6月にセレクトショップ担当となって展示会をぐるりと回り、気になったブランドがあった。ワークパンツを主とする日本のファクトリーブランド「シオタ(CIOTA)」だ。デビュー2年目ながらベイクルーズはエディフィスとジャーナルスタンダードで、ユナイテッドアローズはユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシングとスティーブン アランで扱い、ほかにシップス、ジュンのアダム エ ロペ ワイルド ライフ テイラー、パルのブルームアンドブランチなどもラインアップする。売れる理由はどこにあるのか?荒澤正和ディレクターに話を聞いた。
WWD:2022年春夏シーズンから取材、リースを断っているとか?
荒澤正和「シオタ」ディレクター(以下、荒澤):偉そうにするつもりはなく、純粋にマンパワーの問題だ。時間は有限で、僕のすべきことは服を作ること。優先順位をつけると、どうしても手が回らなくなってしまう。
WWD:では、なぜ今回取材を受けてくれた?
荒澤:「面白い記事にしてくれる」と言ってくれたからだ(笑)。
WWD:あらためてプレッシャーがかかるが……、ブランドの自己紹介からお願いしたい。
荒澤:デビューは19-20年秋冬シーズンで、商品構成はメンズとウィメンズが半々。当初35歳以上をターゲットにしていたが、顧客には20~30代が多い。中心価格帯はパンツだと2万円台後半で、アウターだと6万~8万円だ。
WWD:「シオタ」の最大の特徴は、自社一貫生産のファクトリーブランドであることだ。一方で、同様のブランドは過去にもたくさんあった。なにゆえ売れている?
荒澤:こんな話がある。落語家の立川談志がタクシーに乗った際、運転手が「芸人は楽でいいね、テレビに出て面白おかしく話しているだけで金が入ってくるんだから」と絡んだ。それに対して談志師匠は、「その通りだよ。だったら、なんであんたはやらないんだ?」と返したとか。「シオタ」も同じというか、スビンコットンを使ってパンツを作っている“だけ”とも言える。スビンコットンの良さをユーザーに知ってもらいたくて、多くの企業・ブランドに参入してほしいとも思っている。スビンコットンの評判が広まれば、「シオタ」もいっそう売れるからだ。
WWD:確かに全てのコットンアイテムに、希少価値が高い超長綿のスビンを使っていることも「シオタ」の特徴だ。荒澤ディレクターにとって、スビンコットンの魅力とは?
荒澤:はき心地の良さに尽きる。僕はビンテージ「リーバイス(LEVI'S)」のコレクターでもあるのだが、35歳ぐらいからごわごわしたジーンズをはくのがつらくなった。それはユーザーも同じだと思う。20年のキャリアの中でさまざまなコットンを見てきたが、費用対効果を考えた際、スビン以上のものはないというのが現在の見解だ。
WWD:そのスビンコットンを使ったジーンズは「シオタ」のキーアイテムだが、ブランド立ち上げ直前まで商品構成に入っていなかったとか?
荒澤:ジーンズは好きだし得意と自負していたが、「リーバイス」という圧倒的な存在もあり、作らなくてもよいのでは?と考えていた。しかし、シオタの工場でサンプルを作ったところ、あまりのクオリティーの高さに“作るしかない!”と考えをあらためた。ジーンズ市場をレッドオーシャンと見る動きもあるが、スビンコットンを使うことで光が見えた。値段は高くとも、はいて気持ちのいいジーンズを訴求したかった。
WWD:「シオタ」のジーンズの価格は?
荒澤:人気の本藍染めのダークブルーが3万5200円、そこに加工をくわえたミディアムダークブルーとライトブルーがそれぞれ3万9600円だ。決して安くはないが、「シオタ」以外では出せない価格だと思う。
WWD:というと?
荒澤:ほかのブランドや工場で作った場合、1.5倍ほどの価格になるだろう。
WWD:「シオタ」が値段を抑えられているわけは?
荒澤:ひとえに社長の中野の心意気だ。ファッション業界には“原価率ルール”がある。例えば、1000円でジーンズを作って4000円で売ったら原価率は25%だ。ただし、1000円で作ったジーンズには魅力がないかもしれない。魅力がなければ、いくら安くても売れない。また、得られるもうけは3000円だ。一方で、5000円かけて作って1万円で売るジーンズがある。原価率は50%だが、もうけは5000円だ。そこには2000円の差があり、「シオタ」は後者を選ぶ。見るべきは、率ではなく額。簡単な理屈であり、長いこと唱えてきたが業界内では理解してもらえなかった。中野が初めての理解者だった。
WWD:今後の展開について聞きたい。
荒澤:作り手として、商品が売れるのは素直にうれしい。だが過剰になると、それは一過性のブームになってしまいかねない。そのため、売り上げトップ2のワンウオッシュジーンズとベイカーパンツの販売をこの秋冬からやめる。
WWD:売り上げにも理想形があるということか?
荒澤:「シオタ」の売り上げは小売価格で7億円を突破し、黒字化もできている。当面、20億円を目標とするが、それ以上だと僕の目の届かない商品が増えてしまい、それは「シオタ」の目指すものではない。
WWD:勢いそのままに、10月に初のオンリーショップを東京・代々木上原に出店する。
荒澤:直営店は「シオタ」を立ち上げた当初からの目標だった。スタッフも増員する予定で、人数×7億円というのが理想的なビジネスモデルだ。
WWD:デビュー2年目での出店は予想通り?
荒澤:いや、もう2~3年はかかると思っていた。コロナもあり、いっそう不透明だった。しかし、不動産との良縁もあり決断した。モノづくりでいえばテーラードも得意なので、「シオタ」の別ラインでジャケットやスーツを作ることも考えている。
■シオタ(仮)
オープン日:10月予定
住所:東京都渋谷区元代々木町23-11
「シオタ」の服はカジュアルだが上品さを損なわず、女性客にも受け入れられている。これは荒澤ディレクターのキャリアによるものだろう。また、職人気質な荒澤ディレクターと、それに呼応してイメージを具現化する工場、“餅は餅屋”の理念を理解し合えるビジネスパートナーの存在があってはじめて成立する。いずれも目からうろこの要素ではないが、三位一体となって走り続けることが強みだ。“基本に忠実に”、そんな基本的なことの重要さをインタビューを通じて感じた。