末安弘明デザイナーが手掛ける「キディル(KIDILL)」が、2022年春夏コレクションをパリ・メンズ・ファッション・ウイークで発表した。今季のテーマは“Innocence(純粋性)”。東京・赤坂の草月会館内にある、イサム・ノグチが手掛けた石庭「天国」を舞台に、いつも以上に強く、狂気に満ちたパンクスタイルを披露した。末安デザイナーは「コロナが直撃した去年の春夏は、(型数減らすなど)弱気になっていた。つまんなくて、ただの服になっちゃっていた。それを二度と繰り返したくなくて、とにかく強いものを作りたかった」と今シーズンに込めた思いを語った。
アーティストとのコラボで
“純粋性”を増幅
欲求のままに制作活動を続ける複数のアーティストとコラボし、コレクションの“純粋性”を追い求めた。英国人アーティストのトレヴァー・ブラウン(Trevor Brown)は、口紅をいびつに塗った少女や首を落としたラブドールや、きのこの笠を被り裸で祈りを捧げる子供など、グロテスクなモチーフをポップに描くタッチを得意としている。彼の作品をオーバーサイズのスエットに大きくプリントしたり、総柄のスーツにしたりして、「キディル」のパンキッシュなスタイルにおどろおどろしさを添える。ロープアーティスト、ハジメ・キノコとの協業では、素肌やTシャツの上から緑やピンクの縄で緊縛したダイレクトなボンテージスタイルを提案。一見不自由に見えるが、「縛る者と縛られる者との信頼の形」とも解釈でき、テーマの“純粋性”を象徴している。その上からスプレーを吹きかけたり、無数のファスナーを付けたり、強いダメージ加工を施したりして、末安デザイナー自身の創作意欲もぶつけた。純粋さを表現するには要素が多いように感じたが、「これが作りたい」「この服を見てほしい」という“純粋”な感情は、ひしひしと伝わってきた。
インスタレーションの途中には、世界的ノイズミュージックバンド非常階段のボーカルJUNKOが登場。「叫び」という本能的な行動を通して、“難しく考えず、思いのままに表現しよう”というメッセージを届けた。
コロナを経験したからこそ、フィジカルでの発表に強くこだわる。「生の方がよくないっすか?映像だけ作って配信するよりも、リアルでやったほうが楽しいし、その方が意義があると信じてます。来年1月はパリでやれると思う。そこでも、テンションあがるものを作るだけです」。