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高まる香りの効用への期待 アメリカの最新香水トレンド

 香りを通じて人々のライフシーンに寄り添ってきたフレグランスは今、そのにおいが持つ体への効用に対する期待が高まっている。パンデミック前から、心を落ち着かせたり、気分を盛り上げたりというエモーショナルなアプローチは取り入れられていたが、この一年でその流れは加速。セルフケアの一環として心身共に健やかに過ごすためのアイテムとしての人気が高まっている。また、香水だけでなく、柔軟剤を含む多くの生活用品に良い香りを求める消費者も増加。オンラインでの買い物が広がる中、ブランドは香りの種類や香調だけでなく、科学的な側面や香りが脳にもたらす作用、エモーショナルな効果について触れることで、店頭で香りを比べなくても魅力が伝えやすくなる。

独自性の高い効用の分析がカギ

 スイスの大手香料メーカー、フィルメニッヒ(FIRMENICH)ではエモーションに焦点を置いたプログラムを通して、香りや成分がどのように気持ちに作用するかを研究している。同社は、世界中での定性・定量的テストを通して、香りが感情にもたらす影響を示すマップを作成。その際、脳波を使った香りの効果測定なども実施し、神経科学的な方法で結果を証明した。例えば、中国ではバラやジャスミン、杉の香りを使った柔軟剤からリラックスのイメージが受け取れたが、インドで同じ効果を生み出すには、より温かみのあるムスク調の香りが必要だったという。

 同社のマテオ・マニャーニ(Matteo Magnani)=チーフ・コンシューマー&グローバル パーフューマリー イノベーション オフィサーは、「心身の健康への関心の高まりは、フレグランス業界に大きな方向性変化をもたらした。われわれのデータでは、消費者の80%がウエルネス体験の向上を求めている」とコメント。香りと衛生の関係性への関心も高く、「46%の消費者がフレグランスに抗菌作用を期待している。機能的なフレグランスとは異なるコンセプトだが、これからの時代に注目すべき考えだ」と続ける。

 アメリカの大手香料メーカーであるインターナショナル・フレーバー・アンド・フレグランス(International Flavors & Fragrances以下、IFF)のアルノー・モンテ(Arnaud Montet)=ヒューマン&コンシューマーインサイト担当バイスプレジデントも、次のように語る。「香水は18世紀まで心の癒しのために主に使用されていたが、近年の香水トレンドはそんなルーツへ戻っている。必要なのは、(従来のフレグランスとウエルネスの)カテゴリー間の壁を取り払ったアプローチ。そうすることで、人工知能(AI)などのデジタルツールを活用したビッグデータを生成し、人の気持ちや感情の働きを神経科学的に読み取ることができた」。ほかにも、4年前に立ち上げたプラットフォーム「サイエンス・オブ・ウエルネス(Science of Wellness)」では、独自のAIと特定の成分を使って、人の意識にもアプローチ。「私たちは新しいステージに向かっている。“マインドフルネス”や“自分を高める”フレグランスへと進化している」と話す。

 IFFの調香師、アン・フリッポ(Anne Flipo)が手掛けた「ロシャス(ROCHAS)」の“ロシャス・ガール(Rochas Girl)”はビーガン処方で、成分の90%は天然由来。ネロリの香りを配合し、リラックス効果を期待できるという。また睡眠を科学的に分析する「スリープ・スコア・ラブ(Sleep Score Labs)」と提携して、睡眠の質を向上する製品開発にも取り組んでいる。

ストレス・睡眠不足解消の効果へ期待も

 日本で香水や化粧品、シャンプーなどの製品に合わせて新しい香りの開発を行う高砂香料工業は、30年以上にわたって神経科学を駆使した香りの脳への効果を研究している。例えば、脳の機能活動を部位ごとに画像化するFMRIを使って、愛や喜びにつながるにおいを嗅いだ際に働く脳の部位を計測。結果、一般的に落ち着く効果があると考えられているラベンダーの香りも種類によっては刺激的で、逆にフレッシュな香りとされる柑橘系についても同じことが言えるという。加えて、同社では、副腎皮質で分泌するホルモンの一つであるコルチゾール値でストレス解消効果の測定も行っている。

 香りの効用への関心の高まりを受けて、ナタリー・エロイン・キャメル(Nathalie Helloin Kamel)=グローバルファインフレグランス責任者は、「この一年で、私たちが受け取る依頼の80%には感情面に関連する内容が含まれるようになった」と言う。さらに「睡眠不足および睡眠の質の低下は、世界レベルで直面している問題だ」とし、睡眠時に機能するフレグランスの開発にも着手している。スイスの香料メーカー、ジボダン(GIVAUDAN)も30年以上神経科学を使った製品開発に取り組んでおり、2018年には質の高い睡眠をサポートするフレグランス設計技術“ドリーム・セント(DreamScentz)”を発表した。その後、20年6月にはフレグランスを通じて幸福感にアプローチする技術“ビバ センツ(VivaScentz)”をローンチ。以来、ビューティやパーソナルケアアイテムに採用されている。

 英国発のフレグランスブランド「ネオム(NEOM)」もまた、ウエルビーイングを意識した製品開発に取り組んでいる。特に人気があるのは、ストレスや睡眠不足の解消、気分のゆらぎへの効果が期待されるマグネシウム配合のボディーバターだという。20年の売り上げは前年比2倍で、21年もさら倍増する見込みだ。ニコラ・エリオット(Nicola Elliott)創業者兼クリエイティブ・ディレクターは、「ウエルネスの分野に関する人々の知識レベルは高まっていて、われわれもそれに応えられるよう開発に取り組んでいる。エッセンシャルオイルのディフューザーなども好調だ。間違いなく多くの人がウエルビーイングを意識した生活様式を取り入れ始めている」と述べた。

自然の心地よさで自分のための香水を追求

 香料などを取り扱うフランスの化学品メーカーであるシムライズ(SYMRISE)は植物由来の有効成分に着目し、カンナビス(大麻)を使った製品開発に乗り出した。合法大麻の使用には賛否両論あるが、同成分はストレスや不安、鬱症状への効果が期待されている。同社は、「香水や化粧品原料、フレグランスの開発における専門知識を融合することで、同分野の高まる人気に応える。カンナビス配合の“ヘンプ・ヴィッテセンス(Hemp Vitessence)”を開発し、お客さまに全面的に満足いただけるソリューションを提供している」としている。

 ティモシー・エヴァンス・ローラ(Timothy Evans-Lora)=シムライズ応用研究科学者は、「消費者はヘンプ(大麻の一種)を健康と結びつけ、リラックス効果や感情的なウエルビーイングをもたらす、今ドキな成分としても注目している」と述べる。同社の調査では、回答者の30%がヘンプに健康全般に対する効果があると考えているという。

 また、19年に自身の名を冠したフレグランス・ライフスタイルブランドを立ち上げたヴェロニク・ガバイ・ピンスキー(Veronique Gabai-Pinsky)も、「天然成分の濃度が高いほど、自然とのつながりを生まれ、人々はウエルビーイングを体感する。それは、誰かのために香水をつけるというアプローチとは対照的で、現実逃避的でもあり、自分のための香水と言える。そして、まるで心地よくて良い香りのする“キラキラしたバブル”に包まれるような感覚をもたらしてくれる」とコメントした。

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