6月17日に米アメリカンイーグルグループの「エアリー(AERIE)」が日本向けECを立ち上げ、日本市場での再スタートを切った。「エアリー」は西海岸テイストのカジュアルなインナーウエアやアクティブウエア、水着を展開し、日本でも一定数のファンを獲得していたが、2019年の「アメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」の日本撤退と共に実店舗もECも閉鎖していた。再上陸にあたり、6月7日に公式インスタグラムアカウントで「日本の皆さん こんにちは! エアリーが帰ってきます!」と投稿、ECの再オープンを告知すると、「待ってました!」「嬉しい!」などのメッセージが続々と寄せられた。
「エアリー」はリアルな美しさを尊重し、現在、世界的に広がる「ボディー・ポジティブ」のムーブメントを牽引したブランドだ。14年にプロのモデルではなく一般の女性たちをモデルに起用し、広告写真などを一切リタッチ(修正)しないと宣言。個性あるありのままの美しさを賛美し、全ての女性を応援するというポジティブなメッセージを発信し、「#AerieREAL」のハッシュタグと共に広がった。
その一方、当時は「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)」の豪華絢爛なファッションショーでステージを歩くスーパーモデル”エンジェル“が女性たちの憧れとされていた。「エアリー」の宣言は素晴らしいものの「#AerieREAL」がどこまで支持されるのか未知であり、少なくとも日本では一般の女性が下着のモデルになるのは難しいだろうと筆者は予想していた。実際、プロのモデルでさえ、下着OKの日本人モデルはかなり限られていたからだ。
日本では「ピーチ・ジョン」が先鞭、大手メーカーも多様性を意識
それから7年で世の中はすっかり変わった。17年頃から下着業界では「ボディー・ポジティブ」という言葉が広がり、多様な体形のモデルが広告ビジュアルやショーに起用されるようになった。日本でも様々な体形の女性が下着のモデルを務めることは特別なことではなくなり、14年当時の筆者の予想は杞憂に終わった。
日本でのその流れを決定づけたのは、19年6月にスタートした「ピーチ・ジョン(PEACH JOHN)」のリアルサイズモデル(TM)募集だろう。SNSを通して約600人が応募し、13人を選出。その後、20年2月に発売されたお笑いコンビ、フォーリンラブのバービーさんとのコラボ商品では、彼女とともにビジュアルに登場し、多くのメディアで取り上げられ注目を浴びた。20年9月にはリアルサイズモデル第2弾が募集され、それには約1200人の応募があり、第1弾のリアルサイズモデル(TM)に憧れた応募者が多かったという。
大手メーカーでも多様な体形のモデルを起用する動きは顕著で、ワコールが1月にスタートした「ワコールサイズオーダー(WACOLA SIZE ORDER)」では体型も肌色も異なる女性たちがメーンビジュアルを飾り、約3000通りのサイズからジャストフィットの1枚を作ることができるブランドコンセプトをわかりやすく表現している。また、トリンプ・インターナショナル・ジャパンは4Dストレッチ構造で様々な体型にフィットしやすいブラジャー“フィット スマート(FIT SMART)”のビジュアルで多様な体形や人種のモデルを起用した。
「私のブランド」と思わせる等身大モデルの存在
もちろん、大手メーカー以外でもこうした動きは顕著だ。ファッションとして楽しめるランジェリーを国内外からセレクトするECランジェリーショップ「イルフェリーノ(IL FELINO)」は、北菜月ジェネラルマネージャーや販売スタッフが自らモデルとなってSNSで発信し、ファンからの熱い支持を集めている。5月にはプラベートブランドをリニューアルして発表し、そのビジュアルのモデルはSNSを通して応募した。同ブランドでは今後、ユニセックスアイテムも増やす計画でジェンダーの壁も取り払おうとしている。
同じくECランジェリーショップ「ダイガーリリートーキョー(TIGER LILY TOKYO)」は、プライベートブランドでAAカップからJカップまで展開する“ご自愛ブラ”をマクアケで発表し、目標金額20万円に対し492万1660円を達成した。この幅広いサイズ展開を体型の異なる3人のモデルで表現し、コンセプトをわかりやすく伝えている。
上記に紹介した例以外にも、インスタライブで販売スタッフが下着を着用して商品紹介するブランドもある。憧れより共感が求められる今、現実離れした体形のモデルより「私と同じ」「私と似ている」体型のモデルや販売スタッフの登場は「私のブランド」と思ってもらえる近道となり、エンゲージメントも高くなる。それは服でも同じだろうが、同じサイズでも様々な形のバストやヒップがあり、商品選びが個々の悩み解決そして自信へと直結する下着では、消費者と等身大のモデルや販売スタッフが果たす役割はより大きいと予想する。
2014年に「エアリー」が発信した「リアル」や「ボディー・ポジティブ」は、エンパワーメントやセルフラブなどの追い風もあって7年の間に熟し、日本でも定着しつつある。そのメッセージが共感をもって受け入れられる土壌が整った今、再上陸の成功、そしてさらにポジティブなメッセージの発信に期待する。