「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」は13日、世界遺産の二条城を会場に約100人を招き、ショー形式で2022年コレクションを発表した。全21ルックの多くが西陣織の帯や丹後ちりめん、扇子など京都の伝統産業の力を借りて制作されたもの。月明りの下、庭園・清流園の玉砂利の上を多様な年齢やジェンダーのモデルたちが歩くさまは純粋に美しく妖しかった。
会場には香がたかれ、客は提灯に誘導されて歩く。幻想的な空間だ。小泉智貴デザイナーは今回のキーワードに「祈り」をあげた。「暗いニュースが多いこの状況下で何ができるかを考えた。自分はピュアな美やクリエイティビティで人の役に立ちたい。だから美しいもの、圧倒的なもの、心の救いになるようなものを自分自身も見たくて作った。人は圧倒的なものを目の当たりにすると支えられた気分になるから」。
そのために今回は得意のラッフルに、京都の伝統技術を組み合わせた。西陣織の帯は大きなリボン結びで背中に飾り、手には京扇子を手にする。珍しくシンプルなドレスのボディは田勇機業から提供を受けた丹後ちりめんのデッドストックを使用し、神社仏閣で目にした厄除けや守護のモチーフをペイントや横降り刺しゅうで装飾した。「生地自体が美しいので、和、洋の既成概念にとらわれない視点で扱うよう心がけた」と小泉デザイナー。素材の一部には再生ポリエステルも使用した。
同ブランドは最近は年に1度コレクションを発表しており、今回は京都を舞台に選んだ。世界遺産を会場に使用し伝統産業の支援を受けたと聞けば、行政や大企業のバックアップを想像するがそうではない。「日本の伝統とクリエイションを日本から海外へ発信したい」と企画した2人の実行委員が小泉デザイナーに声をかけ、賛同するスポンサーを集めに奔走し実現した。
実行委員のひとり、北川淑恵氏は日ごろから京都の伝統産業を伝える活動をしている。「まず小泉智貴という存在が貴重。だけど日本では新しい才能にフォーカスする体制が不十分。また京都の伝統工芸は素晴らしいのに外に向かって十分に表現できていない。だから2つを掛け合わせることで京都から世界へアウトアウトプットしたいと思った」と語る。もうひとりの実行委員はデザイナーやプロデューサーとして幅広く活躍する三浦大地氏だ。「今は多くの人が意識を内に向けているタイミング。自分も最近拠点を関西に移して、日本のクリエイティブがもともとこちらにあったこと、日本の宝を再確認した」と話す。
「世界に認められたから国内で認められる、ではなく、日本が認めた日本を世界に発信したい」という2人の働きかけで集まったスポンサー・協力企業は13社となった。その中には、小泉文明メルカリ会長やフランキー、キャンプファイヤー、車のマツシマホールディングス、ベイス、物流のアースカーゴ、ポーラ、ウカ、エースホテル京都など、新興企業・京都拠点の異業種が名前を連ねる。
支援企業のひとつで来場した香の老舗、松栄堂の畑元章専務取締役は「私たちで作るものの限界は常々感じていて、小泉さんの存在を紹介いただいてこれは私たちにとってまぎれもないチャンスだと思った。自分たちにはない創造ができ、新しいお客さんと出会えるから」と言う。また、西陣織の帯を提供した服部商店の服部真三未社長は「呉服に携わるとどうしても“帯はこうあるべき”みたいな固定概念がある。小泉さんとお話していると発想が豊かであるのと同時に、帯のことをちゃんと理解してくれているので安心してお預けできると思った」と話している。
小泉デザイナー自身も得るものが大きかったようでショーの後には、「自分は関東出身ですべてのものが東京にあるような気もしていたがこのプロジェクトで大阪や京都に通い全然そんなことがないことに気が付いたのが大きかった。それは日本全国そうだと思うのでこれからもっといろいろな産地を見て固定概念に縛られずに自分のフィルターで表現してみたい」と話している。