日本のアパレル産業は市場自体の縮小が続く一方で、大量生産・大量廃棄といった大きな課題を抱えている。今後、どう向き合っていくべきなのか。多くの名物企画を生み出し、「グラマラス」「ヴォーグ ガール」などの創刊にも関わった編集出身のファッションエディター軍地彩弓氏は、「既存の枠組みにとらわれず、変革できればまだまだファッションには未来がある。その鍵はサプライチェーンの変革」と説く。アパレル生産のプラットフォーム「シタテル」を引っさげ、日本のアパレル産業改革に挑むスタートアップ企業のシタテルの河野秀和社長との熱い対談をお届けする。
企業の存続は
SDGsと両立なしにはできない
WWDJAPAN(以下、WWD):大量生産・大量廃棄の問題や市場の縮小、サステナビリティやSDGsへの対応など、アパレル産業は大きな岐路にある。現状をどう見る?
軍地彩弓(以下、軍地):消費者と産業、それぞれの立場で分けて考えるべきです。消費者は昔ほど服を買わなくなった。価値観が多様化していて、ゲームやアイドル、マンガ、スマホなど、いろいろなものにお金をかけるようになっているからです。特にインターネットとデジタルの登場で、モノ以外にお金を使っている。一方で産業側は、昔の仕組み、特に作る部分でのやり方を変えられていない。いわゆるサプライチェーンを変えられていない。だから無駄な在庫を抱えて、大量廃棄などの問題が出てしまっている。
河野秀和(以下、河野):2014年の創業当時から、SDGsは人類的なテーマであること以上に、企業経営に直結していると捉えています。企業規模の大小にかかわらず、企業の成長戦略と社会性が一貫していないと、そもそも企業が存続し得ないという感覚が強くある。シタテルを創業したのは、企業がその本業を通じて経済的利益と社会的問題解決をともに追求し、かつ両者の間に相乗効果を生み出すこと、つまりはアパレル産業のそうした課題を解決すること自体が、企業の存在意義と不可分になっています。
軍地:ただ、サステナビリティの究極の解決策はモノを作らない、つまりは資源やエネルギーを消費しないということなので、では何も作らないということでは産業としての持続可能性にはつながらない。私はファッションには人生を豊かにするという大きな魅力があると考えています。なので重要なのは、できるだけ無駄なものを作らない仕組みを作ることだと思っています。
WWD:ではどうすべき?
河野:価値観が多様化した世界において、一つの答えになるのがD2Cモデルだと考えています。D2Cブランドというと、ブランドや企業が乱立していると思われるかもしれませんが、本質的な定義としては、テクノロジーを活用しエンドユーザーと直接の接点を持つ、データドリブンなブランドだと捉えています。小規模であっても、SNSを通じて「ユーザーと丁寧につながる」ビジネスを行って、持続的な成長を実現できる。
軍地:同感です。だからこそ、クラウドソーシングのような、オンラインで、かつ効率的に支援する仕組みが重要になる。「シタテル」が画期的だったのは、アパレル業界では見落とされがちだった作る部分にフォーカスしたこと。日本の縫製工場やテキスタイル工場は世界的に高い評価を受ける優れた企業が多く、「シタテル」の登場でそうした優れた工場に新たな受注を呼び込んでいる。逆にビジネスが活性化しないと、そうした優れた技術がなくなってしまう。
異業種コラボで
1000億円市場を創出!?
WWD:デジタルの力で小さなブランドを活性化できたとしても、大枠での市場縮小は変わらないのでは?
河野:従来のファッションやアパレルという枠組みでは捉えきれなかった市場が、生まれつつあります。当社の関係した事例になりますが、中日新聞や講談社、ゲームIPの会社などの企業がD2Cに特化したサービス「sitateru CLOUD 販売支援」を使って、アパレルを作っているが、休眠会員の掘り起こしやファンビジネスなどで成果を挙げています。これは決して小さな市場ではありません。我々の試算では、コンテンツやキャラクターなどのIP(知的財産)に関連したアパレル市場は1000億円規模で、さらにテクノロジーを活用することで、既存アパレル企業からの潜在市場があると見ています。D2Cは、日本のアパレル市場を掘り起こす、大きなポテンシャルを秘めています。
軍地:アパレルのオープンソース化ですよね。とても面白い視点だと思います。
ゼロから需要を生み出す
アパレル企業は異業種コラボで
真価を発揮する!
河野:ものづくりのインフラとしての役割と並んで僕らが注目しているのが、ゼロから需要を生み出すファッションの力です。軍地さんが冒頭で話されている通り、ファッションには人のクリエイティビティを刺激し、人生を魅力的にする力がある。それを最も上手く活用してきたのがアパレル企業であり、そうしたノウハウを蓄積している。我々の手がけたプロジェクトの一つに、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)社内向けにトライアルで開催した受注販売・生産があります。JAXAのメンバーは非常にエンゲージが高く、グッズに関しても非常に高いアクティブ率だったのですが、継続性を持たせるためには、モノ自体、ブランド自体を魅力的に発展させるだけではなくサプライチェーンの最適化も必要です。そこでJAXAが行った公募企画に新たなウェアのアイデアを提案し、国際宇宙ステーションへの搭載候補品として選定されたのですが、「スノーピーク」とコラボレーションすることでブランドにものすごい奥行きが出ました。一過性の購買行動ではなく、LTVを圧倒的に向上させる手応えを得ており、今後はより積極的にこうしたコラボレーションを多くの企業が実施できる環境を構築して行きたいと思っています。
軍地:産業としてのアパレルは厳しい見方をされる事が増えているけど、私もそうじゃないと考えています。むしろ、チャンスじゃないかと。ファッションの魅力は、多種多様な価値観を表現し、ビジネスにできること。これまではブランドを始めるためにはある一定以上の資金や規模が必要だったけど、「シタテル」に代表されるネットとデジタルを融合したプラットフォームができたことで、そのハードルは格段に下がった。これからは個人の時代で才能ややる気のあるクリエイターがブランドを立ち上げやすくなったことは、ファッションにとって非常に意義がある。シタテルが仕掛ける異業種コラボは、新しいケミストリー(化学反応)を起こして、さらにファッションの領域を拡張すると期待しています。
「sitateru CLOUD 販売支援」、
アパレル市場に異業種を呼び込む
シタテルは2月、在庫ゼロの製販一体型のECパッケージ「sitateru CLOUD 販売支援」をリリースした。受注成立数や目標数を設定でき、クラウドファンディングのように注文数が採算ライン(最低ロット)を超えた場合のみ生産するため、在庫ゼロを実現できる。もちろんシタテルが保有する豊富なサプライヤーネットワークも活用できるため、アパレル以外の異業種の企業も数多く活用している。オリジナルドメインで、かつオリジナリティの高いECサイトで生産から販売、配送までをワンストップでサポートしている。
「sitateru CLOUD 販売支援」の主な機能は以下の通り。
1.Webデザイン機能:管理画面から必要項目を入力するだけでECサイトが完成。商品ページではデザインカスタマイズが可能。SEO対策機能あり。
2.生産連携機能:オンラインでシタテルのコンシュルジュと接続し、OEM生産の依頼がスムーズに。
3.複数企画(ブランド)設定機能:ひとつのサイトで複数の企画を同時に販売可能。企画ごとにサブトップページを持つことができる。
4.受注生産・販売機能:アイテム別に受注成立数・限定数量の設定ができ、さまざまなタイプの受注生産に対応。
5.シークレット販売機能:ショップにパスワードをかけることが可能。社内販売や限定客向けセール用のECとして活用も可能。
6.マーケティング機能/アクセス解析機能:グーグルアナリティクスやフェイスブック広告などのタグ設定に対応。会員データ・購買データはCSVでダウンロード可能。