展示会に行くと、会場の雰囲気で「このブランド、今人気があるんだな」というのが如実に分かったりします。2021-22年秋冬の展示会でダントツにそれを感じたのが、クロスプラスによるEC主販路のブランド「ノーク(N.O.R.C)」でした。もちろん、展示会場の入場人数は制限し、体温も計ってコロナ感染対策はしっかりされていたのですが、なんというか、会場に立ち込める訪問者の熱気がすごい。30〜40代向け女性ファッション誌の編集者やライター、スタイリストの訪問率が非常に高く、皆さん仕事モードというよりもいち消費者としてどの商品を買うべきか真剣に吟味していらっしゃいました。こういうブランドって、SNSや誌面への露出が必然的に増えるので、結果さらに売れるんですよね。
さて、「ノーク」は福田亜矢子さんと斉藤くみさんという2人のスタイリストが商品をディレクションしていますが、トータルプロデューサーとしてブランドを率いているのが宮井雅史さんです。宮井さんは遡ること12年ほど前、「キットソン(KITSON)」の上陸を仕掛けてLAセレブカジュアルの一大ブームを生んだ人物。女性の消費の潮流(特にミーハーな分野の)を読むことに非常に長けているので、宮井さんにMD戦略について聞くと毎シーズンとても勉強になるんです。
そんな宮井さんが21-22年秋冬のファッション提案のポイントとして語っていたのが、以下のような内容でした。いわく「コロナ禍も2年目に入り、商品がシーズンレスであることがもはや当たり前に求められるようになっている。春夏か秋冬かなんて、もう関係ない」。確かに、ブラウスやカットソートップス、薄手のプリーツスカート、ウエストゴムのスラックスなどは、コーディネートを変えながら今や年中着続けるアイテムになっています。在宅時間が増えたことや、断捨離が進んで「着回しのできない服はほしくない」という意識が高まったことで、シーズンレス志向はより強まっていると感じます。
こうした変化を背景に、年中着られる(=セールにかけず売り続けられる)中軽衣料を増やすブランドが激増しています。一方で宮井さんは、「シーズンレス志向が強まっているからこそ、どうやったらそこに秋冬らしさを加えられるかという点が重要になる」と強調します。そこで強化していたアイテムがコート。「ノーク」はもともとコート販売に定評のあるブランドですが、21-22年秋冬はさらにコート提案に力を入れていました。近年は暖冬傾向も強いので、コートの企画に及び腰のブランドは多い。でも、「インナーがシーズンレスになっているからこそ、服を買うときの選択肢がアウターに寄ってくる。2枚目、3枚目のコートをいかに買ってもらうかが大事」と、宮井さんは話します。
例えば、ここ数年ウィメンズのマーケットでコートの主役になっているウールのダブルフェースコートは、カーディガン感覚で着られるものと、もう少し厚手のものというように、厚みの異なる2素材で企画。ピンク、ベージュ、キャメル、ライトグレー、グレー、黒の6色(ポップアップストアなどでは他の色も展開予定)をそろえており、価格はガウンコートタイプで3万2000円(税込)です。はっ水加工で汚れが付きづらいといった点もアピール。実際、ダブルフェースのウールコートって、パステルカラーが人気なので汚れやすいんですよね。こうした機能性の打ち出し(「自宅洗濯可能」など)は、ブラウスやニットなどでは今や当たり前になっていますが、「ノーク」は今年コートでも機能性の発信を徹底しています。コートでここまではっきり打ち出しているところって、案外少ない気がします。
他にも、去年も販売好調だったというキルティングコートは中綿からダウンに変えてパワーアップ(2万4000円)。ぬいぐるみのようなボア素材のテーラードコート(2万9000円)や、布団のようなパデッドコート(2万4000円)など、ウール、非ウール含めとにかくコート提案が豊富です。そして、百貨店などでポップアップストアは行えど、主販路はECなので価格が抑えめ。この点も「ノーク」が支持されている大きなポイントです。
売れているブランドには、売れている理由がある
コート以外に、ニット類も「シーズンレス商品に秋冬らしさを加える」点で注力していました。こちらも、「コスパのよさ(値段に対してお得感がある)」を打ち出しています。例えば、スーパーキッドモヘア(繊維が細く柔らかいモヘア糸)を使ったセーターは2万5000円。「セレクトショップなどで売られている同等の商品なら1万円前後は価格が高くなる」と胸を張る商品です。
「ノーク」の商品は、アイテムのサイズ展開が比較的豊富で、丈感やボリューム感を自分で選べるという点も魅力。背の低い人がフロアレングスのコートをあえて選んでもいいし、ボトムスとのレイヤードを想定して短めの丈を選んでもいい。「何を着るかより、どう着るかが大事」という話はここ数年言われ続けていますが、そうした世の中の流れを実に上手くつかんで提案しているなと思います。客の要望を反映して、21-22年秋冬からはパンツなどのサイズ展開をさら増やし、5サイズにしていました。
売れているブランドには、売れているだけの理由がある。「ノーク」の展示会に行くと毎回そう感じますし、逆に言うと、展示会でどうにも戦略が曖昧だと感じるブランドって、店頭を見てもやはりなんだかぼんやりしています。それだと、客側も何を買えばいいのかが分かりづらいんですよね。D2Cのチーズケーキ専門店が注目を集めていますが、今の時代って、総花的にさまざまなものをそろえるよりも、コートならコート、ニットならニットと、注力アイテムを徹底的に打ち出す方が、分かりやすくて客の心に刺さりやすいような気もします。もちろん、全体としての見え方が重要になる実店舗メインの商売だと、そういうこともなかなか難しいんですが…。そんなことを考える展示会でした。