ユナイテッドアローズ(以下、UA)の“名物”社員の1人であった中尾浩規氏が同社を退社し、6月15日付けで新会社ユマノス(HUMANOS)を立ち上げた。栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問をアドバイザーに迎えこれまでUAで扱ってきたインポート4ブランドのエージェント業務を中心に人材発掘やコンサルティングなど経験とネットワークを生かした事業を行う。業界で広く名前を知られる大御所2人は何を目指すのか。代々木にオープンしたまっさらな事務所で話を聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):取り扱いブランドは?
中尾浩規ユマノス社長(以下、中尾):ヨーロッパのブランドが中心で、イタリアからは「ラファエッレ カ ルーゾ(RAFFALE CARUSO)」、コモのネックウェア「フラテッリ ルイージ(FRATELLI LUIGI)」、ニットブランド「サラ(SALA)」。フランスからは白シャツだけの「ブリエンヌ パリ ディス(BOURRIENNE PARIS Ⅹ)」。いずれもエージェント業務で、ディストリビューターではありません。
WWD: UAで扱ってきたブランドですね。
中尾:そうです。いずれのブランドもUAで扱いながらビームスなど他社にもつなげてきたので仕事内容に変わりはありません。UAとは今後も業務委託を続けます。外からかかわることでより濃く、太い仕事ができると思います。
栗野宏文ユマノス アドバイザー(以下、栗野):ユマノスはイスパニア語で“人”を表します。ユマノスが何の会社かと聞かれれば「問題解決会社」。中尾さんは工場や生地屋、僕はデザイナーやメディアなどとのつながりが深い。それらを生かしたモノづくり、ネットワーキング、エデュケーションなどを通じて日本と世界の人々の生活を豊かにすることがミッションです。たとえるなら僕らはバンドのベースとドラム。そこにいろいろなギターやボーカル、パーカッションに入ってもらってセッションを行う感覚です。
中尾:展示会には服を見るだけではなく不満をぶつけに来てほしい。不満はすなわち改善ポイントですから。
WWD:日本の、特にメンズのセレクトショップの市場はこれまで、イタリアを始めとする生産地のファクトリーブランドを買い付けるだけでなく、そこに日本市場のニーズを反映したアレンジを加えることでブランド、市場ともに成長させてきました。
中尾:そうですね。私で言えば、イショナルが英国の「グレンフェル(GRENFELL)」を買収したときに担当し、日本市場を意識した企画をピッティ・イマージネ・ウオモに出したら他の国からも好評で、そのころから海外メーカーに対する日本独自企画をセレクトショップに提案する取り引きを始めました。八木通商では「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」の再生事業に携わり、そのころからイタリアのファクトリーブランドとのモノづくりには深く関わっています。
栗野:日本の雑誌と小売りはレベルが高い。セレクトショップには毎日お客さんが来店し改善点を要求してくる。袖がもうちょっと長い方がいい、とかね。それを日々聞いて作り手にフィードバックしてゆく。そういった意味でセレクトショップという業態は服を売ることに関してベストとは言わないけれど、相当ベターな業態だと思います。
ただ、人とファッションの関わり方は激変期にあり、進化した日本のお客さんはアレンジだけでは満足しません。アウトドアやスポーツ回りの商材が売れているのは、命にかかわる商品であり機能が進化し続けないといけないから。お客さんはその進化に慣れてしまっている。お客さんはアレンジではなくいいメロディーを聞きたい、もしくはまったく新しい歌を聞きたいと思っている。セレクトショップが期待されていることはそこだと思う。その中にあって中尾さんはアレンジではない本質的な提案ができる人。歌で言えば作曲ができる人です。
「気づき」の力を磨くは服をたくさん着るしかない
WWD:中尾さんから見て日本のファッションカルチャーのおもしろさとは?
中尾:「気づき」があるところです。海外での会話はノーかイエスかだけど、ノーとイエスの間の「気づき」を楽しむのは日本独特だと思います。その「気づき」を普通に取り入れればまだまだ面白いモノづくりができる。暑い日に求める前に水を出してもらえると嬉しいのと同じですね。
WWD:「気づき」の力を磨くには?
中尾:現地・現物が基本。「着る」しかありません。モノが生まれる場所や店、現地に行って触って着る。不都合に気が付けば改善しようとする。トラックに乗れなければトラック運転手が務まらないと同じです。目的はシンプルに「お客さんのためになるモノづくり」です。例えば先日UAから発売した「デサント(DESCENTE)」と「ラム(HLAM)」の協業ラインがそう。あれはアレンジではない。根強いファンが多かった「ラム」のデザイナーのクリエイションとデザインの機能性をドッキングしたものを作ろうと提案し実現しました。お客さんは特殊なモノは求めていないんです。
WWD:これからやってみたいことは?
中尾: 日本でのモノづくりをやってみたい。日本の縫製工場、生地屋さんはヨーロッパのそれとだいぶ体制が違う。イタリアはナポリから出たことがない人たちの商品が世界に出て行ったように、もっと世界に出ていい。このままだと技術があるのになくなってしまう。実際、脱却しようとしている人たちが出てきている。
WWD:栗野さんの周囲には若手クリエイターが大勢いますね。栗野さんがつなぎたい、と思う若手はどんなクリエイターですか?
栗野:昨年から今年にかけてZOOMでつながれることから今だかつてないほど多くの審査員を引き受けましたからネタは相当たまっています(笑)。クリエイターに求めるのはユマノスの基本精神でもある利他心です。他責や「前例がない」という姿勢では前に進めない。最近のLVMHプライズの受賞者を見ても全員利他的です。誰かの幸せを望み、誰かの幸せの為に行動することが、結局は自らの幸福や利益につながる、という考え方です。利他心は健全なビジネスの根幹にあると思うから。