがあったり、パンツが超ワイド&ねじれのパターンワークだったりと、ルックでは伝わらない存在感がありました。マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)を彷彿させるマウンテンハットは「カシラ(CA4LA)」との、サングラスは「ブラン(BLANC)」とのコラボモデル。GUとの協業も記憶に新しいですが、こんな時だからこそ、いろんなものづくりに挑戦しようという三原デザイナーの気概が伺えました。
目にもやさしい
アウトドアワールド
大塚:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」の映像がビックリするぐらい進化していてきれいだったわ!まず空間ですよ。天井は水面のように優雅に波打ち、地面はパステルイエローでもはやヘヴン。同様に、キーカラーの一つがイエローだったり、ヒマワリのモチーフを多用したり、レジャーへの欲求を優しく盛り込んでいたのかな。
美濃島:緑ではなく、イエローや赤などで自然を表現する感覚は、カラッとした気候を持つヨーロッパならではかも。水平線や地平線を思わせるボーダーも差し込み、自然の壮大さと優雅さ届けます。映像は徐々に照明が暗くなり、最後は夕日のような優しいオレンジに。音楽もゆったりしていて、とても癒されました。
大塚:アウトドア仕様のユーティリティージャケットや軽快なショーツを、テーラリングと自然に融合させるバランス感も素敵。何より、カラーリングのセンスで勝利です。マルチストライプのバッグもかわいかった。
美濃島:ペイントが途中で切れるクリエイションが可愛かったですね!僕は「ポーター(PORTER)」とのコラボバッグが気になりました。
超フリーダム&
ジェンダーレス
美濃島:ルックではサッカーしてたり、バイクに乗ってたり、目からビーム出しちゃったりと本当に自由。ロープを無数に垂らしたパンツやビーチでたむろする人々のイラスト、丸いくり抜きディテール、突如現れるサテンのリボンドレス、スパンコールでギラギラのワンピースなど、クリエイションの軸は正直よくわかりませんが、“洋服を通して楽しさを伝えたい”という思いはビシビシ伝わってきます。
大塚:クラフツマンシップを大切にするブランドは“服”というより“作品”になってしまうことも珍しくないのだけど、今シーズンの「ロエベ」はパワーみなぎるスタイルが先行しているからワクワクしたし、純粋に楽しかったよ。
美濃島:緑と黒のアナグラムの総柄は過去のシーズンからのキャリーオーバーで、サボテン由来のレザーなど、サステナブルな要素も盛り込みます。アイコンバッグ“パズル”はソフトな質感とビッグサイズにアレンジ。象のバスケットバッグはこれでもかと装飾され、持ち歩くだけで小さな悩みが吹き飛びそうでした。
冒頭のCGに一瞬ヒヤリ
美濃島:冒頭が意外すぎて、別ブランドの動画見てるのかと焦っちゃいました。モデルが登場しても背景がCGキャラの接写になり、終始集中力を削がれました。
大塚:テーラードやジェンダーフリュイドのフォームは変わらず、今回はものすごくテキスタイルを頑張ったのだなと伝わってきた。ピッチも太さもランダムなボーダー柄や編み地が多彩に変化するニット、アニマル柄のような複数のパターンなど、表面がめまぐるしく変化して面白かったな。ただ、個人的にやっぱり気になったのは真骨頂のテーラリング。序盤のネイビーパートのパイピングシリーズがかっこよかった。
美濃島:裏地を伸ばして揺らめかせたり、襟のパターンを左右で変化させたり、肩や裾をくりぬいたりとクラフト感あるテーラードも健在でしたね。水墨画のような和風な総柄は、軽やかだけど「ラルバム」らしい“悪さ”もあって個人的にドンピシャでした。
“超えられない山はない”
美濃島:いやー、「ロードオブザリング」のワンシーンのみたいな映像でしたね。山のてっぺんでの撮影でしたが、あそこまでどうやって移動したんだろう。
大塚:今シーズンは都市生活とアウトドアの境界線の超越を目指したのだとか。ブランドとしてはずっと向き合ってきたテーマだとは思うけれど、あくまでファッションからのアプローチ。カラーパレットは必要最小限に、デザインとしても主張する機能的ディテールや花のモチーフがいっそう映えます。世間は自粛の反動でアウトドアへの欲求が高まっているし、ブランドにとっても追い風になるかもね。
美濃島:アウトドア市場は絶好調ですし、ファッション×アウトドアに参入するブランドは多いですが、ここまで高次元で融合させる技術とセンスはさすが。「バブアー(BARBOUR)」と協業したハンティングジャケットや「ダナー(DANNER)」とコラボしたモカシンブーツなど、人気のコラボも継続していました。
“いい子ちゃん”では
終わらせない
大塚:「ダブレット(DOUBLET)」は前シーズンのほっこりムードから一転。パンク一直線のぶっ飛ばし系クリエイションで大笑いしました。会場は三鷹のオーガニック農園で、ティーザー画像もそこで飼っているヤギを前面に押し出すもんだから、てっきり地球に優しい系のほっこりクリエイションなんだろうなと思っていたのに、まんまとやられた。これ、絶対チームぐるみでの確信犯だよね(笑)。
美濃島:案内から完全に騙しにかかってました(笑)。会場でもディズニーみたいな平和なBGMが流れていたのに、ショーがスタートすると一転。ネオンが光りゴリゴリのパンクミュージックが鳴り響き、ヤンキーのようなスタイルが連発されます。マッシュルームレザーをはじめ、実はサステナブルな素材がふんだんに盛り込まれているそうで、スタイルとのギャップに驚かされました。ザ・真面目な優等生キャラは性に合わないのでしょうね。
大塚:モデルは実はオマージュキャラがいて、冒頭のナンシー・スパンゲン(Nancy Spungen)をはじめ、ジョン・ライドン(John Lydon)やスー・キャットウーマン(Sue Catwoman)、シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)や映画「タクシードライバー」のトラヴィスとか、もはやパンクとか関係なくてんこ盛り。そういうキャラ探しも楽しいね。
美濃島:だ、誰1人気付きませんでした(汗)。そういうネタがあると何度も映像で確認したくなりますね。
若者路線は吉と出る?
美濃島:テーマは“アイデンティティー“。上質なジャケットをオーバーサイズで、そこにフーディーやシェル、キャップを合わせて着崩すスタイルです。若干既視感もありますが、今っぽいです。
大塚:今シーズンは春夏だからか、よりスポーティーでキャップやマーブル柄のアクセをぐいっと主張してくる感じ。もともとクラシックをモダンに進化させてきたブランドなだけに、とてもきれいにまとめているスタイルもあれば、ちょっと強引かもねーというルックがあるのも正直なところ。
美濃島:超かっこいいマーブル模様は、アメリカ人アーティストのエレン・キャリー(Ellen Carey)によるもの。トップスからハット、アイコン“ロックバッグ“にまで採用して、キャッチーさを添えていました。コートは下身頃を取り外してブルゾンとしても着られるギミック。いろんな挑戦が見られますが、消費者がどんな反応をするのか気になりますね。
大塚:センスがあるのは間違いないので、今後はZ世代に“「ダンヒル」である必要性”をどこで感じさせるのかに注目していきたいです。
超大作に込めた
メッセージを勘ぐる
美濃島:今シーズン最長じゃないですか?めちゃくちゃ構えてPCに向かうと、美しい原っぱを走る男子が映し出されました。
大塚:この男性がスポーツの祭典に出場するためにトレーニングを積む日常を過ごし、いよいよ本番の日を迎える。この時点ですでに16分。そして準備万端で競技場に足を踏み入れると……パーンとアニメーションに切り替わるという意外な展開に。シュールなアニメが約7分間続き、男の帰路を追いかけて映像が終了。音楽もいいし、映像もきれい。でもトム様、僕たちはこの映像で何を語ればよいのでしょうか(涙)。
美濃島:大塚さん、僕らは何も語らなくていいんです。朝日とともに目覚め、一日中草原を走り周り、心地よい疲労とともに家に帰り、夕日を眺めてから就寝する。途中までただそれだけの繰り返しですが、1日ごとの景色が違って見えて、人生は毎日の繰り返しなんだなと感動すら覚えました。コレクションビデオというより完全に映画。洋服はルックで見せればいい。全ブランドそれだと困りますが、これくらい作り込んでくれるなら大歓迎です。スーツスタイルに身を包んだときの高揚感は、ドレスアップとハレの場の大切さを物語っていました。すごい映像体験だったな。
コーマシャルも意識する
大人な「ワイプロ」
大塚:はい、いよいよ終盤戦だよ!お次は「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクター就任でノリに乗ってるグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」。今シーズンの映像は“Y”の字のランウエイを複数人のモデルたちがランダムに歩く演出。つまんだりねじったりするヒネリエイションは変わらずなのだけど、なんかこうコマーシャルを意識する余裕が出てきたというか。数年前までは足し算だらけで奇抜だったのか、いい意味できれいにまとめるセンスがついてきたのはやはり資金力からくるソレなのか。
美濃島:Yを模したピアスや布をねじったようなバッグなど、売れ線アイテムがちゃんと用意されてましたね。ネックがいくつもあったり、ウエストが二重になったりといつものグレン節のクリエイションですが、落ち着いたカラーパレットのためか落ち着いた印象も受けました。
大塚:途中から「フィラ(FILA)」とのがっつりコラボが出てきたね。
美濃島:「フィラ」とのコラボはロゴテープをぐるぐる巻いたり、前身頃が取り外せるスナップ式だったりと、実験的なアプローチが爆発していました。デジタルとフィジカルを組み合わせて“フィジタルショー“と冠していたのには笑いました。
「アリックス」からハードウエアがなくなった!
美濃島:リック様路線ですが、爽やかさは皆無。ざらついた質感とダイナミックな音楽で、おどろおどろしささえありました。
大塚:同じ海辺だけど、こっちは夕暮れ時だったしね。映像を手掛けたのは、アーティストのジョーダン・ヘミングウェイ(Jordan Hemingway)。ここのブランドは常に都会的なイメージを発信してきたから、自然の中で見るのは新鮮だったわ。海辺ランウエイから山ランウエイ、崖ランウエイなどシーンが多彩に切り替わるので飽きずに見られたし。
美濃島:人工的なクリエイションと自然のコントラストが際立った映像でしたね。モノトーンのカラーパレットやテック感のある素材感、直線的なパターンワークなどマシューらしさはうっすら続いていますが、代名詞のハードウエアが皆無。ぱっと見だと「1017 アリックス 9SM」だと気づかないかも。
大塚:スポーティーかつインダストリアルな一時期のウリを意図的に削ぎ落としているのかなと。よく見ると名残はあるのだけど、ストリートキッズたちが夢中になったバックルの“バ”の字もないからね。着やすくなっているのかもしれないけど、シグネチャーでしかできない冒険心も忘れないでほしいとは思うかな。
美濃島:かつてのやり方に飽きているならよいですが、意識的に削ぎ落としてるなら、むしろガンガンせめていって欲しいです。アクセサリーはけっこう頑張ってて、流線形のプラットホームサンダルはヒットしそうですね。
<後半戦を終えて>
美濃島:後半戦は予算のあるブランド多めで、どれも見応えがありました。個人的には「ポール・スミス」と「トム ブラウン」がヒット。各国でワクチン接種が進んでいるし、次はいよいよリアルショー復活かも。でも、映像は作り手のメッセージを込めやすいし、表現の幅が無限大なので、シーズンごとに最適な方法を選ぶのが当たり前になるといいですね。