ファッション誌が好きで、コレクションスナップに憧れ、「いつかファッションショーへ行ってみたい!」と思うようになったのは17歳の頃だった。当時は全てのファッション誌が買えるはずもなく、コンビニや本屋で何時間も立ち読み。中でもコレクションスナップは、毎シーズン楽しみだった。
そんな少女だった私が、初めてファッションショーを体験したのは東京コレクションだった。知り合った「WWDジャパン」のスタッフに連絡し、「なんでもいいから見せてくれない?」と懇願したのだ。初めてのファッションショーは、今も忘れない。「メルシーボークー、(MERCIBEAUCOUP,)」のショーを後ろの方から目を見開いて観て、感じて、幸せだった。オシャレなゲストと、音楽と、最新のコレクション。ただ、招待状は手元になかった。あの頃、ブランドはどんな招待状を送っていたのだろう?
以降、さまざまなファッションショーを体感してきた。世界中の全てのファッション・ウイークを回ったわけではないが、ニューヨークやヨーロッパを含め、各地では必ず招待状が手元に届いた。それは、時に大きな箱に入った一枚のカードや花々。一体、何人にこれが送られていたのだろう?今は自らブランドを経営しているからこそ、その人数や規模感を思うと鳥肌が立ってしまう。豪華な招待状は、それがなくても、入り口で名前を伝えれてリストにあれば入場可能な現場も多かったのに!!
インビテーションにはワクワクさせられる。ショーまでの時間を盛り上げてくれる、大切な存在であることは間違いない。だが一方で、環境への配慮を欠いていたものは少なくなかった。特別感やハイソなムードを演出するため、ファッション業界は、招待状をまるで昔の仮面舞踏会のそれのように作り続けてきた。招待状はファッションショーに限らず、展示会やサンプルセールの告知に至るまで増え続けた。
ニューヨークでは招待状をデジタル化したブランドが多く、ショーだけでなく、さまざまなイベントも同様だった。それでも、特別感があってドキドキする。一方で資源の無駄は減り、運送のカロリーも減少する。
過剰なラグジュアリー合戦は、そろそろ別の出口を見つけなくてはならない。例えば再生や生分解性、オーガニック素材で作るなど、そろそろ配慮が必要だ。
私もブランドを成長させたいと思っているわけで、インビテーションのあり方には悩んだ。メールでやり取りするデジタルだけでは、パンチが足りない。では、フィジカルでどうアプローチするか?私のブランド「パスカル マリエ デマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS)」が選んだ方法は、シリアの難民キャンプの子ども達にデザインをお願いして、「ファッションと平和」をテーマに自由に描いてもらった絵やシーズンのテーマを招待状に投影することだった。デザイン料は、子どもたちにキチンとお支払いしている。難民という、日本では密接に感じづらい言葉や問題をお客様やメディアに伝えられる有意義な取り組みだった。
とはいえ、私が実際にもらって一番嬉しかったのは、デザイナーが名前や一言を添えてくれた招待状だ。「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」や「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」のサインが入った名前入りの招待状は、もらっただけで泣けた。「そこまでのパワーを持ったブランド、デザイナーにならなくちゃ!!」そう思い、私は日々奮闘を続ける。