ファッション

「ゴルチエ」×「サカイ」のショーは何が良かったのかを語らせて! エディターズレター(2021年7月13日配信分)

※この記事は2021年07月13日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

「ゴルチエ」×「サカイ」のショーは何が良かったのかを語らせて!

 先週の七夕の夜、「サカイ」の阿部千登勢さんをゲストデザイナーに迎えた「ジャンポール・ゴルチエ」の2021-22年オートクチュール・コレクション「ゴルチエ パリ バイ サカイ」が発表されました。日本時間は22時過ぎ。夜の散歩をしながら見たのですが、集中し過ぎて住宅街の電信柱にぶつかりそうになったのは本当の話です。夢中になったのは私だけではなかったみたいでインスタライブのコメントがヒートアップしていました。私も何度もコメントしちゃいました。それだけ誰かとシェアしたくなるショーだったのです。

 1989年にゴルチエが発表したファンキーなミュージック×ファッションビデオ「How to Do That」の音が流れる中、見事なまでにゴルチエとサカイがハイブリッドされた服が出てきました。マドンナが1985年に着用したことで有名になり今や服飾史の重要な1ページとなっているコーンブラに始まり、マリーンボーダー、コルセット、デニムなどゴルチエのアイコンがこれでもかと登場し、そこには阿部さんのゴルチエへのリスペクトがほとばしっていました。ストリートとクチュール、メンズとウィメンズなどあらゆるボーダーを超えてきたゴルチエの価値観を「サカイ」がそれこそ得意のハイブリッドでまとめあげたのです。

 私が最も感動したのは仕立ての美しさです。ゴルチエのアイデアがどんなに型破りだとしても結果的に美しい服であり続けたのは、ゴルチエ自身が仕立て屋の姿勢とオートクチュールのアトリエを持っていたから。テクニックとアイデアが両立していたからです。それは「サカイ」も同じです。私は「サカイ」というブランドは日本中の職人をまとめ上げるオートクチュールブランドのようだと思っているのですが、そういった意味でも両者は相性が良かった。そして「ゴルチエ パリ バイ サカイ」はいつもの「サカイ」より少しカチッとして見えて、それがまた良かったです。ジャケットの肩、背中、ドレスのギャザー、ドレープなどはパリのオートクチュールの職人の仕事のそれでした。阿部さんはこのコレクションのために苦労しながら4度渡仏したそうですが、足を運びアトリエと会話をしたその成果が形となっていました。「サカイ」の服は「日常の上に成り立つデザイン」を信条としていますが、オートクチュールの世界を体感し、阿部さんの日常はまた一つ視野が広がったのではないでしょうか。

 会場はパリ3区のサン・マルタン通りのゴルチエの本社。どんなにデジタルが発達しようとも、パンデミックに阻まれて2回延期しようともゴルチエのショーはその建物のなかでリアルに開かれなくては“いけなかった”のだと思います。理由はゴルチエがずっとそうしてきたから。そして阿部さんが今回も「そうしたかった」から。ショーはリアルかデジタルかの選択理由は究極、発表する側がどうしたいかの一点でよく、それを見たい人はどんなに遠くて不便でも見に行く。そういったシンプルな情熱の交換が成り立つものだと私は思っています。悲しいことに私は今回はその場に立つことができなかったけれど、インスタライブで盛り上がり、ドイツ在住の藪野記者の熱量高いレポートを読んで情熱を受け取ることができました。フィナーレの後、サン・マルタン通りに向けて開いた窓から2人が姿を見せた時はグッときました。いいものを見せてくれてありがとう!

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