世界を自由に飛び回ることが難しい時を過ごす中、多くの人が人生を豊かにしてくれる旅という体験を渇望している。6月29日に南イタリアのイスキア島で発表された「マックスマーラ(MAX MARA)」の2022年リゾート・コレクションも、まさにそんな思いから生まれたものだった。ショー会場となったのは、ナポリ湾を臨むホテル メッツァトーレ(Hotel Mezzatorre)のロマンチックな庭園。ヨーロッパとアメリカから招いたエディターやジャーナリスト、セレブリティー、インフルエンサーなど約90人の観客が見守る中で、再び旅する日を心待ちにする現代のジェットセッターのためのコレクションを披露した。
「旅することを夢見ていた私はイギリスでロックダウン中、旅について書かれた本をたくさん読み直した」と話すイアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクターは今季、1950年に発行されたアメリカ人作家トルーマン・カポーティ(Truman Capote)による旅行記「ローカル・カラー/観察記録(Local Color)」にインスピレーションを得た。その一章でイスキア島で過ごした4ヵ月について綴ったカポーティは、まだ旅が特別なものだった当時、半年ごとにパリでオートクチュールを仕立て、その間に地中海の隠れ家的なリゾートでバカンスを過ごす社交界の女性たちを“スワン(白鳥)”と呼んだ。そして、グリフィス=クリエイティブ・ディレクターは洗練された美しいものを追求し、きらびやかな世界を旅する彼女たちの姿からイメージをふくらませ、現代を生きる“スワン”を描いた。
ファーストルックは、ブランドを象徴するアイテムの一つである“101801”コートと、腰下にギャザーを施したミニドレスのコーディネート。どちらも今季のキー素材である上質なテクニカルジャージーを用いることで、軽やかであると同時にシワになりにくく旅にぴったりなアイテムに仕上げている。また、サイドに深いスリットの入ったカフタン風のロングドレスやジュートソールのレースアップサンダル、ラタンやラフィアを使ったバッグ、ボストンなどリゾートトラベルを想起させるアイテムも数多く登場。一方、店頭に11月頃から並び始めることを考え、ブランドの新たなアイコンとなっているテディベアコートや同素材のブルゾンもラインアップする。
全体を通して際立ったのは、ギャザーとハリのある素材感を生かしたフレアラインやベルスリーブなどのふんわりした構築的なシルエット。「パリのクチュールを着想源としていた『マックスマーラ』の50〜60年代のアーカイブデザインからヒントを得た。ただ、ダッチェスサテンのようなクチュールによく使われる素材ではなく、テクニカルな素材やスポーティーなディテールと掛け合わせたり、フルレングスだったスカート丈をミニで再解釈したりすることで、コンテンポラリーで若々しいエレガンスを表現した。スエットで多くの時間を過ごした後、またエレガントな着こなしを楽しみたいという女性たちの気持ちに応えたかった」という。
ベージュやキャメル、白、黒といった落ち着いたカラーパレットに彩りを添えるのは、鮮やかな赤やフューシャ、そして優しいベビーピンク。「喜びに満ちた高揚感のある色合いは、“スワン”がパリで滞在していたオテル プラザ アテネ(Hotel Plaza Athenee)の外観を象徴するとともに、リサーチする中で彼女たちの写真にもよく写っていたゼラニウムのグラデーションからとったもの。それは、イスキア島のいたるところに見られる花々にも通じる」。
また、2月に21-22年秋冬コレクションをデジタルで発表した際に「リアルなショーが恋しい」と話していたグリフィス=クリエイティブ・ディレクターは、「モデルからエディターもジャーナリストまでショーに携わるすべての人と同じように、私もさまざまな要素が一つになって魔法やエネルギーを生み出すショーを再開できる日を待ちわびていた」と明かす。
一方、デジタルでは今回はあえてショーのライブ配信は行わず、イタリア人映画監督ジネヴラ・エルカン(Ginevra Elkann)の手がけたムービーを7月1日に公開した。その理由については「ルックやアイテムだけでなく、背景にあるストーリーやショーの高揚感、島の雰囲気を織り交ぜることで、現地でショーを見たゲストと同じ感覚を視聴者にも味わってもらいたかったから。シンプルでぜいたくなエレガンスと、世界ともう一度つながることへの強い思いを伝えたい」とコメント。エルカンは“スワン”の一人であったマレラ・アニェッリ(Marella Agnelli)の孫娘でもあり、そんな彼女の視点を通してカポーティの作品から広がる今シーズンのストーリーを完結させた。