ファッション

京都が眼鏡で激アツ!? キャリア22年の眼鏡ライターが経営トップ4人の取材を総括

 “京都が眼鏡で活性化している!”として、東京からの進出組であるアイヴァンとグローブスペックス、地元で約30年商売を続けるローカル組のイアラ マーケティング スペシャリティズとグラッシーズ、4人の社長にインタビューを行った。東京・青山の骨董通りや大阪・堀江のように眼鏡店が集中するエリアとなった京都で、どんな化学反応が起こり、今後のアイウエアシーンにどんな影響を与えるのか?取材歴22年の眼鏡ライター藤井たかのが解説する。

かつて主力ブランドを失ったアイヴァンは、出店攻勢でオリジナル強化

 全国に28店舗を運営するアイヴァン(東京、山本典之社長)の、近年のブランド創設と出店ラッシュには目を見張るものがある。2013年の「アイヴァン 7285(EYEVAN 7285)」を皮切りに、17年に「アイヴォル(EYEVOL)」と「10 アイヴァン」を立ち上げ、18年には「アイヴァン」を復活させた。これに合わせて、東京・青山の骨董通りに「アイヴァン 7285」「アイヴォル」「アイヴァン」の3店舗、大阪に「アイヴァン 7285」の直営店をオープンした。今年5月には、4つのオリジナルブランドのみで構成する新業態ジ・アイヴァンを京都・祇園に開店した。さらに16年からの5年間でシープ アイヴァンなど、アイヴァンレーベルの眼鏡サロンを11店舗出店している。攻めの姿勢を崩さないアイヴァンだが、かつては「バーバリー(BURBERRY)」を失った三陽商会に近い状況に置かれていた。

 「アイヴァン」は、1960年代にアイビーファッションで一世を風靡したヴァンヂャケット(VAN)の眼鏡ブランドとして72年に誕生したが、2003年に活動を休止(18年に復活)。90年代以降のアイヴァン(旧オプティックジャパン)の主たるビジネスだったのが、89年から2018年までライセンス契約を結んでいたロサンゼルスの眼鏡ブランド「オリバーピープルズ(OLIVER PEOPLES)」(1986年創業)の製造・販売だ。「オリバーピープルズ」は2007年に世界最大のアイウエア企業であるイタリアのルックスオティカ(LUXOTTICA)に買収されるが、その後も日本での高い販売実績が評価され、例外的にアイヴァンが製造・販売を続けていた。ルックスオティカジャパン(旧ミラリジャパン)が「オリバーピープルズ」の製造・販売を行うのは19年1月以降だが、早い段階で屋台骨を失うことを見越したアイヴァンは、新たなライセンス契約先を探すのではなく、「アイヴァン」をリブランディングし、「オリバーピープルズ」に変わる主力ブランドとして打ち出した。また近年の出店ラッシュには、企業買収が活発化する眼鏡業界で、卸先である小売店の販売だけに頼るのではなく、自ら売るための場を構築する姿が見える。

 祇園に開店したジ・アイヴァンは、日本製の高品質なフレームを京都から発信するシンボリックな拠点だが、注目すべきは2階のギャラリーが「アイヴァン」の歴代モデルや広告などを展示するミュージアムになっていることだ。17年に眼鏡企業ボストンクラブが、オリジナルブランド「ジャポニスム(JAPONISM)」のミュージアムを、改装した自社ビル内に作り話題となったが、場所は本拠地の福井県鯖江市だった。アイヴァンは発祥の地ではない京都にアーカイブを展示しており、今後京都を軸に世界に向けてアピールする意気込みが感じられる。

コロナ禍でも“岡田無双”続く、さらに能ある鷹が爪を隠す?

 グローブスペックスは、イタリア・ミラノで開催される世界最大の国際眼鏡展「ミド(MIDO)」が、優秀なアイウエアショップに与える「ベストア・アワード」を17年、18年と2年連続で受賞する快挙を成し遂げた。岡田哲哉社長もテレビや雑誌にたびたび取り上げられ、業界では向かうところ敵なしの“岡田無双”状態だった。満を持して20年6月、話題の商業施設、新風館に出店。コロナショックが直撃したが、京都店はグローブスペックス23年の歴史のなかで単店の月間売り上げ最高を記録し、初年度は予算比20%増で着地した。京都店には、フランスの「アン・バレンタイン(ANNE ET VALENTIN)」や「ザビエル・デローム(XAVIER DEROME)」など、カラフルで突飛なデザインのフレームが並ぶ。今回の取材で「京都では派手な眼鏡が売れる」という話を何度も耳にしたが、新風館に近い三条の眼鏡店オーグリラコンテ(1986年創業)でも、近未来的でユニークな立体造形の「ファクトリー900(FACTORY900)」を壁一面にディスプレーしていた。出汁(だし)文化で知られる京都だが、実は「天下一品」などこってり味のラーメンを好む一面もあり、それは眼鏡も同様のようだ。

 グローブスペックス 京都店では、グローバルな接客にも注目したい。帰国子女の岡田社長にはニューヨークでの勤務経験もあり、英語も堪能だ。京都店出店にあたっては、海外で修行中の息子、雄さんを帰国させ店長代理とした。岡田店長代理は、アメリカで最も期待される次世代のデザイナーを表彰する「CFDA/ヴォーグ ファッション・ファンド・アワード」のファイナリストとなったアーレム・マナイ・プラット(Ahlem Manai Platt)のブランド「アーレム(AHLEM)」や、ビンテージフレームを修理してブランド展開する「ザ・スペクタクル(THE SPECTACLE)」のジェイ・オーウェンズ(Jay Owens)の元で学んだ眼鏡界のサラブレッドだ。岡田店長代理も岡田社長も、アメリカで眼鏡店を経営するために必要な技術資格「オプティシャン」を持つ。その意味では、インバウンドが消滅した今、グローブスペックス 京都店は本来のポテンシャルを発揮できていないとも言える。新風館のエースホテルが本格稼働して訪日外国人客が押し寄せた際には、外国語が飛び交うインターナショナルな眼鏡店として、さらにブーストがかかるはずだ。

若手を育てて世界へ、京都ならではの旦那衆文化が実を結ぶ

 新風館から徒歩5分の場所には、京都で27年間眼鏡ビジネスを続けるグラッシーズが運営するG.B.ガファス京都がある。社長の竹中太一さんは京都市中京区の出身で、1994年、京都・北山に同店の前身であるグラッシーズを開店した。90年代後半から2000年代初頭の関西では、クラブで眼鏡のイベントやファッションショーが行われるなど“アイウエアバブル”が起きたが、G.B.ガファスはそれをけん引したショップだ。当時、同店のオリジナルフレームを手掛けていたのが、いまや日本の眼鏡ブランドの代表格となった「イエローズプラス(YELLOWS PLUS)」の山岸稔明デザイナーや、「スペックエスパス(SPEC ESPACE)」の山岸誉デザイナーだった。2001年に福井県で創業した「イエローズプラス」は、特にヨーロッパで高い人気を誇り、フランスで75店舗、全世界で550店舗が販売する国際的ブランドに成長した。その山岸デザイナーに「自分のブランドをはじめなさい」と、背中を押したのが竹中社長だ。京都の旦那衆の姿そのままに若手デザイナーの育成に励んだ竹中社長は、デザイナーとの信頼関係によって鯖江産の別注モデルを次々と実現し、商品の差別化を図っている。

個性派の眼鏡を、どっしりローカルに根差した接客で売る

 京都・北白川で創業し、30周年を迎えたイアラ マーケティング スペシャリティズ(柳島邦門社長)のオブジェは、東京と大阪でも店舗を運営する。柳島社長は90年代、まだ無名だった「オリバーピープルズ」を最も売った男として業界で知られており、“今売れる眼鏡”と“これから売れる眼鏡”をセレクトして客のニーズに応えてきた。現在は、息子である柳島崇志オブジェ・大阪店長が父親譲りの審美眼で海外買い付けを行っている。店内には、銅を使った香港の新進ブランド「リガーズ(RIGARDS)」や、フレームの表面を燃やすという斬新な製法を持つドイツブランド「クボラム(KUBORAUM)」など、個性派の商品が並ぶ。その一方で、「トム フォード アイウエア(TOM FORD EYEWEAR)」といった“鉄板”人気のブランドも扱い、幅広い層を満足させている。ゆるやかに代替わりしながらも変わらない、地元客の“かゆい所に手を届かせる”接客術もあってのことだ。

 このように京都の眼鏡業界は、東京からの進出組と、約30年続くローカル店が入り混じった構図となっている。それぞれがそれぞれのスタンスで、すみ分けしながら共存しているのが特徴だ。ここ十数年、アイウエアの流行は“東京から地方へ”だった。しかし振り返ってみれば、DCブランドの眼鏡が巷にあふれた80年代を経て、ローカル眼鏡店が刺激的なアイテムを求めて海外買い付けを行い、90年代に日本全国で同時多発的にアイウエアブームが花開いた過去があり、その中心にはいつも京都があった。京都が再び眼鏡で活性化し、京都発信のトレンドが東京や海外に波及する日も近いかもしれない。

藤井たかの(ふじい・たかの)/眼鏡ライター:1976年、大阪府生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務などを経てフリーランスに。年間1000本以上の眼鏡に触れ、国内外の見本市や工場、商品紹介などのアイウエア記事を担当する。自身のユーチューブチャンネル「メガネ流行通信」でも、世界の眼鏡トレンドやデザイナーインタビューなどを配信中。著書に「ヴィンテージ・アイウェア・スタイル 1920's-1990's」(グラフィック社)がある

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