「アライア(ALAIA)」はオートクチュール・ファッション・ウイーク開幕前日の7月4日夜、ピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)新クリエイティブ・ディレクターによる初のコレクションを発表した。創業者のアズディン・アライア(Azzedine Alaia)がまだ健在だった2017年に開かれた17-18年秋冬オートクチュールから4年ぶりとなる今回のショーで披露されたのは、22年冬春のオートクチュールとプレタポルテ。かつてアズディンが暮らし、今でもアトリエや本店を構えるマレ地区のムシー通りにランウエイを設け、アズディンの生涯のパートナーだったクリストフ・フォン・ウェイエ(Christoph von Weyhe)や親友カルラ・ソッツァーニ(Carla Sozzani)、ラフ・シモンズ(Raf Simons)らが見守る中、デビューを飾った。
座席に置かれていたのは、「This collection is intended as a tribute to thank you(このコレクションは、あなたへの感謝の気持ちを込めたものです)」という一文から始まるピーターがアズディンに宛てた感謝の手紙。そこからは、彼の温かい人柄が伝わってくるとともに、アズディンが築き上げたレガシーを受け継いでいく決意が感じられる。
そんな手紙からも分かるように、コレクションは女性のボディラインを強調するシルエットなどブランドを象徴するデザインを現代的に再解釈したものだ。アイコニックなフードをあしらったテーラリング群から幕を開けたショーには、絶妙なカッティングやダーツ、切り替え、ニットで生み出す体に吸い付くようなドレスを筆頭に、タイトシルエットとの対比を描くオーバーサイズのテーラードコート、純白のポプリンを使ったケープのようなシャツとギャザーをたっぷり入れたスカート、ブラックレザーのドレスなどが登場。そこにフリンジや動きのあるヘムライン、メタルパーツの装飾、ボリュームのあるファーライクな素材、フューシャピンクやブルーなどの鮮やかな差し色がドラマチックな印象を加える。
さらに、より若い世代に伝えていくことを意識したというピーターは、デニムやビニールといったカジュアルな素材を使ったり、レギンスやサイクリングパンツのようなアイテムを取り入れたり。ただし、あくまでも「アライア」らしくセンシュアルかつエレガントに落とし込んでいる。象徴的なパンチングが施されたコルセットベルトはメタリックレザーでアレンジし、立体的なシェイプの新たなバッグとクロッグやウッドヒールのミュール、メタルリング付きのフラットシューズなども提案した。
シモンズの右腕として長年活躍してきたピーターが一人でブランドのクリエイションを率いるのは、今回が初めてのこと。偉大な創業デザイナーの跡を継ぐハードルは高いが、上々のスタートを切ったと言えるだろう。ただ、彼自身のシグネチャーとなるデザインについてはまだ見えない部分も多く、今後どのように「アライア」の象徴的なスタイルと融合していくかに注目だ。
在りし日のアズディンは、加速するファッション業界のサイクルやファッション・ウイークのスケジュールにとらわれず、独自のペースで突き詰めたコレクションを制作し続けてきたことで知られる。そんな彼の遺志を継承するピーターも、長く丁寧に「アライア」のストーリーを次世代へと紡いでいってくれることを期待したい。