国際連合(United Nation以下、国連)が8月9日に発表した気候変動に関する最新の報告書や、それに続く環境活動家のグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)によるツイッター(Twitter)での訴えを受けて、ファッション業界の環境負荷に改めて注目が集まっている。グーグル(Google)では同日以降、「『イエススタイル「(YESSTYLE)」はファストファッションなのか」に加えて、「ザラ(ZARA)」や「H&M」がファストファッションなのかどうかを問う検索内容が急増している。
ファッションの環境負荷を考える上でファストファッションは、大量生産の仕組みを助長して、長く着られず廃棄物を産んでしまうとして「購買をなるべく避けたほうが良いもの」と捉える風潮は高まっている。しかしそんな考えがある一方で、ファストファッションへの理解や知識が足りていないというのも現状だ。
コンサルタント会社のチェンジ・キャピタル(CHANGE CAPITAL)のジョン・ソーベック(John Thorbeck)会長は、「『ファストファッション』には複数の定義が存在するので、同じカテゴリーでも『ザラ』と『H&M』には大きな違いがある。ファストファッションが全て同じではないが、『ブーフー(BOOHOO)』や『シーイン(SHEIN)』、『ファッション・ノバ(FASHION NOVA)』といったブランドはイメージを下げる要因になっているだろう。価格の安さや品ぞろえの多さを強みにビジネスを展開しているところが非難の対象になっている」と分析する。
ファストファッションの特徴は、最先端の流行を取り入れて低価格に抑えたアパレル製品を、短いサイクルで販売すること。トレンドのアイテムは多くの場合、ランウエイで生まれる流行を元にしている。出版社のメリアム・ウェブスター(Merriam-Webster)は、ファストファッションの定義の1つとして、「生活者にファッショントレンドを迅速かつ安価に届けるファッションのデザイン、制作、マーケティングのアプローチ」を挙げる。生活者は予算やトレンドへの関心に応じて、手頃に新製品を購入でき、ブランド側は早い回転で製品を展開する。その裏には搾取的な生産体制や、販売が不可能と判断された製品を埋め立てて処分するブランドも一部存在する。
「ファストファッション」とカテゴリー分けして消費習慣を考えることは有効か?
ファッション産業の環境負荷の要因にまずファストファッションが挙げられるようになっているが、中には大規模なアパレル小売(商品の企画や製品はせず、販売のみする業種)でファストファッションより安価で大量販売することもあり、場合によってはファストファッション同様に搾取的なサプライチェーンや環境への負担を持つこともある。トゥーンベリ氏の報告書に関するツイートでは、「ファッション業界内の取り組みは不十分。仕組み全体の変革が必要」とし、「どちらのマーケティングアプローチもサステナビリティに貢献しているとは考えにくい」との意見を投稿した。
ロンドンを拠点に置くイギリスの学会、ロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツ(The Royal Society of Arts)の製造・コマース部門が出した6月のレポートでは、「私たちが着る洋服の多くは大量のプラスチックを含んでいる。ファッション企業やブランドの多くはウェブサイトで“環境に優しい”アパレルの販売をうたうが、サイトにあるアイテムの大半は新たに作られたプラスチックが入っている。ポリエステルやアクリル、ポリエステル、ナイロンなど石油原料由来の繊維を使用する」と述べる。その問題点に「これらは生産の際に大量のエネルギーを使用して環境に大きな負担となる、また廃棄された後も、分解に至るまで数千年かかるとされている」と注意する。
循環型経済を推進するイギリスのエレン・マッカーサー財団(ELLEN MACARTHUR FOUNDATION)では、消費習慣の再考を目的に、ファッションの環境負荷に関する認知向上に働きかける。消費者の中で、環境問題を意識して“買わない”選択がなされることも多いが、「それだけでは業界の環境負荷の大きさそのものに影響を与えることは少ない」と指摘する。
同財団が立ち上げた「メイク・ファッション・サーキュラー(Make Fashion Circular)」イニシアチブのジュリエット・レノン(Juliet Lennon)プログラムマネージャーは、「環境問題に関する業界の課題解決のためは、根本的原因にアプローチするべき。長く使えて再利用も可能な、リサイクル素材で作られた製品がもっと必要だ。1.5度指標(地球の気温の上昇を1.5度に抑える目標値)の実現には、サーキュラーエコノミーが欠かせない。アパレルを作るのに使用される材料の1%はリサイクルに回るが、多くは埋め立て処分や焼灼処分されている」と話す。
ソーベック会長は、「大きな変化のカギは2つ。金融業界と生活者の購買習慣だ。今や資金調達をするにあたり、ESG(Environment=環境問題、Social=社会問題、Governance=企業統治)スコアを50%以上満たしていることが必須条件となった。生活者の間では、ブランドに対してサステナビリティや環境問題への言及および行動の実行を求める動きが高まっている」と話す。中でも、Z世代はサステナブルな企業やブランドの動きに注意を払って、意思のある購買を心掛けていると言われる。
今回の報告書で改めて明確になったことは、ファッション業界には2030年までにネットゼロ(二酸化炭素や温室効果ガスの排出量を吸収量などと合わせてゼロにすること)の達成のために多くの時間は残されていないと言うこと。人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」としている。ソーベック会長は、「国連は今回、1万4000件におよぶ研究をまとめ、報告書を作成している。パンデミックの最中である21年に行ったことや、その本気度は企業の動向にも大きな影響を与えるだろう」とコメントした。