中里唯馬が手掛ける「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は、参加10回目となるオートクチュール ・コレクションを7月にオンライン上で披露した。オンラインでの発表は今回で3回目。過去2回はコレクションができるまでのドキュメンタリー映像を制作したが、今回は王道のランウエイ形式で、横浜港の大さん橋ホールで行ったショー映像を配信した。
声という個人データを元にした
究極のオートクチュール
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ショーは”呼び起こす"を意味する「Evoke」と題し、暗闇の中に響く波の音に合わせてスタート。中央に開かれたカーテンからの一筋の光が、ランウエイを作る。今季はこれまでブランドが独自で開発してきた素材をアップデートし、オートクチュール の新しい"1点モノ"の在り方を模索した。ファーストルックは、ブランドが開発した特殊な付属を使って針と糸を使わずに衣服を形成する"タイプ-1(TYPE-1)"の新作。破棄される予定だったレザーをつなぎ合わせて、着物のようなコートドレスに仕立てた。
今季の着想源を「心地よさを感じる人の声」と中里は説明する。「その声という人が持つアイデンティティーを洋服にできれば、究極のオートクチュールになるのではと考えた」という。今回、元にした声の主は、環境問題を象徴する動物のクジラだ。"新しい時代の変わり目のシンボル"としてクジラの声のデータを使い、その振動を柄におこした。親会社スパイバーの微生物発酵を使ったタンパク質素材「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)」を、デジタル上でコントロールしたテキスタイル"バイオスモッキング(Biosmocking)"で振動の形を凹凸に浮き上がらせ、その独特な模様を使ったドレスが出来上がった。BGMにもクジラの声が使われ、坂本龍一がクジラの声を使った楽曲「WHALES」など、水にまつわる曲を選んだ。
「ブリュード・プロテイン」の西陣織と
多様な人々を包む着物にヒントを得たシルエット
また西陣織で有名な1688年創業の細尾とのコラボレーションも実施。「ブリュード・プロテイン」の糸で織り、一般的な染色よりも少ない水とエネルギーで色付けし、新たな西陣織生地でドレスを作り上げた。さらに今季はメンズモデルが登場。服の形は、浮世絵からヒントを得た着物のような長方形のパターンで構成し、多様なジェンダーや体型、年齢の人々を包み込む。
中里は"1点モノ"の概念をあらゆる角度から捉えて、新しいクチュールの在り方を模索するデザイナーであり、研究者だ。スパイバーとタッグを組んでからは、布を水や熱を加えて加工するなど、科学的実験を繰り返しながら素材開発に励んでいる。そして未来のデザイナーを育成・支援するファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」を、発起人の一人として立ち上げた。未来を見据えた中里と、彼の元に集まる才能から、今後もファッションのイノベーションが生み出されていきそうな希望を感じる。