プレミアアンチエイジングが展開する「デュオ(DUO)」「シトラナ(SITRANA)」が中国で存在感を放ち始めた。2021年第1〜3四半期の海外売上高は前年同期比60%増と成長。今年2月には上海に現地法人・蓓安美(上海)化粧品有限公司を立ち上げた。これまで中国本土での知名度はさほど高くなかったという両ブランドは、なぜ短期間で成長できたのか。
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「DUO」の海外展開は2019年からだが、昨年2月に中国本土でTモール(Tmall)海外旗艦店を立ち上げ本格進出した。現地法人の福地智也・総経理は「国内市場が成長する中で、これから先さらに大きい市場を見据えると中国市場は欠かせなかった」と話す。2月に立ち上げた現地法人は現在5人で、代表以外はローカル採用。製品企画やマーケティングは現地法人が行い、日本の越境EC担当メンバーとも情報をやりとりして新しい施策を打ち出す。現地法人の設立は「デュオ」だけでなく、「シトラナ」の展開を見据えたものだ。
「そもそも『シトラナ』は中国の敏感肌市場を狙ったブランドで、中国目線の製品作りをしている」と福地総経理。中国では敏感肌ケア市場が伸び続けており、智研コンサルティングによると2020年は前年比23.3%増の約168億元(約2852億円)規模に達した。「シトラナ」は中国で敏感肌ケアに人気の成分、シカ(CICA)をキー成分として使用する。また当初から中国を狙った処方のため、中国国家食品薬品監督管理総局(National Medical Products Administration、NMPA・旧CFDA)の登録が済み、一般貿易で販売。「デュオ」は未だ越境ECのみの販売だ。
両ブランドとも製品処方は日本と変わらないが、打ち出し方は異なる点もある。福地総経理は「まずはスター製品作りが大事。中国ではベタつく質感が嫌われるので、『シトラナ』のスター製品『シカ リペアクリーム』は乳液クリームという呼び方をする」と話す。「シトラナ」は立ち上げ直後だが、既に一部で注目が高まっている。
中国のファン経済と口コミが起爆剤
これまでKOL(Key OpinionLeader)の投稿やSNS上の口コミ、ライブコマースなど認知向上の施策を行ってきたが、大きく影響したのは現地アンバサダーだ。起用したのは中国で話題のボーイズグループ、INTO1(イントゥーワン)の日本人メンバー。「デュオ」は賛多、「シトラナ」は力丸がスター製品の顔となった。2人は中国芸能界の中でも旬の人物で、プレミアアンチエンジング以外にもさまざまなブランドで起用されている。
福地総経理は「ハイブランドの起用も多い2人だが、早めから起用を決めたことでアサインできた。ファン経済消費にうまくハマって売り上げと認知度が上がった。ただ2人の起用はトラフィックだけが理由ではなく、日本ブランドというイメージ付けの効果や、ブランド価値とのマッチという点でも最適だった」と意図を語る。現在はブランド公式ウェイボー(Weibo)やTモール販売ページでアンバサダー画像を掲載しているが、「今後はライブコマースへの起用施策など、より多くのSKUを買ってもらうための戦略を考えていく」という。
アンバサダー施策による効果は初回売り上げだけでなく、リピート購入の増加やライブコマースのアサインにも影響した。「実績がない製品はライブコマースで紹介してもらいにくいが、認知が拡大したことでライバーから選ばれやすくなった」と福地総経理。
中国での爆発の起点となるアンバサダー起用には、4月に発表した中国大手テクノロジー企業テンセント(Tencent)との戦略提携が関係する。アンバサダー2人が所属するINTO1は、テンセント傘下の動画視聴サービス「テンセントビデオ」のアイドルサバイバル番組「創造営2021」から誕生したグループだ。
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テンセントとの戦略提携のメインは、テンセントクラウドの「スマートリテールソリューションズ」の活用。ウィーチャット(WeChat、Weixin)を起点に、ミニプログラムや公式アカウント運営、また動画やライブ配信などのコンテンツを活用したEC、プロモーションなど幅広く売り上げ拡大に向けた取り組みが行われる。
「日本ブランドというだけでは難しい」今後の課題は?
こうした戦略の背景には、中国ブランドの台頭による危機感がある。福地総経理は「中国ブランドはコスメだけでなくスキンケア商品も伸びている。中国ブランドはマーケティング方法もクイックで、リピーターを囲い込む顧客管理まで独自で行うし、ファイナンス重視で積極的に投資して成長する。消費者の思考も変わり、日本ブランドがどんどん難しくなっている」と現状を伝える。
中国ブランドの成長は、2000年以降生まれの若者の影響が大きい。彼らは消費の中心となりつつあり、自国製品を支持する傾向が強い。また化粧品成分に注目する人が増えており、消費者自ら化粧品成分を細かく調べる。成分という“効果の裏付け”によって、国産品を選ぶ人が増えているのだという。
「日本ブランドに対して効果の期待感はあるものの、そこまでの優位性ではない。日本ブランドというだけでは売れない時代が来ると思う。大事なのは中国カルチャーに合わせてメッセージを発信すること」と福地総経理。現地アンバサダーの起用やウィーチャットを活用した施策も、カルチャライズの一環だ。
今後は中国で注目されている顧客管理の手法、プライベートトラフィック(私域流量)の構築も計画している。これは昨年、米国ニューヨーク市場で上場した中国化粧品企業、逸仙控股(YATSEN)が代表ブランド「完美日記(PERFECT DIARY)」を数年でトップブランドに押し上げた手法とされる。プライベートトラフィックの構築は、ウィーチャット上のグループチャットで顧客とコミュニケーションを取るのが主流だ。
今後の展開について、福地総経理は「中国の消費者は試してから買いたい、確認したいという要求が強く、在日の友人にリサーチをする、SNSをチェックする人が多い。そういった点ではオンライン消費が盛んな中国でもオフラインの役割は大きい。まずはECで認知を向上し、オフライン展開したい」と計画を語った。