「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」は、ゾンビのようによみがえり迷走を続ける。
時計業界最大のイベントが、スイス・バーゼルで毎年春に開催される見本市「バーゼル・ワールド」だった。“だった”と言うのには、当然意味がある。他の世界的イベント同様、コロナの影響により「バーゼル・ワールド」は2020年のリアル開催を見送った。そして、その出展料返還をめぐってブランドと対立した。併せて、かねてから高額な出展料やラグジュアリービジネスの場にふさわしくないホスピタリティーに不満が噴出していたこともあり、続々と主要ブランドが撤退。“消滅”していた。
しかし、期せずして驚かされた。同年7月、「バーゼル・ワールド」を主催するMCHグループ(MCH GROUP)が、同見本市に代わる「アワー・ユニバース(HOUR UNIVERSE)」という新たなイベントを21年4月にバーゼルで開催すると発表したのだ。
注目されたのは出展ブランドだ。世界最大の時計企業であるスウォッチ グループ(SWATCH GROUP)や“時計の王様”である「ロレックス(ROLEX)」、日本のセイコーウオッチやLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)傘下の各ブランドが去った中、どこが参加するのか?だが、答えの出ぬままコロナの拡大によって、今春開催予定だった「アワー・ユニバース」はフェードアウト。かつて双璧をなした時計見本市「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ(WATCHES & WONDERS GENEVA、旧『S.I.H.H.』)」が2回目のデジタル開催を行う中、「アワー・ユニバース」はそのアクションもしなかった。
日本の時計メディア関係者の中でも「そういえば、『アワー・ユニバース』ってどうなったの?」状態だった同見本市に、再び驚かされたのが21年の6月。MCHグループが、「バーゼル・ワールド」を復活させるというのだ。「アワー・ユニバース」構想の発表から、1年足らずの出来事だった。
MCHグループはバーゼル・シュタット準州やチューリッヒ市が出資する準公営企業で、財務状況の悪化に伴い20年8月に増資を実施。メディア王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)の次男で、後継者であるジェームズ・マードック(James Murdoch)が率いる投資会社ルパ・システムズ(LUPA SYSTEMS)からの資本を受け入れた。これによって同社は民営化されたが、依然として取締役にはバーゼル・シュタット準州選出の代議員2人が名を連ねる。彼らが今回の復活劇に大きな役割を果たしたことは間違いないだろう。また代議員がバーゼルでの開催にこだわるのは、見本市の経済効果を考えれば当然だ。18年、スウォッチ グループが同見本市からの撤退を表明した際、理由の筆頭に挙げたのが5000万スイスフラン(約59億5000万円)に上る出展料だった。ごく一部の特権階級による金銭主義の運営は、どこか東京オリンピックを想起させる。
「バーゼル・ワールド」は、8月30日からジュネーブで「ブルガリ(BVLGARI)」が音頭を取り、ケリング(KERING)傘下の「ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)」や「ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)」、「ブライトリング(BREITLING)」なども加わり開催される時計見本市「ジュネーブ ウォッチ デイズ(GENEVA WATCH DAYS)」にポップアップの形で参加する。だが、同見本市が発表した10の出展社の中に、メジャーな時計ブランドの名はない。
「バーゼル・ワールド」は、ゾンビのようによみがえり迷走を続ける。