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日本ロレアルがコロナ禍でも成長 成功の要は定期便とCXチームの立ち上げ

 世界ナンバーワンの化粧品専門企業のロレアル(L'OREAL)は他社同様に新型コロナウイルスの影響を大きく受けたものの、中国市場やドクターズコスメが好調で、早速2020年10〜12月期から復調している。日本事業を担う日本ロレアルの売り上げも、21年1〜4月期は前年同期比8%増と堅調という。

 中でも日本事業の成長をけん引するのは、日本ロレアルの中で最も売り上げシェアが大きいロレアル リュクス事業本部だ。「ランコム(LANCOME)」「イヴ・サンローラン・ボーテ(YVES SAINT LAURENT BEAUTE 以下、YSL)」「キールズ(KIEHL'S)」「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」「ヘレナ ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)」などプレステージブランドを中心に扱う同事業部は、度重なる緊急事態宣言の発令や実店舗の休業で大きな打撃を受けた。しかし、以前から注力するDX(デジタルトランスフォメーション)戦略の促進やCX(カスタマーエクスペリエンス)専門チームの立ち上げ、定期便の導入などが功を奏し、21年1〜4月の売り上げは前年同期比4%増と前年をクリア。2月には日本のスキンケアブランド「タカミ(TAKAMI)」を傘下に収め、近年急伸するドクターズコスメトレンドやデジタルファーストのニーズに応える。そんな事業部を率いるフィリップ・アルシャンボー(Philippe Archambault)=シニアヴァイスプレジデントに、コロナ禍における戦略やポストコロナに向けた展望について聞いた。

WWD:2020年はコロナが大きな打撃となったと思うが、コロナ禍でも成長を続けられた要因は。

フィリップ・アルシャンボー日本ロレアル ロレアル リュクス事業本部長・シニアヴァイスプレジデント(以下、アルシャンボー):世界的なスキンケアブームの影響は大きく、ロレアルでも「ランコム」や「キールズ」などスキンケアが強いブランドは好調だ。もう一つの要因は少し意外なもので、フレグランスがよく動いている。(市場が小さい)日本においても、おうち時間が増えてプライベートを彩る香りを求める人が増え、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」の“レプリカ”シリーズや「YSL」の“リブレ”などが売り上げをけん引した。ロレアル リュクス事業本部はプレステージブランドがメインなので百貨店の休業は痛かったが、EC施策を一気に加速させ、ダメージを最小限に抑えることができた。

WWD:化粧品業界の中でもロレアルはECに着手するのが早かった。

アルシャンボー:日本ロレアルは10年以上前からEC事業を始めており、そのノウハウを最大限に生かした。eBA(オンラインのビューティアドバイザー・美容部員)にも数年前から投資をしており、EC上のチャットだけでなく、個人・ブランドのSNSの投稿、ライブ配信など幅広い角度からアプローチし、お客さまが対面で美容部員に会えない中でも不便がないように考慮した。

人気製品の定期便がコロナ禍における“最大の武器に”

WWD:ECといえば、複数のブランドで展開する人気製品の“定期便”も好調のようだ。

アルシャンボー:定期便のようなサブスクリプションモデルはコロナ前から注目しており、定期便はコロナ禍において最強の“武器”になった。今回「タカミ」を買収したのも、サブスクリプションモデルが成功しているからだ。われわれがこだわったのは、あらゆる製品で定期便を行うのではなく、ブランドを代表するアイコン製品にだけ絞ったこと。例えば「ランコム」の“ジェニフィック”や「キールズ」の“クリーム UFC”、「YSL」の“ピュアショット ナイトセラム”など。ヒーローアイテムは幅広く支持されている製品のため、新規顧客が獲得しやすく、一方で既存客の満足度も高い。数年前まで日本ロレアルでは、メイクアップをフックにいかに若年層の新規顧客を獲得するかが大きなミッションだったが、高齢化などを鑑みて最近はリピート率が高いロイヤル顧客の育成にシフトしており、定期便はまさにこの戦略を後押しした。ECは店頭でのエモーショナルな体験やBAによる対面接客に代わることはないが、定期便は、お得なサービスや特典をつけることで“オンライン上のおもてなし”になったと捉えている。

WWD:色味やテクスチャーが画面越しでも伝えやすいメイクアップに比べて、スキンケアやフレグランスをデジタルで売るのは難しくないのか。

アルシャンボー:確かにメイクアップはSNSとの相性も良いし、トレンドや新作をアピールしやすい。ただスキンケアはオンラインカウンセリングやサンプリングを行うとコンバージョン率が圧倒的に高く、オンラインとの相性も決して悪くはない。また、18年に買収した「モディフェイス(MODIFACE)」をはじめグループ全体でAR技術にも大きな期待を寄せており、今は画面上で肌診断やコンサルティングが可能になっている。
 
フレグランスにおいては、アットコスメをはじめとする口コミサイトが大きく役立ったと思う。また「メゾン マルジェラ」はさまざまな価格帯・サイズを展開することによりオンラインでも気楽に試しやすい。特に“レプリカ”シリーズは具体的な思い出やエピソードが香りの着想源になっているために、オンラインであったとしても香りのイメージがつきやすいのではないか。

WWD:これら“デジタル接客”が若年層に刺さるのは想像できるが、年齢が上の顧客にもアプローチできているのか。

アルシャンボー:確かに数年前はマチュアな世代はデジタルに前向きではないイメージだったが、今は決してそうではない。SNSは若年層の方が好きだが、ブランドサイトやEC、定期便はマチュア世代にも人気だ。コロナで嫌でもデジタルを活用せざるを得なくなってから、特にこの傾向は強くなったはず。eBAには、ECで買い物するのを躊躇うお客さまに、その不安を払拭するためにも積極的にデジタル上でコミュニケーションを取るように勧めており、「デジタルは若い子のためだけ」というのは変わってきた。

顧客満足度アップにつながったCXチーム

WWD:最近CX専用チームも立ち上げたが、結果的にカスタマーエクスペリエンスは向上したのか。

アルシャンボー:販売拠点が多様化する中で、メーカーからするとオンライン・オフラインともに全てのタッチポイントでシームレスな体験を提供するのが難しくなっている。また大抵の会社は「EC」「(店頭)セールス」「マーケティング」などチームが分かれており、そもそも社内の“O+O”が実現できていないことも多々ある。そこでお客さまに真にOMOな体験を提供するためには社内でチームの架け橋となる存在が必要と感じた。CXチームは「カスタマーエクスペリエンス(お客さまの体験)」を一番に考える存在として、社内のあらゆるチームを結び、統一したメッセージや体験を提供できるように努めている。まだ立ち上げたばかりだが、顧客満足度はここ2〜3年で20ポイントほど上がっている。

WWD:ポストコロナのビューティ業界をどう見ているのか。

アルシャンボー:とてもオプティミスティックだ。すでにコロナが収束しつつあるほかの市場を見ていると、どこも大きな復調を成し遂げている。ポストコロナ時代においてビューティの需要は高まっている証だ。日本でもコロナが収束しても、コロナ禍で加速したO+Oのハイブリッド市場は継続すると思う。われわれの目先の課題は、いかにハイブリッドな市場に対応できるか。それのためのトレーニングだけでなく、キャリアパスもオンラインからオフラインに簡単にシフトできたり、両方を兼ね備えられたりできるように変えた。例えば今日伊勢丹新宿本店のセールスを監修するマネージャーが、明日は「ミーコ(伊勢丹のコスメEC)」を担当するとか。BAにも、通常の店頭の接客に加えてライブ配信で何千人のフォロワーの前での接客術を教えている。変化する消費者ニーズにスピーディーに対応し、社員全員がハイブリッドなマインドセットを持てるように注力する。

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