“脳内補完”のススメ
「20世紀少年」あたりで気づいたのですが、浦沢直樹さんのマンガって、背景が結構な確率で“線”です。でも、手抜きだなんて思わないんですよね。むしろ情景は頭の中にハッキリ思い浮かんでいるくらいで、臨場感に溢れています。
なんて思っていた頃、彼がMCを務めるNHKのトーク番組「漫勉」で、同じく漫画家の東村アキコさんが「背景が“線”問題」について浦沢さんに切り出してくれました。すると2人は、「最近のマンガは、情報を詰め込みすぎる。情景描写は、最初にバーンってあれば、あとは“脳内補完”でいける」と締めくくります。
ほほぅ、“脳内補完”。確かに、です。最初のコマで教会が丁寧に描かれていれば、読者は「あ、教会でのハナシね」って理解します。だから以降は、“線”で十分なのでしょう。
以来この“脳内補完”は、コンテンツを作るときにも一考するようにしています。例えば、私はあんまり接続詞を使いません。「しかし」は使うけれど、「また」「だから」「加えて」などは推敲する段階でほとんど削ってしまいます。理由は、特に順接は“脳内補完”で理解できるから。冒頭でキチンと説明できていれば、すでに読者は概要・状況を理解しながら読んでくれているハズです。順接の接続詞が使えるような場面は、すでに“脳内補完”できている状況と言えましょう。あえて明記すると、なんだか“まどろっこしく”感じるのです。「また」なんて、削ったところでたった2文字ですが、それでも、少しでも読みやすくなるのなら、私はバンバン削ります(笑)。
ファッションやビューティ業界でも、“脳内補完”、考えても良いと思うんですよね。こと最近はHow to的な動画や投稿がSNSを席巻していますが、“脳内補完”してかないと、コンテンツってどんどん陳腐化すると思うんです。いつまでも、丁寧に、一から、手取り・足取り教えていくと、本題に進まない(笑)。やたら冒頭が長くなったり、一通りを消費しても「で?」と言う感想に繋がってしまう。YouTubeの世界では、よくあることな気がします。それは、初心者に寄り添っているとも、また少し違う気がするのです。
詰め込みすぎる人は、生真面目なのか?それとも消費者の理解力を見くびっているのか?どちらなんでしょう?“脳内補完”させなくなると、「推し活」とか「概念コスメ」とかも生まれなくなっちゃいそうで、ちょっと不安です。
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