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「エルメス」に感動し息をのみ「カサブランカ」の着想源“マサオさん”に癒される 2022年春夏メンズコレ現地突撃リポートVol.6

 2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。

 ボンジュ〜ル!雨のち曇り、最高気温24度。2022年春夏メンズ・コレクションの最後の日記となるパリメンズ5&6日目をお届けします。終盤には私が好きなブランドのコレクション発表&展示会が盛りだくさんで、最後の最後までたくさんの胸キュンとサプライズが……!どうかこの感動を記事を通して多くの人と共有できますようにと願いつつ、今シーズンラストの“現突リポ(現地突撃リポート)”スタート!

6月26日 12:00 ロエベ

 “夜遊び”をテーマにした今季の「ロエベ(LOEWE)」の映像は、ディスコが舞台。コレクションは、ニューヨークを拠点に活動するドイツ人芸術家フローリアン・クラマー(Florian Krewer)から着想を得たそうです。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はいつものセクシーボイスで「今季のムードは“不器用な美しさ”」だと語り、弾けるような鮮やかなカラーで楽観主義を表現しています。密集する人だかりの中で踊る解放感と快楽、そこに生まれる一体感――パンデミックによって1年以上禁じられファンタジーを呼び起こすような映像でした。ロゴを模様にしたネオンカラーのトレンチコート、スパンコールで施されたアニマルプリントや背面に金属の飾り板を配したコートなど、きらびやかなルックが心を躍らせます。昨シーズンのウィメンズコレクションでは「カラーセラピー」という言葉を使って、色が人間心理に与える影響に興味を持っていたジョナサンの意図が、今回のメンズにもよく表れていると思います。ドレープが利いたチュニック、透け感のあるトップスやカットアウトの隙間から覗く素肌がさり気なくセクシー。服の形や性差、抑制、色彩などさまざまな固定観念から解き放たれたような、超快楽主義なコレクションでした。そして、イギリス人写真家のデイヴィッド・シムズ(David Sims)が撮影したルック写真が最高!ジョナサンが自身のブランドと「ロエベ」で常に掲げる“ユース(青春)”と今季のナイトライフ、短い夏といった全てに共通するキラキラした瞬間を捉えながらも、どこか儚さも漂います。

 ジョナサンが優れたデザイナーであり表現者だと感じるのは、自身のブランドと「ロエベ」がしっかり棲み分けできているところ。また、コレクションピースでは各シーズンのテーマを芸術的に表現しながら、その要素を取り入れつつウエアラブルに落とし込んだコマーシャルピースのバランスの良さにもあります。クリエーションが強すぎて「これいつ着るの?」的なルックに見えても、店頭に行けばちゃんと日常で着られる服が並んでいるんです!!ジョナサンのクリエーションが大好きなので、ついつい愛がダダ漏れで熱を込めて書いちゃいました(笑)。

6月26日 14:00 エルメス

 人って感動した時、本当に息をのむんです。「エルメス(HERMES)」の展示会場でルックに触れて、何度息をのんだか分かりません。リアルなショーには参加できませんでしたが、ショー映像を見ただけで、今シーズンのテーマである軽やかさやリラックス、自由の感覚といった要素が上質な生地と仕立ての良さで十分に伝わってきました。今季は屋外での活動が再開することを想像し、アウトドアのアクティビティや旅に適したルックとアクセサリーが展示会場に並んでいました。撥水加工が施されたナイロンのように見えるテクニカル素材をはじめ、コットンリネンやシルク混のコットンキャンバスなどは、軽量なうえにシワになりにくい機能を備えています。ファーストルックで登場したリバーシブルのコートや、やわらかいワニ革の淡いエメラルドグリーンのブルゾンでさえ、信じられないぐらいの軽さ!多くのルックの足元を飾ったハイカットのスニーカーも、ナイロン風のテクニカル素材を使用して軽快。息をさんざんのみまくった中でもナンバーワンに息をのんだのは、ショーでも際立っていたオレンジとピンクが美しいカシミアのカーディガン。袖を通すと、まるで綿菓子みたいに軽く、着ているというより包まれているような感覚を覚えました。「上質さの極み!さすが『エルメス』のなせるワザ」と感動しまくっていたら、私のリアクションがオーバーすぎて、担当してくれた現地プレスの方が若干引き気味でした(笑)。すみません。ショーに登場しなかったアクセサリーとしては、トラベルポーチやペイントが描かれたパスポートケース、初めて制作したというキャリーケースなど旅のお供となるアイテムが豊富でした。

6月26日 15:00 ポップアップショップめぐり

 パリメンズ時期に合わせて開かれた、ポップアップに2つ行ってきました。まずは、ベルリンを拠点にするストリートウェブメディア「ハイスノバイエティ(​HIGHSNOBIETY)」が1週間だけ開催した”Not In Paris”というショップ。ディレクションを務めたのは、パリの伝説的セレクトショップ「コレット(Colette)」でクリエイティブ・ディレクターを務めていたサラ・アンデルマン(Sarah Andelman)。20平米ほどのコンパクトなスペースは、観光名所であるカフェ・ド・フロール(Café de Flore)の店内を模した内装です。ECサイトでも販売している「ベイプ(BAPE)」「ロンシャン(LONGCHAMP)」「スケートルーム(THE SKATEROOM)」など、多くのブランドとのコラボアイテムが並んでいました。

 続いて、2021年春夏デビューの日本のブランド「イコーランド トラスト アンド インティメイト(EQUALAND TRUST AND INTIMATE)」のポップアップへ。日本古来の素材や染色方法を取り入れ、環境へ配慮した生産法を用いています。北マレのポップアップには地元客やドイツ人観光客が通りすがりにフラッと入店し、エシカルなコンセプトと素材感が気に入って購入していったそうです。植物からの原料で染色した黄色のドレス(248ユーロ、約3万3000円)と、日本産のリネンを使ったリラックスパンツ(198ユーロ、約2万6000円)が売れているとのこと。洗濯機で洗えるカシミアジャージーのカットソー(110ユーロ、約1万4000円)で男女問わず、肌触りの良さが好評で数枚購入する方も。販売担当者は「天然素材や植物を使った染色という、ナチュラル志向なコンセプトを気に入る人が多い」と教えてくれました。

 16年に及ぶ長期リノベーションを経て営業を再開した百貨店「サマリテーヌ(LA SAMARITAINE)」についてもリポートしたかったのですが、長蛇の列で入店を断念……。3日続けて行ってみましたが、どの日も30分以上の待ち時間。人々が「買い物したい!」と消費活動に意欲的な証拠なので、小売業にとっては明るい兆しかもしれませんね。外にいた店員のユニフォームがかわいかったのでパチリ。

6月26日 16:00 トラノイ

例年なら約150ブランドが出店する合同展示会「トラノイ(TRANOI)」は今季、若手デザイナーの支援を目的とした小規模な展示会を開催。パレ・ド・トーキョー内のスペースには20ほどの新進ブランドが並んでいたものの、かなり閑散としていて寂しい様子でした。私のお目当ては、昨年の「イエール国際モードフェスティバル(34e Festival International de Mode, d'Accessoires et de Photographie à Hyeres)」で会ったセリーヌ・シェン(Celine Shen)に話を聞くことでした。中国系フランス人の彼女は、パリ国立工芸学校でファッションデザインを学んだ後、「メゾン アライア(MAISON ALAIA)」でのインターンシップを経験。ペイントや墨を使ったアート制作にも取り組んでいて、今年3月には初の個展も開催しました。現在はブランドを本格的にデビューさせるためにコレクションピースの制作に挑戦中。「ベストだと思えるコレクションを、ベストなタイミングで出したい。今はまだ時期尚早なので、焦らずに進めているの」とのこと。フランスの文化放送局アルテ(Arte)から取材を受けるなど、少しずつ注目されているので、今後が楽しみです。

6月26日 18:00 カサブランカ

 今シーズンの「カサブランカ(CASABLANCA)」のテーマは"マサオさん”!もう1回言いますよ。“マサオさん”です。「え?サザエさんの夫?マスオですよ?」とか考えていたら、展示会場でデザイナーのシャラフ・タジェル(Charaf Tajer)が「マサオさんは僕の日本人の友人さ」と教えてくれました。"マサオさん"は東京でレストランに勤める男性で、タジェルとは10年以上親交があり、彼のスタイルにインスパイアされてコレクションを制作したとのこと。「日本は大好きな国で、これまで26回も行った。マサオさんは日本の文化や社会、ローカルしか知らないディープなスポットまで色んなことを教えてくれる大切な友人なんだ。でもパンデミックの影響で日本には1年半も行けていない。だから第2の祖国と呼べるぐらい愛している日本とマサオさんを思ってデザインしたんだ」とタジェル。1980〜90年代の日本の卓球文化から着想を得て、シルクのシャツに富士山や沖縄の海の風景、卓球の玉が飛ぶアニメ風のロゴを配したプリントが描かれています。コラボレーション以外で初めて展開するシューズは、バンブーの装飾が施されたローファーです。デジタル発表の映像で卓球をしていたのはフランスの卓球選手で、ラケットとボールは卓球用品メーカー「バタフライ(BUTTURFLY)」とのコラボレーション。映像でチラッと出てきた「フジフィルム(FUJIFILM)」とのコラボカメラの詳細は、近日中に発表されるそう。

 全体的にパステルカラーで彩られているのは、「昨年生まれた赤ちゃんのベビー用品を見ているうちに影響を受けたから」だと言います。原宿やカワイイスタイルも意識したのかを聞くと、「確かに、多くの外国人が日本といえばパステルカラーのカワイイスタイルをイメージするよね。でも日本の魅力ってそんな表層的なところじゃないし、むしろそことは切り離して見て欲しいって思ってる」と、話せば話すほど溢れる日本愛。何だかうれしくて癒されます。2年前の「WWDJAPAN」の取材でも日本愛を語り、日本をテーマにしたコレクションを作りたいと話していたので、今回はその念願が叶いました。「日本をテーマにしたコレクションなら10シーズンぐらい余裕で作れちゃうよ!だって、知れば知るほど魅力的な国で、決して僕の興味が失せることはないからさ」。

6月26日 20:00 フィップス

 ジェンダーフルイド(性的流動性)が声高々に主張される現代において、”男らしい”という表現を使うには注意が必要ですが、「フィップス(PHIPPS)」のコレクションは疑う余地なく“男らしい”ものでした。デザイナーのスペンサー・フィップス(Spencer Phipps)は展示会場で「パンクやミリタリー、スポーツ、バイカー、部族のそれぞれのコミュニティーで着る服が与える視覚的表現を調べ、現代にも精通する”男らしさ”を探った」と教えてくれました。レザーのパッチワークやスポーツユニフォームのアップサイクリング、バイカージャケットとテーラードをドッキングするなど、今季もDIY精神を貫いています。要素の盛り盛り感は否めませんが、創意工夫はピカイチでした!

6月27日 14:00「ジル サンダー」

 パリメンズ最終日にデジタル発表でコレクションを披露した「ジル サンダー(JIL SANDER)」。今季もクローズアップや暗がりシーンが多く、“雰囲気系”の映像ではルックがよく見えませんでした。画像で見ると、日本のウールを使ったハリのあるコートやシャープなラインのシャツジャケット、首に巻いたふわふわのシルクのようなスカーフなど、生地に焦点を当てているルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie & Luke Meier)の美学が伺えました。直線的なオーバーサイズのコートや、ボリュームを持たせた丸みのあるフォーム、ダボつかせたボトムの裾のシルエットも遊びがあって美しい!カラーブロックや広告を模したグラフィックはニューヨークの90年代のポップアートのようで、小物使いによってストリートウエアの要素がいつもより強めでした。

 「ジル サンダー」は今年3月に、オンワードホールディングスからOTBグループへ株式譲渡されたため、現在はOTB傘下として新たなディレクションや戦略への移行期間といったところ。またコレクション発表の数週間前に、ルーシーが第一子を出産したそう。会社とクリエイティブ・ディレクターの私生活の環境の変化が、今後どのようにデザインに現れてくるのか楽しみです!

6月27日 17:00 ルメール

 今シーズンのパリメンズを締めくくるのは、「ルメール(LEMAIRE)」の展示会です。コレクションは20世紀初頭に活動したアフリカ系アメリカ人画家、ジョゼフ・ヨアキム(Joseph Yoakum)の作品からインスピレーションを得たそうです。「ルメール」の魅力の一つであるニュアンスカラーの色彩は、風景画を描いたヨアキムの作品を反映させ、砂やレンガ、ダークな曇り空の色に染まっています。コレクションはほぼ全てユニセックスでの提案で、今季からXXSサイズが登場するとのこと。そういえば現ブランド名になる前の「クリストフ ルメール」時代にも、XXSサイズがありました。肌を“プロテクション”することをテーマにしていた前シーズンとは対照的に、シースルーや軽やかな素材使いで解放的な印象に。ナチュラルダイ(天然色素を使った染色)によって一つずつ色ムラの異なるアイテムや、洗うごとにやわらかく肌になじむ麻を通じて、時間をかけて”服を愛でる”楽しさを教えてくれます。ここ数シーズンは登場の少なかった、デニムを使ったアイテムも豊富でした。私のお気に入りは、撥水加工が施されたふわふわにふくらむレインコートです。「ルメール」の服は、着てみると意外なシルエットが生まれたり、ちょうどいいところにポケットがあったりと、機能性と美しさが緻密に計算されているのだと分かり、たくさんのうれしいサプライズを与えてくれます。

 クリエイティブ・ディレクターのクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)は、かつてDJをしていた経験もあるほど音楽好き。今季は過去にショーの音楽を担当したミュージシャンのトマガ(Tomaga)が描いたプリントのTシャツや、ドイツの楽器メーカー「ホーナー(HOHNER)」が制作した小さな笛とハーモニカのネックレスなど、コラボレーション作品にも音楽要素を発見。この笛は小さいのにかなりの音量だそうで、防災用としても機能しそう。移転したオフィス兼展示会場は、木のぬくもりとたくさんの観葉植物が飾られていて、なんだか癒されました〜。

本日のパン

 パリメンズ最後は、フランスで一番ベタなパン、フランスパン!ユネスコ世界遺産の無形文化遺産の候補となっているほどの伝統的なパン。小麦粉、イースト、塩、水のみで作られていますが、シンプルなものほど複雑で、作るには巧みな技術を要するそうです。フランスパンに欠かせないバターは、フランスではエシレ(Echire)派とボルディエ(Le Beurre Bordier)派に二分。私のお気に入りはボルディエの海藻入りバター。この海藻が何の種類のなのか分かりませんが、ほのかな磯の香りと塩気がバターの美味しさを引き立てて、大人な味でおいしいんです〜。唐辛子、にんにく&ハーブ、レモン&オリーブオイル、柚子などのバリエーションがあって、三ツ星レストランでも提供されています。お餅に海藻入りバターと少しのカラスミを乗せて海苔で巻いた、”カラスミ餅”は私の友人から好評なおつまみなので、ぜひお試しあれ。磯の香りを口いっぱいに楽しみながら、今季のビーチや旅をテーマにした各ブランドの映像を見返しつつ、来たる夏に胸が騒ぎます!多くのデザイナーが口にした「抑制から解放された自由な感覚」がそう遠くない未来で私たちを待っているはず。明るい未来に期待できる、2022年春夏シーズンでした!

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