マルニ(MARNI)」のクリエイティブ・ディレクター、コンスエロ・カスティリオーニは「わが道を行く」人だ。その歩みの独自のリズムは、20年以上前に「マルニ」を立ち上げた時に、彼女がマスターしたものだ。他ブランドのデザイナーが入れ代わり立ち代わ">
コンスエロ・カスティリオーニ 「マルニ」クリエイティブ・ディレクター:スイス生まれ。夫のジャンニは「フェンディ」のファーを手掛けるレザーメーカーの社長でもある。1994年、「マルニ」をスタート。当初は毛皮のみの展開だったが、96年から布帛、ニット、アクセサリーを加えたコレクションをミラノで発表。2007-08年秋冬にメンズをスタートした
私は自分の直感を信用している。皆わが道を行くべきよ
「マルニ(MARNI)」のクリエイティブ・ディレクター、コンスエロ・カスティリオーニ(Consuelo Castiglioni)は「わが道を行く」人だ。その歩みの独自のリズムは、20年以上前に「マルニ」を立ち上げた時に、彼女がマスターしたものだ。他ブランドのデザイナーが入れ代わり立ち代わりする中、そして、ファッション業界が「今見て、今買う」コレクションというアイデアに取り組む中、カスティリオーニが生み出してきたシーズンレスのファッションは、多くの同業者たちが今こぞって採用し始めたトレンドの格好の例となっている。
「マルニ」を着ている人をみると、今でも感激する
コンスエロ・カスティリオーニ「マルニ」クリエイティブ・ディレクターは、はにかむようにニコッとしながら、「自分がデザインしたものを身に着けている人を見かけるたびに、今でも感激して、うれしさとプライドで身震いしてしまうの」と控えめな口調で明かした。「『マルニ』のファンだろうとなかろうと、一度うちの服を買った人は、必ず戻ってきてくれるわ。それは多分、シーズンレスだからどの服も捨てることなく手元に置いておいて、また身に着けることができるからでしょうね」と、「マルニ」というブランドの“持久力”について穏やかに語った。
ミラノの中心部に位置する彼女が家族と住むアパートメントは、カラフルで温かみがあり、日本人の友人から贈られた村上隆のアートが飾られている。アパートメントの室内装飾は「直感に従って」やるという彼女は、同じ言葉を、自身のクリエイションを言い表すときにも使った。「私は椅子に座って精密な地図を描きだすようにコレクションを作るわけじゃないの」。自身の直感について、「ちょうどその時に好きなもの」と言い切る。採算面を考えて、その直感がぶれることはないという。彼女と話していると、控えめな物腰の中に、気骨さと独立心が確かに宿っていることが感じ取れる。「不本意ではあるけれど、マーチャンダイジングについてはちゃんと耳を傾けるわ。ただし、“ある程度”ね。コマーシャル部門の言うがままになっていたら、コレクションが陳腐でありふれたものになってしまう。私は市場から、そして店舗からの需要については理論的に聞くわ。でも、皆わが道を行くべきなのよ」。
READ MORE 1 / 3 素材フェチのカスティリオーニが語る仕事の流儀
「マルニ」2016-17年秋冬コレクションのファーストルック
2016-17年秋冬コレクションのイメージについて尋ねると、彼女はファーストルックの写真を指し示した。白いバルーンスリーブのブラウスの上に、フロント部分を短くカットした長いブラウンケープを重ね、下はフォレストグリーン(深緑色)のスキーパンツで、幅広のウエストバンドを合わせたルックだ。コレクションはこのルックから発展して生まれたという。「出発点はボリューム、素材、そしてコントラストだったわ。私たちはバルーンスリーブを使って何か違うものを生み出したかったの。そして(このルックの)飾り気のないシルエットは新しいロマンチシズムなのよ」。
彼女はそれぞれのルックを、時には素材の手触りを味わうように写真をなでながら、数少ない言葉で慎重に丁寧に解説していく。彼女がエクスクルーシブな素材のフェチなのは明らかだ。「私たちは素材について膨大なリサーチをするの。それこそ徹底的にね。最終加工についても同じよ。手を抜かないわ」。
ブランドについて話すとき、カスティリオーニはたいてい「私たち」という言葉を主語にする。そこからは7人のデザイナー(そして3人のメンズウエア・デザイナー)からなるチームの固い結束がうかがわれる。「私はトレンドを追いかけないの。私はそのやり方が気に入っているし、それが私たちの仕事の流儀よ」。
READ MORE 2 / 3 業界のトレンドに流されず、わが道を行くマルニ
「男女のショー統合」も「今見て、今買う」もわれ関せず
「グッチ(GUCCI)」は17年からメンズとウィメンズのショーを統合すると発表したが、「マルニ」がこれに倣うことはあるのだろうか?カスティリオーニは、「いいえ、考えたこともないわ」ときっぱり。「『グッチ』には、そのやり方が合っているのでしょう。でも『マルニ』のメンズは、テイストや視点はウィメンズと同じだけど、あまり装飾的にはしない。男性は、やはり男性なのよ。ウィメンズではフェミニンなディテールや装飾を楽しむことができるけれど、メンズのデザインは、特徴的でありながら安心感をもてるものにしなければならないわ。それに、(メンズとウィメンズのショーを)統合するのは、仕事量だけでも膨大な上に、コレクション自体もどちらかに気をとられてしまったり、メッセージが弱くなってしまう可能性がある」。
「今見て、今買う」というトレンドにも頑としてなびかない。夫であるジャンニ・カスティリオーニ=マルニ最高経営責任者は「私たちは絶対にその方向には進まない。『マルニ』は顧客の憧れとなるブランドだ。服が届くまでに、夢を見る時間が必要なんだ」。現在「マルニ」は、レンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)社長が率いるOTB傘下で、世界に60店舗を構えている。15年の同ブランドの売上高は、前年比115%の1億5000万ユーロ(約187億5000万円)だった。
READ MORE 3 / 3 “ショーは業界向け、その代わりに......”
阪急うめだ本店3階のマルニ・フラワー・カフェ。スローフードを取り入れたカフェメニューの他、花や限定アイテムも販売する
カスティリオーニは、ランウエイショーはファッション業界、つまりプレスやリテーラーに向けてコレクションを発信する場と考えている。だがその代わり、同ブランドは広く一般消費者に向けたスペシャルイベントを開催している。娘のカロリーナ・カスティリオーニ=スペシャルプロジェクト・クリエイティブ・ディレクターは、「より多くの人々に『マルニ』を知ってほしい。限られた顧客だけではなく、誰でも参加できるものにしたい」と語る。
例えば、「マルニ」は14年9月からブランド創業20周年記念の一環として、フラワーマーケットを開催している。世界を巡回するこのイベントは日本でも開催された。さらに3月2日にはフラワーマーケットから発展した世界初のマルニ・フラワー・カフェが、阪急うめだ本店にオープンした。
また、4月に開催された「ミラノサローネ国際家具見本市」では、「マルニ・ボールハウス」と名付けたダンスホールを出現させ、招待客に古代コロンビアのダンスを披露した。
同展示会で発表した椅子、デッキチェア、メタル製花瓶などの新ホームコレクションは全てコロンビア製で、家具製作の仕事によって自立を果たした同国女性のグループによって作られた。コレクションの収益の一部は子どもたちのための慈善事業に寄付されるという。
2月には、同ブランド初のアイウエア・コレクション(マーションがライセンス生産)のお披露目に際して、「LookingForMarni(マルニを探して)」と名付けた劇場イベントを開催した。ダンサーは「マルニ」のコスチュームとアイウエアを身に着けて、幻想的なパフォーミングアートを披露した。
マルニ・フラワー・カフェのオープニングの際は、カスティリオーニも大阪に駆けつけた。「デザインする上で、旅行はとても大切」。彼女は約2年前にブータンを訪れ、素晴らしいアイデアをどっさり得ることができたという。その旅行で得たインスピレーションは、旅行後のコレクションに遺憾なく発揮された。「訪れるべき場所も、見るべき展示会も数えきれないほどあるわ。でも、こなすべき仕事も数えきれないほどあるのよ」と微笑みながら彼女は締めくくった。