アメリカではHBO Maxで配信中のリブート版「ゴシップガール(Gossip Girl)」が今夏、日本でもU-NEXTで配信されることが決定した。リブート版でもオリジナル版同様、ニューヨーク・アッパーイーストサイドの高校生たちのゴシップとファッションセンスにあふれた生活が描かれている。
新作のスタイリングを任されたのは、前作のスタイリングも手掛けたエリック・デイマン(Eric Daman)だ。彼に任された仕事は、現代の若者にも通じるようにニューヨークの上流階級の高校生のリアルなファッションを描くこと。その結果、劇中のファッションは、カチューシャやカラータイツといった服装から、ジェンダーフリュイドでミニマルに変化した。「ディオール(DIOR)」や「シャネル(CHANEL)」の登場頻度が減った代わりに登場するのは、「ボーディ(BODE)」や「クリストファー ジョン ロジャーズ(CHRISTOPHER JOHN ROGERS)」といったニューヨークの気鋭ブランドだ。拠点のロサンゼルスから今作の撮影のためにNYに滞在しているデイマンに、米「WWD」がリブート版における衣装のこだわりについて聞いた。
WWD:「ゴシップガール」の世界に戻ってきて、率直な感想は?
エリック・デイマン(以下、デイマン):とてもわくわくしているよ。楽しく、ファンタジーにあふれるこの世界にいることは素晴らしい体験。大変な仕事だったことは確かだが、評価はとても高いようだ。エキサイティングな仕事場に戻ってきて正解だった。
WWD:リブート版「ゴシップガール」での仕事はどうスタートした?
デイマン:最初はとにかくインスタグラムなどSNSにどっぷり浸かるところから始めた。SNSリサーチすることは自分にとってあまり日常的ではなかったのだけど、新作のキャラクターたちにとっては重要なツールであって、それを理解するために必要なプロセスだったと感じている。前作はブログの時代で、今のSNSとは全く違う。だからその世界に深く潜って何が起きているのかを知ることは必要なことだった。インスタグラムは今の時代のスタイルとファッションの鏡だ。
WWD:現在のファッション業界がそうであるように、劇中では手が届きやすいインクルーシブなファッションを描くそうだが、どのようにアプローチした?
デイマン:例えば学校の制服をどのようにスタイリングするかだと思う。オリジナル版のブレア・ウォルドーフ(Blair Waldorf)はボタンを閉めてかっちり着こなしていたが、リブート版では着心地の良さを重視している。ストリートで見かける現在のトレンドにも、この世代の服装にも“ゆるさ”があると思う。だらしないというのではなく、1990年代後半〜2000年代初期の影響を受けて、少しオーバーサイズで“ゆるさ”があり、ミニマルなんだ。これはオリジナル版とは大きく異なる点だ。
このファッションは特にこの世代にとって、簡単に真似できて共感を得られるものだと思う。3XLサイズのカレッジスエットにサイクルパンツを合わせて、規範をちょっと破るのが彼らにとっての制服なんだ。ジョーダン・アレクサンダー(Jordan Alexander)が演じるジュリアン・キャロウェイ(Julien Calloway)はまさにこのファッションスタイルだが、オリジナル版では制服スカートを履かせないなんて考えたこともなかったよ。当時は社会的規範の中でしか考えてなかったからね。だから制服をこんな風に着こなすなんて、パンドラの箱を開けるようなものだった。
WWD:ジュリアン・キャロウェイのスタイルはどう決めた?
デイマン:彼女は劇中で一番おしゃれなキャラクターではないが、ティーザーで各キャラクターを表す一言が発表されたとき、彼女に当てられた単語が“影響力(influence)”だったように、彼女はリーダーだ。彼女のキャラクターとスタイルを探していた時に見たのは、カイア・ガーバー(Kaia Gerber)、ソフィア・リッチー(Sofia Richie)、ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)、そしてアダット・アケチ(Adut Akech)のインスタグラムだった。アダットのインスタグラムは本当に素晴らしくて、特にストリートウエアカルチャーの舞台裏を覗くことができるのが最高だ。服の合わせ方がすごく上手で、ジュリアンの人物像のベースにぴったりだ。
それに、ジュリアンの父親は音楽プロデューサーで、彼がブレイクしたのは2000年代初期ごろだろう。1990年後半の「VMA(MTVビデオ・ミュージック・アワード)」のレッドカーペットや、2000年代初期のデスティニーズ・チャイルド(Destiny’s Child)なども見ていて、それでたどり着いたのが「ラクワン スミス(LAQUAN SMITH)」だった。このブランドはまさに「VMA」やデスティニーズ・チャイルド、その時代のスタイルでブレイクしたのだが、コンテンポラリーなハイファッションでもある。ジュリアンのスタイルの基準を「ラクワン スミス」や「クリストファー ジョン ロジャーズ」「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」を着せて、その世界観で遊びを加えるようにしたのは正しい選択だった。
WWD:ウィットニー・ピーク(Whitney Peak)が演じるゾヤ・ロット(Zoya Lott)のスタイルは?
デイマン:ゾヤはNYに来たばかりで、ほかのキャラクターと違って高所得層じゃない。彼女はもっと社会問題や政治的なところに興味があって、ライターでアクティビストだ。それを服装で表すために私が選んだのは黒人がオーナーのブランドや本屋だった。彼女が持つトートバックはNYに実在する、黒人オーナーの書店レボリューション ブックス(REVOLUTION BOOKS)のもの。それに、黒人ビジネスを取り上げるサイト「ザ・メラニン・プロジェクト(The Melanin Project)」のグッズから、マルコムX(Malcolm X)をプリントしたスエットを着せた。服装で彼女がどんな人物なのか分かるように、その思想を反映したものにした。「アーバン アウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)」で売っているようなバンドTシャツを着せればいいってものじゃない。
WWD:トーマス・ドハティ(Thomas Doherty)が演じるマックス・ウルフ(Max Wolfe)の場合は?
デイマン:みんな彼とチャック・バス(Chuck Bass)を比べるのだけど、私は彼はセクシュアリティーにオープンで、資産のある大人びた男性だと捉えている。彼は男性という設定だけど、流れるような美しい生地の服を着る。ニューヨークのブランド「ボーディ」をたくさん着せたよ。この作品では、「ディオール」など自分が尊敬し愛するメゾンブランドだけじゃなくて、ニューヨークのデザイナーもコーディネートに混ぜたかった。
彼に「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」のウィメンズのレースシャツをスタイリングしたのだが、彼が着るととてもセンシュアルで、かつ自信をもってさらりと着こなしていた。しがらみを超えて、ファッションにおけるジェンダーの意味を考えて議論して、ジェンダーのあり方を新しい方法で表現するのはとてもエキサイティングだった。同じことはジュリアンの衣装でもできた。彼女が父親の「セリーヌ(CELINE)」のシャツを着るという設定なのだが、彼女が着ると学校にも着ていけるオーバーサイズのシャツドレスになるんだ。服とは何か、ジェンダーとは何か、それらと私たちみんながどう関係しているかといった深い会話をするのは、この世代が特にしていることだ。服を通してこうした議論ができるのはこの作品が私にくれたギフトだと思う。
WWD:ブレアのカチューシャのような、そのキャラクターのアイコンとなるスタイルは今作でもある?
デイマン:全く同じではないが、スキンヘッドのジュリアンにはイヤリングをたくさんスタイリングした。イヤリングはいわば彼女のアイコンだ。髪がないからイヤリングが映える。ブレアのカチューシャでは色をコーディネートや彼女の感情に合ったものにしていたが、ジュリアンのイヤリングでも同じようにスタイリングするつもりだ。
WWD:衣装は自分で制作したか、もしくは買ったか?
デイマン:どちらもだよ。サンプルもたくさん作ったし、ショッピングもたくさんした。パンデミック後のNYでのショッピング体験は変わり果てたものになっていたけどね。ショップ内の品数もバリエーションも少なくなっていたし、購入点数も減った。しかも工場が閉まっていて、生産すらされないコレクションもあった。ショッピングするまでちゃんと自覚してなかったけど「コロナによる予期せぬハードルは、私たちにはどうしようもない」と思った。だがそれがきっかけでオンラインショッピングとリサーチをたくさんして、「マイテレサ(MYTHERESA)」や「ザ・リアルリアル(THE REAL REAL)」に辿り着いたり、ファッションとラグジュアリーが今必要とされているのか調べたりした。
WWD:ファッション的に、前作と今作で一番の共通点と一番の違いは?
デイマン:だいぶ違うと思うよ。両者の一番の共通点はファンタジーで、見る価値ある要素が満載だ。みんな大好きになるだろうし、インスパイアされて欲しい。これが私の仕事のいいところだから。そして、ファッションの役割がとても大きく、必見なものになるということも共通点だね。
一番の違いは、人工的で華やかで誇張されたスタイルではなく、より社会や政治に影響を受けたミニマリストなスタイルになるということだ。服に主張や意見を忍ばせるのは、オリジナル版のストーリー、もしくはキャラクターでは無かったこと。ドラマはゴシップにあふれたまさに「ゴシップガール」的世界で、ファンは気に入ると思う。でも、セリーナ・ヴァンダーウッドセン(Serena van der Woodsen)が同じシーンで6回も違う「ティーブン デュエック(STEPHEN DWECK)」のネックレスで登場するようなことはない。無駄な要素は削り、街やこの世代で見られるようなミニマリストな感覚を楽しんだ。何かを“削る”という概念はオリジナルにはなかったね。